見もの・読みもの日記

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楽家の赤茶碗・黒茶碗/三井記念美術館

2006-10-22 19:21:46 | 行ったもの(美術館・見仏)
○三井記念美術館 開館1周年記念特別展『赤と黒の芸術 楽茶碗』

http://www.mitsui-museum.jp/

 天正年間、千利休の創意を受けて、初代長次郎が造りはじめた「楽茶碗」の作陶を、今日に継承する京都の楽家。長次郎から十五代(現当主)楽吉左衞門までの代表作を一堂に集めて紹介する企画である。

 私が「楽茶碗」の存在を認識したのは、つい昨年のことだが、今年の7月、京都の楽美術館に行って「手にふれる楽茶碗観賞会」を体験してきた。印象的だったのは、茶碗の意外な軽さである。特に黒釉をかけた黒楽茶碗は、鉄(くろがね)の武具を思わせるような底光りがあるのだが、手に取ると、あれっと拍子抜けするほど軽い。この展覧会でも、私は展示ケースを覗き込みながら、それぞれの茶碗を手に取ったときの触感と重量感を、一生懸命想像していた。

 楽茶碗の名品は、全て楽美術館が所蔵しているわけではない。今回の展示は、さまざまな所蔵箇所(目録に記載されていない、つまり個人蔵が多い)に散らばる名品をまとめて見ることができて、なかなかの眼福である。

 各代の特徴というのも、少し分かるようになった。楽茶碗のイデーとも言うべき、初代長次郎の重厚な作風に対して、ニ代常慶の作品は、華やかな京焼に接近している。三代道入(ノンコウ)は、透明感のある釉が軽やかな印象を与える。四代一入は小ぶりで求心的な長次郎の造型に回帰し、素朴な質感を好んだ。という具合で、各代は、明らかに前代と異なる個性を選び取っているところが面白い。ちなみに七代長入に至ると、茶道における家元制度の完成と相まって、楽茶碗にもある種の形式化が始まる。

 ところで、ニ代常慶と三代道入のセクションの間に、光悦作の黒楽茶碗『村雲』が展示されていた。これが、思わず唸るほどいい。天に向かって大きく口を開けた見込み、側面にはふくらみがなく、切り立った断崖のように、ストンと垂直に落ちる。小さな茶碗に雄勁な自然美さえ感じさせる(上記サイトに小さな写真あり)。楽家累代の創意工夫の歴史を考えると、天才ってズルいなあ、と思ってしまう作品である。
コメント (1)
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