私は美智子に同情して自分の店で雇用したのだ、なんとお節介で心優しい男だろうと自己満足している
だが本心は、美智子を自分の懐の中に得た満足感で高揚していた
ところが世の中はところてんの筒のようなもので、一方から入ってくれば、一方からは押し出されてしまうのが常なり。
私の店は「太陽スーパー」と言うのだが、これまではずっと安定した経営を続けていた
ところが駅前に5つの隣県に展開する大手スーパーチェーンが開店、さらに隣町にはアメリカ方式の激安食料量販店が開店
太陽スーパーの70%程度の価格、肉などは半値近い日もあって、我が店の毎週土曜一割引きセールなどではとても追いつけない
いまや太陽どころか斜陽スーパーになりかけている。
そんなわけで、この数か月は5人の従業員に対して「こんな売り上げでは半年ごとに一人ずつやめてもらわなければ店は倒産する」などと言い続けてきたのだった
それなのに、ここにきて従業員を一人採用したものだから古参の従業員は穏やかでない
私には面と向かって言うものはいないが、陰では「私たちには辞めさせるようなことを言って、あんな小娘を入れるなんて一体どういうこと?」
「そんなの決まってるじゃない、いつものスケベの病気が再発したんだよ」
なんて言っているのは顔を見ればわかる、というより自分自身がそのように思っているのだ。
従業員がそのようにいうのも無理はない、この店には50歳以下の従業員は店長にしている45歳の男が一人いるだけで、あとの4人の女子従業員は50から65歳なのだ
まずいことに従業員におべんちゃらを使うこともあって、その時には「若いもんなんか世間知らずで役に立たない、やっぱり皆さんのようなベテランが店のために必要なんだよ」などと言っているものだから、すっかり見透かされて
美智子を雇ったことは言行不一致で非常にまずいのだった
そもそも若い女性は私のスーパーに勤めようなんて思わない、駅前のチェーンスーパーか美容院にでも務めるだろう。
そんな心配をしているうちに一週間後に美智子は辞めてしまった
古参の従業員のパッシングに負けたのだろうか、それとも太陽スーパーの経営理念ももたない経営にあきれてしまったのだろうか
ともあれ美智子はあっさり辞めてしまった
私は自分の不甲斐なさを思って、おもわず「悔しい!」と叫んだ。