一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

もしも将棋がオリンピックの正式競技になったら

2024-08-08 17:16:29 | 将棋雑考
以前も書いたが、将棋は勝負事でありながら、審判を必要としない稀有な競技である。起死回生の妙手が出ても芸術点は出ず、勝ち負けがすべてだ。むろん、トラブルが起きた場合の立会人は必要だが、基本的には当事者同士の話し合いでカタがつく。
将棋がオリンピックの競技に選ばれるかどうか。囲碁の世界ではむかしからそんなことが言われていて、先日も囲碁の井山裕太三冠が、「囲碁のオリンピック競技化はありうる」みたいな発言をした。
もし将棋が選ばれたとしても、向こう100年は日本の圧勝である。たとえ日本からプロが出場しないというハンデを負ったとしても、日本にはプロに勝つアマがいくらでもいるし、裾野も広い。何しろ社団戦の7部でさえ、アマ三、四段がごろごろいるのだ。
そして「SHOGI」が国際大会になったら、その筋のお偉方が、あっと驚くルールを作るだろう。
「初手から▲7六歩△3四歩に▲8六歩の奇襲戦法は指導」、「中盤、△4二玉~△5二玉のひとり千日手は指導」、「終盤で△9三玉に▲8五金の待ち駒は指導」……などという、指し手に関してのルールはさすがにないと思うが、対局時間は切れ負けになりそうな気はする。これなら確実に決着がつくからだ。
厄介なのは、終了時刻を指定し、その時間になったら見る聞くなしに終了させてしまうことだ。
その際は、AIの評価値で勝敗を決めることになる。だが、オリンピック指定のAIでは「先手53:47後手」で勝敗が決まったとして、別のAIでは「先手49:後手51」だった、とかいう異論が出てきそうである。
また、「先手99:1後手」という評価値が出たとしても、それは先手が最善手をひたすら続けての難解な23手詰であり、先手が読めたかどうか保証の限りではない。それでも先手が勝ち……は議論が出るところである。
そのほかのルールとしては、「対局中に一度だけ、AIの評価値を見ることができる」というのもいいと思う。
自分がいま指している将棋がいいのか悪いのか。よければ自信になるし、悪ければ逆転の秘手を考える。この指南は意外に「使える」と思う。
「対局中に、AI推奨の手を1回だけ見ることができる」もある。ドラマの中では、AIの指し手を見たいがために殺人事件が起きる。これはけっこう魅力的ではないだろうか。
「AI推奨の三択の中から一手を指さなければならない」というのも面白い。ただこれは、バラエティ番組の世界になってしまう。
団体戦ももちろんある。社団戦のように7人一組でよい。この場合、選手を奇数でそろえるのが絶対で、偶数にするから、いらぬルーレットを使うハメになるのだ。
男女混合のリレー将棋もよい。これは勝負事には珍しく和やかな雰囲気になるのだが、オリンピックの会場ではどうなるのだろう。
いずれにしても、夢物語であった。
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リターンマッチの難易度

2024-06-25 20:45:02 | 将棋雑考
20日に行われた第9期叡王戦第5局で藤井聡太叡王は敗れ、七冠に後退した。
ここから藤井七冠が八冠に復帰するには、これからの防衛戦をすべて防衛し、第10期叡王戦本戦トーナメントで4連勝し、五番勝負で伊藤匠叡王に勝たねばならない。
さすがの藤井七冠も厳しいが、可能性は十分にある。
ところで、八大タイトル戦で、リターンマッチの難易度は、どうなのだろう。独断で判断してみた。

【難】
竜王戦
名人戦
王将戦
王位戦
棋王戦
王座戦
棋聖戦
叡王戦
【易】

最難関なのは竜王戦で間違いない。竜王戦は八大タイトル戦の中で唯一、前期敗者の特典がない。1組ではあるものの、予選にあたるランキング戦を戦わねばならない。そこで5位までに入賞し、決勝トーナメントで挑戦者にならなければならない。羽生善治九段が「竜王戦(1組)は決勝トーナメントが2つある」と言ったが、実感がこもっている。
ただし、竜王戦で前期敗者のリターンマッチは5回もある。
次に難しいのが名人戦だろう。順位戦A級も予選がないといえばないが、とにかく10名の強豪ひしめくリーグ戦で、優勝しなければならない。
次に厳しいのが王将戦である。こちらのメンバーも7名ながら、いずれも順位戦A級に劣らないので、優勝も至難の業だ。
次が微妙だが、王位戦とする。王位戦は新参者枠が8名と、リーグ戦に入りやすい。ただしリーグ戦では力を出せないケースも多く、その意味で前期七番勝負敗者にアドバンテージがある。4勝1敗でも優勝の可能性があるのも大きい。
それならもう少し下位に置きそうなものだが、王位戦は、挑戦者決定戦で勝つ必要がある。これがあるから、難易度が高くなるのだ。
次は棋王戦とする。棋王戦は、挑戦者決定トーナメントを5連勝で、挑戦者になれる。ただし2連勝してベスト4に入った時点で敗者復活戦へ回れるので、準決勝戦での緊張がやや薄れるのが難点だ。
ただし準決勝で敗れると挑戦権獲得まで4連勝が必要となり、難しいことに変わりはない。
続いては王座戦とする。後述する叡王戦、棋聖戦と同じ4連勝で挑戦者になれるが、王座戦は持ち時間が5時間あり、対局者が相当深く読み込める。藤井七冠など上位者が短時間で読んでも、ほかの棋士も時間をかけて読める気がするのだ。
次は棋聖戦とする。棋聖戦は持ち時間が4時間。その差の分、下位とした。
最後は叡王戦である。叡王戦も決勝トーナメントの4連勝で済むが、持ち時間が3時間で上位者が有利なうえ、この叡王戦は予選が段位別なので、たとえば九段陣は3名しか本戦トーナメントに行けない。
よって、リターンマッチもしやすいのではなかろうか。
王座戦以下の3棋戦は1敗も許されないので、厳しいことは厳しい。叡王戦も、リターンマッチは一度もない。けっきょくタイトル戦に出るのは、どの棋戦でも難しいのだ。
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加藤九段に新たな段位を贈るなら

2024-06-11 22:14:52 | 将棋雑考
加藤一二三九段が非公式ながら「十段」を所望したのは、いつだったか。加藤九段は中学生で四段、18歳でA級八段、20歳で名人挑戦、タイトルは名人を含む8期、公式戦通算1324勝の大記録を持つ棋士である。言っちゃあなんだが、その辺の九段(失礼)とは比べものにならないほどの実績がある。
加藤九段が2017年に現役を引退したとき、日本将棋連盟は加藤九段になにがしかの肩書を授与するチャンスだった。でもそれはなかった。
もっとも、二上達也九段、有吉道夫九段、内藤國雄九段が引退したときも連盟はノーアクションだったから、加藤九段のときも、このことは容易に予想できた。
そこで勝手ながら、もし加藤九段に新たな肩書を授与するならばどれがいいか、考えてみる。

・「実力制第○代名人」
まず、「実力制第○代名人」問題を片付けておく。これは升田幸三実力制第四代名人のために作られた肩書で、連盟はつねづね、引退して久しい升田九段に、新たな肩書を与えたいと考えていた。
当初は「名誉名人」を考えていたが、升田九段は「名人を取った者が、なんで『名誉』などと余計な単語を付けられにゃならんのだ」と、ガンとして受け付けなかった。
そこで連盟は1988年、「名人を2期以上取り、成績抜群の70歳以上の引退棋士に、『実力制第○代名人』の称号を授ける」として、升田九段に授与した。
ところがこの定義も「名人1期……」とか「名人3期……」とか、諸説あり、現在ではハッキリしない。ただ、名人1期の加藤九段が引退しても九段のままだったから、少なくとも「2期以上の名人」が該当することは分かった。

・「名誉九段」
次に候補に挙がるのがこれである。この肩書は、渡辺東一名誉九段、金易二郎名誉九段、加藤治郎名誉九段、高柳敏夫名誉九段、佐瀬勇次名誉九段の5名が授与されている。しかしいずれも現役時代にタイトル戦に出たわけでもなく、加藤名誉九段、高柳名誉九段などは、観戦記のほうが馴染みがあるくらいだ。
よって「名誉九段」は、まさに名誉的な肩書といえる。現役で輝かしい実績を残した加藤九段には、ふさわしくない。

・「十段」
十段の新設。これが叶えば分かりやすい。もとをたどれば、「九段」も、タイトル名だった。ところが、塚田正夫、大山康晴、升田幸三の名人経験者が無冠になったとき、前の「八段」ではあんまりだというわけで、3氏には特例で「九段」が与えられた。
ところがこのとき、タイトル戦にも同名の「九段」があり、ややこしいことになった。そこで連盟と読売新聞社は協議の末、タイトルを「十段」としたのである。
タイトルの十段が竜王に昇格したいま、以前と同様の理由で、段位の十段を新設しても、なんの障害もない。

・「名誉十段」
この肩書も、ないことはない。授与者はただひとり、塚田正夫名誉十段である。
ただ塚田名誉十段は現役時代、タイトルの九段を3期保持し、永世九段になっている。その実績があるから、タイトルとしての十段に「名誉」がついたと思われる。
加藤九段も「十段」を2期獲っているが、するとこの肩書は、九段もしくは十段の経験者に限定され、後述する棋士が該当しなくなってしまう。
結論として、加藤九段に新たな段位を贈るなら、「十段」がふさわしいと考える。そして同様の理由で、二上九段、有吉九段、内藤九段にも、十段を贈りたい。二上九段に十段を贈るとなると、弟子の羽生善治会長に職権乱用疑惑がのしかかるが、複数の棋士に授けるなら、抵抗もあるまい。
加藤九段は現在も意気軒高で、120歳までは生きるだろうが、新たな段位は被授与者が存命でなければ意味がない。
今年は日本将棋連盟設立100周年。勝ち星による昇段規定が、連盟60周年にあたる年に制定されたことも考えると、今年十段位を新設しないと、機会を逸すると思う。
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竜王戦で5組降級の川上七段はどうなる

2024-05-18 00:12:30 | 将棋雑考
17日、川上猛七段が第37期竜王戦4組の残留決定戦で青嶋未来六段に敗れ、5組降級が決定した。
竜王戦は風通しがいいので降級は仕方ないが、竜王戦Wikipediaを見ると、気になることが書いてあった。
その前に、基礎知識を確認しておく。引退が決定した棋士が竜王戦5組に在籍していた場合、そこから2期の参加延長となる。仮に4組在籍だった場合は、制限なしで参加できる。
川上七段は第35期に5組でスタートしたが、決勝まで進出し、4組に昇級した。ランキング戦では先崎学九段、森下卓九段、南芳一九段など、元A級を撃破しての決勝進出だったから、4組昇級の価値は十分あった。
しかしフリークラスのほうは2023年3月末日に10年満期となり、川上七段は竜王戦だけが参加できることになった。現役引退棋士が4組、という初のケースだった。
翌第36期はランキング戦4組1回戦、昇級者決定戦で負け、残留決定戦に回ったが、A級の中村太地八段に勝ち、奇跡の残留を決めたのだった。
だが川上七段は今期も4組の1回戦、昇級者決定戦と負け、そして今回、青嶋六段に屈したわけである。
これで5組に降級したわけだが、ふつうに考えれば、5組は2期在籍が可能だから、第38期、第39期も参加できると思う。
ところがWikipediaには、5組の2期在籍は、4組の在籍期間も含む、とあった。
とするならば、川上七段は第36期、第37期と4組に在籍したから、今回の降級で即、引退ということになってしまう。
本当だろうか?
主催者は、順位戦の結果だけで(現役)棋士生命が縮められるのをよしとせず、延命ルールを構築したのだと思う。
それが今回新たに見つかったルールでは、棋士生命をあえて短くしているかのようである。
もういっそのこと、竜王戦独自の降級点制度を作ったらどうだろうか。
川上七段の去就は、20日に分かる。
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改姓の理由

2024-01-05 23:35:13 | 将棋雑考
2024年は能登大地震、羽田空港での炎上と、大波乱の幕開けとなった。そんな中、将棋界での大ニュースといえば、里見香奈女流四冠の結婚報告であろう。
言うまでもなく里見女流四冠は、女流棋界の顔である。よって私は、里見女流四冠が勝負の世界に身を捧げ、結婚とは無縁に生きるものと認識していた。それが結婚とは……。
だがそう言われてみれば、最近の里見女流四冠はメガネからコンタクトレンズに替え、妙に綺麗になっていた。ひろみGoの名曲を引くまでもなく、「恋する女は綺麗」なのである。その美貌の陰には、愛する男性がいたわけだ。
いずれにしてもめでたいことなのだが、私はどこかでその結婚をよろこべないところがある。私は里見女流四冠と面識はないし、今後も目にすることがないだろう。だがそうした歪んだ感慨を抱くのは、私がいい歳をしてチョンガ―だからだろう。
それはともかく、意外なことがひとつある。里見女流四冠はファイティングネームも変えたのだ。「福間香奈」とはなんぞや。情報によると、旦那さんの福間氏は、元奨励会員・福間健太氏とのことだった。
それで思い出した。福間氏は、元奨励会三段である。2014年4月から始まった第55回三段リーグでは序盤から飛ばし、15局を終えた時点で13勝2敗。3局を残してマジック1とした。
ところがそこから悪夢の3連敗。四段昇段はならず、涙を呑んだ。当時ネットでは大きな話題になったものである。
リーグ戦がなかったころなら、13勝2敗の成績は、四段昇段規定を余裕でクリアしている。ところがリーグ戦ゆえ18局まで戦わなければならないところに、今回の悲劇があった。否、13勝5敗だって、本来なら昇段レベルなのだ。福間奨励会三段は、本当に巡り合わせが悪かった。
福間奨励会三段は第56回も参加したが、6勝12敗で昇段ならず。このときすでに26歳で、年齢制限により、この回をもって退会となった。
その福間元奨励会三段と里見女流四冠が結婚したとなると、改姓の理由も見えてくる。すなわち、里見女流四冠は「福間」の名前を、将棋界に残したかったのではないか。そして「福間」の名前を背負うことで、対局時にも福間氏と二人がかり指している暗示をかけたかったのかもしれない。
名前にはある種の力が潜んでいる。「里見香奈」は将棋界で脅威のファイティングネームであり、それを放棄することは勝ち運を逃すことにも繋がると見ていたのだが、上の考えに倣えば、「福間香奈」も相当な存在感である。今後の福間香奈女流四冠の活躍に期待したい。
福間先生、あらためてご結婚、おめでとうございます。
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