○村上龍『半島を出よ』上・下 幻冬舎 2005.3
明日から2泊3日の週末旅行を控え、この小説を中断するのがもったいなくて、一気に読み終えてしまった。感想はゆっくり書いたほうがいいかなあ。いやあ、でも、ゆっくり考えても無駄のような気がする。これは詩なのだ。読後の高揚感だけが真実と割り切って、余計なことは考えないほうがいい。
何だか、甘くて強いお酒に酩酊したような気分である。ざらりとした穀物の苦さ。舌先が痺れるような味わい。しかし勧められて飲み続けているうち、酔いとともに微かな甘さが広がっていくような。
実際には、作者は膨大な参考文献を読み込み、政治、経済、軍事、情報技術、建築、医学、動物学など、さまざまな知識と情報を総動員することで、小説にリアリティを与えている。さらに、『脱北者』(晩声社, 2002.6)という書物との出会いを経て、作者は「この書下ろしに関しては北朝鮮のコマンドを『語り手』に加えなければならないのではないかと思うように」なり、ソウルで十数人の脱北者に会ってインタビューも試みたという。その結果、この小説には、北朝鮮から来た侵略者たちが、それぞれ個性的で厚みのある肖像をもって立ち現れている。
しかし、それは「人間の本質に国境はない」みたいな安易なヒューマニズムに還元されるものではない。むしろ、この小説の重要な語り手は、国籍にかかわらず、普通の社会生活を送る人間からは、理解も共感も不能な人々ばかりではないか。殺戮の作法を身体に組み込んだ北朝鮮のコマンドも、社会から見捨てられた凶暴な日本の少年たちも。
そうでありながら、この小説には、そんな彼らの内面に、極限状況でふと去来する人間性が、とても印象的に描かれている。水面にひととき浮かんで消える波紋のように。あるいは強くて苦い酒の中にたゆたう甘みのように。
明日から2泊3日の週末旅行を控え、この小説を中断するのがもったいなくて、一気に読み終えてしまった。感想はゆっくり書いたほうがいいかなあ。いやあ、でも、ゆっくり考えても無駄のような気がする。これは詩なのだ。読後の高揚感だけが真実と割り切って、余計なことは考えないほうがいい。
何だか、甘くて強いお酒に酩酊したような気分である。ざらりとした穀物の苦さ。舌先が痺れるような味わい。しかし勧められて飲み続けているうち、酔いとともに微かな甘さが広がっていくような。
実際には、作者は膨大な参考文献を読み込み、政治、経済、軍事、情報技術、建築、医学、動物学など、さまざまな知識と情報を総動員することで、小説にリアリティを与えている。さらに、『脱北者』(晩声社, 2002.6)という書物との出会いを経て、作者は「この書下ろしに関しては北朝鮮のコマンドを『語り手』に加えなければならないのではないかと思うように」なり、ソウルで十数人の脱北者に会ってインタビューも試みたという。その結果、この小説には、北朝鮮から来た侵略者たちが、それぞれ個性的で厚みのある肖像をもって立ち現れている。
しかし、それは「人間の本質に国境はない」みたいな安易なヒューマニズムに還元されるものではない。むしろ、この小説の重要な語り手は、国籍にかかわらず、普通の社会生活を送る人間からは、理解も共感も不能な人々ばかりではないか。殺戮の作法を身体に組み込んだ北朝鮮のコマンドも、社会から見捨てられた凶暴な日本の少年たちも。
そうでありながら、この小説には、そんな彼らの内面に、極限状況でふと去来する人間性が、とても印象的に描かれている。水面にひととき浮かんで消える波紋のように。あるいは強くて苦い酒の中にたゆたう甘みのように。