大広間の後方では、マンガ家のバトルロイヤル風間氏が女性陣相手に似顔絵を描いている。将棋マンガで有名なバトル氏は、日本を代表する似顔絵作家でもある。対象者をパッと見ただけで瞬時に特徴を把握し、イラストにするウデは天下一品。バトル氏の名は、もっと全国に知られていい。
この日はとくに調子がよかったようで、筆ペンを駆使して描いた絵は対象者にそっくり。昨年末の「将棋寄席」では、船戸陽子女流二段相手にヘタをやったが、あのときの屈辱を晴らした形となった。
三浦弘行八段も見える。三浦八段も将棋ペンクラブ会員で、この日も直筆色紙を3枚持参してくれた。朴訥な印象があるが、一昨年の将棋ペンクラブ大賞でのスピーチは心温まるもので、会員からの評判もよかった。いつも陰から将棋ペンクラブを支えてくれる、愛すべき棋士である。
三浦八段は大広間の後方に座ったが、たちまち周りをファンが取り囲み、デジカメやケータイを構える。まるでタイトル奪取後の共同会見のようだ。
将棋女子は、プロ棋士を目の前にして、興奮を抑えきれないようだ。笑顔で三浦八段に話しかけている。三浦八段もとまどい気味だが、まんざらでもなさそうだ。やはり女性がいると、場が華やかになってよい。
右に、関西のS氏が来る。S氏は駒音掲示板の論客で、その鋭い切り込みにはファンも多い。昨年1月に大阪で行われた「LPSA1Dayトーナメント・Bin’s GATE CUP」に出向いたとき、S氏に声を掛けていただき、緊張がほぐれたことを憶えている。今年の関東交流会はほかにも関西からの出席者があり、とてもありがたいことであった。
S氏には女流棋士とのことでいろいろハッパを掛けられたが、私と女流棋士とは住む世界が違うし、なかなか進展はむずかしい。
今度は窪田義行六段が、先ほどの「会見席」に座らされている。やはり多くのデジカメやケータイが向けられている。将棋女子の楽しそうな顔。窪田六段はいつものむずかしい顔だが、弁舌も滑らかだ。
隣のトクタイ(特別対局室)では羽生善治名人・王座・棋聖と村山慈明五段の一戦が佳境を迎えている。私たちにはいっそうの沈黙が求められており、湯川博士統括幹事や湯川恵子さんが「シーッ」のゼスチャーを取る。しかし通夜振る舞いの席じゃあるまいし、これだけの人がいて静かにすることなど、とうてい無理な話だ。
勝又清和六段が見える。勝又六段も将棋ペンクラブ会員である。私は棋士にはあまり話しかけないのだが、勝又六段がすぐ左に座ったので、「将棋世界」連載「突き抜ける!現代将棋」執筆の苦労話などを聞く。と、すぐに別の人に呼ばれた。ここで勝又六段に好手が出る。
「すみません、いま大沢さんと話していたもので…」。
私の名前を呼んでくれたのが好手。一般将棋ファンがプロ棋士に名前を呼ばれるのは、うれしいもの。交流会の出席者には名札が付けられており、勝又六段がそれを見逃さなかったからだが、さすがにプロ棋士だと感心した。
私の向かいにTak氏が座る。Tak氏は某観戦記者の娘婿さん。年に1回この席で顔を合わせるが、いつも温厚で、とても好感が持てる方だ。
「大沢さん、今年は将棋の星が伸びなかったようで…」
と、ジャブをいただく。このフレーズは、ほかの人からも聞いた。みんな、ヒトの成績をよく憶えている。
Tak氏はすでに酒が入っていたが、さらに飲んでいるうち、次第に視線が定まらなくなってきた。相好が崩れ、饒舌になり、いつものTak氏ではない。Tak氏、酒が入ると人格が変わってしまうのだった。
並びの席にいた谷川治惠女流五段が、「あの大沢さん?」と声を上げる。顔を向けると、
「いつもブログ読んでます」
と私に言った。
女流棋士会元会長にこのブログを読んでいただいているとは、ありがたいことである。
だが私は女流棋士会の話はほとんど書かないし、書いても「山口恵梨子もグッショリグッショリ」とか「室谷由紀もグッショリグッショリグッショリ」とか、関係者が読んだらマユをひそめそうな記述ばかりで、申し訳なく思う。これは駒桜に入会しないとマズイだろうか。
けっきょく盛会の中、午後7時に懇親会は終了。Tak氏は大広間に大の字で寝転んでしまった。私は知らないフリをする。ともあれ今年は多くの将棋女子の参加があり、実に楽しい会だった。
二次会は、千駄ヶ谷駅から数分のところにある、中華料理店。参加人数は総勢40余名。田中寅彦九段の姿もあった。きょうはみんなにとことん付き合うハラらしい。店内奥の座敷をすべて借り切ったが、それでも席が足りなかった。
私の隣には例によってT氏が座る。彼は不思議と私の横に来る。対面には幹事のA氏。作家の顔も持つA氏とはいつも文章談議になり、とても勉強になる。ほどよく酒が入っているので、皆さん会話が滑らかだ。
ナナメ向かいに座ったKun氏がケータイを取りだす。羽生-村山の王位戦を観戦するためだ。一昔前では考えられなかったことで、まったく、便利な世の中になった。将棋は、村山五段が羽生玉を引きずり出し、詰めろをかけている。これは村山五段、勝勢か。
大阪のS氏が私の横に移動してくる。関西の人は話が上手なので、たちまち場がにぎやかになった。これが本当の交流会である。
いきなり大人数で押し掛けたので、店の人はてんてこまいだ。次回は予約の方法をもう少し考えたほうがいい。
王位戦は、羽生勝ちの情報が入り、みんな驚いた。直後に△4五角の名手が出たらしい。
Hak氏、Kun氏らが一足早く帰宅し、気が付くと周りに会員はいなくなり、私のテーブルにはS氏だけになった。ふたりだけだと、女流棋士の話にチカラが入ってしまう。S氏の「アドバイス」は熱いが、適当に相槌を打っておく。
と、湯川統括幹事が転がり込んできた。この店に入ったときからバタンキューだったが、ひと眠りして覚醒したようだ。
「キミにはもうひと皮剥けてもらいたいんだ」
湯川統括幹事が座った目で私に言う。「キミの文章は将棋に例えると県代表クラスなんだ。かなり強いほうの。しかしプロではない。ボクはキミに、プロになってもらいたいんだ」
これまた、いつものフレーズである。そこからひとしきり持論を述べると、湯川統括幹事は、
「とにかく次号も何か書いてくれ」
と言った。
何か原稿を書いてくれと言われてもなあ…。何でもいいから書け、と言われればいくらでも書ける。しかし「将棋ペン倶楽部」のステータスに堪えうる話は、相当構想を練らないと、無理だ。いや、参った。
というところで時刻は9時半になり、お開きとなった。楽しい時間にも終わりが来る。また来年までのお楽しみである。それまで皆さん、元気で。
この日はとくに調子がよかったようで、筆ペンを駆使して描いた絵は対象者にそっくり。昨年末の「将棋寄席」では、船戸陽子女流二段相手にヘタをやったが、あのときの屈辱を晴らした形となった。
三浦弘行八段も見える。三浦八段も将棋ペンクラブ会員で、この日も直筆色紙を3枚持参してくれた。朴訥な印象があるが、一昨年の将棋ペンクラブ大賞でのスピーチは心温まるもので、会員からの評判もよかった。いつも陰から将棋ペンクラブを支えてくれる、愛すべき棋士である。
三浦八段は大広間の後方に座ったが、たちまち周りをファンが取り囲み、デジカメやケータイを構える。まるでタイトル奪取後の共同会見のようだ。
将棋女子は、プロ棋士を目の前にして、興奮を抑えきれないようだ。笑顔で三浦八段に話しかけている。三浦八段もとまどい気味だが、まんざらでもなさそうだ。やはり女性がいると、場が華やかになってよい。
右に、関西のS氏が来る。S氏は駒音掲示板の論客で、その鋭い切り込みにはファンも多い。昨年1月に大阪で行われた「LPSA1Dayトーナメント・Bin’s GATE CUP」に出向いたとき、S氏に声を掛けていただき、緊張がほぐれたことを憶えている。今年の関東交流会はほかにも関西からの出席者があり、とてもありがたいことであった。
S氏には女流棋士とのことでいろいろハッパを掛けられたが、私と女流棋士とは住む世界が違うし、なかなか進展はむずかしい。
今度は窪田義行六段が、先ほどの「会見席」に座らされている。やはり多くのデジカメやケータイが向けられている。将棋女子の楽しそうな顔。窪田六段はいつものむずかしい顔だが、弁舌も滑らかだ。
隣のトクタイ(特別対局室)では羽生善治名人・王座・棋聖と村山慈明五段の一戦が佳境を迎えている。私たちにはいっそうの沈黙が求められており、湯川博士統括幹事や湯川恵子さんが「シーッ」のゼスチャーを取る。しかし通夜振る舞いの席じゃあるまいし、これだけの人がいて静かにすることなど、とうてい無理な話だ。
勝又清和六段が見える。勝又六段も将棋ペンクラブ会員である。私は棋士にはあまり話しかけないのだが、勝又六段がすぐ左に座ったので、「将棋世界」連載「突き抜ける!現代将棋」執筆の苦労話などを聞く。と、すぐに別の人に呼ばれた。ここで勝又六段に好手が出る。
「すみません、いま大沢さんと話していたもので…」。
私の名前を呼んでくれたのが好手。一般将棋ファンがプロ棋士に名前を呼ばれるのは、うれしいもの。交流会の出席者には名札が付けられており、勝又六段がそれを見逃さなかったからだが、さすがにプロ棋士だと感心した。
私の向かいにTak氏が座る。Tak氏は某観戦記者の娘婿さん。年に1回この席で顔を合わせるが、いつも温厚で、とても好感が持てる方だ。
「大沢さん、今年は将棋の星が伸びなかったようで…」
と、ジャブをいただく。このフレーズは、ほかの人からも聞いた。みんな、ヒトの成績をよく憶えている。
Tak氏はすでに酒が入っていたが、さらに飲んでいるうち、次第に視線が定まらなくなってきた。相好が崩れ、饒舌になり、いつものTak氏ではない。Tak氏、酒が入ると人格が変わってしまうのだった。
並びの席にいた谷川治惠女流五段が、「あの大沢さん?」と声を上げる。顔を向けると、
「いつもブログ読んでます」
と私に言った。
女流棋士会元会長にこのブログを読んでいただいているとは、ありがたいことである。
だが私は女流棋士会の話はほとんど書かないし、書いても「山口恵梨子もグッショリグッショリ」とか「室谷由紀もグッショリグッショリグッショリ」とか、関係者が読んだらマユをひそめそうな記述ばかりで、申し訳なく思う。これは駒桜に入会しないとマズイだろうか。
けっきょく盛会の中、午後7時に懇親会は終了。Tak氏は大広間に大の字で寝転んでしまった。私は知らないフリをする。ともあれ今年は多くの将棋女子の参加があり、実に楽しい会だった。
二次会は、千駄ヶ谷駅から数分のところにある、中華料理店。参加人数は総勢40余名。田中寅彦九段の姿もあった。きょうはみんなにとことん付き合うハラらしい。店内奥の座敷をすべて借り切ったが、それでも席が足りなかった。
私の隣には例によってT氏が座る。彼は不思議と私の横に来る。対面には幹事のA氏。作家の顔も持つA氏とはいつも文章談議になり、とても勉強になる。ほどよく酒が入っているので、皆さん会話が滑らかだ。
ナナメ向かいに座ったKun氏がケータイを取りだす。羽生-村山の王位戦を観戦するためだ。一昔前では考えられなかったことで、まったく、便利な世の中になった。将棋は、村山五段が羽生玉を引きずり出し、詰めろをかけている。これは村山五段、勝勢か。
大阪のS氏が私の横に移動してくる。関西の人は話が上手なので、たちまち場がにぎやかになった。これが本当の交流会である。
いきなり大人数で押し掛けたので、店の人はてんてこまいだ。次回は予約の方法をもう少し考えたほうがいい。
王位戦は、羽生勝ちの情報が入り、みんな驚いた。直後に△4五角の名手が出たらしい。
Hak氏、Kun氏らが一足早く帰宅し、気が付くと周りに会員はいなくなり、私のテーブルにはS氏だけになった。ふたりだけだと、女流棋士の話にチカラが入ってしまう。S氏の「アドバイス」は熱いが、適当に相槌を打っておく。
と、湯川統括幹事が転がり込んできた。この店に入ったときからバタンキューだったが、ひと眠りして覚醒したようだ。
「キミにはもうひと皮剥けてもらいたいんだ」
湯川統括幹事が座った目で私に言う。「キミの文章は将棋に例えると県代表クラスなんだ。かなり強いほうの。しかしプロではない。ボクはキミに、プロになってもらいたいんだ」
これまた、いつものフレーズである。そこからひとしきり持論を述べると、湯川統括幹事は、
「とにかく次号も何か書いてくれ」
と言った。
何か原稿を書いてくれと言われてもなあ…。何でもいいから書け、と言われればいくらでも書ける。しかし「将棋ペン倶楽部」のステータスに堪えうる話は、相当構想を練らないと、無理だ。いや、参った。
というところで時刻は9時半になり、お開きとなった。楽しい時間にも終わりが来る。また来年までのお楽しみである。それまで皆さん、元気で。