見もの・読みもの日記

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関西・秋の文化財めぐり(2):仏教美術の名品

2006-10-30 23:19:39 | 行ったもの(美術館・見仏)
○奈良国立博物館 平常展『仏教美術の名品』

http://www.narahaku.go.jp/

 正倉院展(承前)を見終わったあとは、いつものように本館を通り抜けて外に出るつもりだった。

 本館に入って、おやと立ち尽くした。いない――そうだ、もういらっしゃらないのだった。唐招提寺の薬師如来立像のことである。唐招提寺金堂の修理に伴い、2001年1月から奈良博に預けられていた薬師如来は、この夏、6年ぶりに同寺へ戻られたのだ(→奈良新聞の記事 2006/07/14)。天井の高い、光線の明るいホールにマッチした巨像だったので、何だか柱が1本抜けたように寂しい。

 その代わり、中央ホールは、群像で飾られるようになった。新館側から入っていくと、東大寺の二天に迎えられる。治承ニ年の持国天と平治元年の多聞天である。日本史好きなら、この年号を聞くだけで、前後に南都を襲った多事多端が思い浮かぶことだろう。ホールの中央は、あたかも塔の基部のように、心柱を模した抽象的なモックアップを置き、周囲に個性豊かな四像を配する。古代的な悲哀に満ちた法隆寺の多聞天。反対側は、新薬師寺の十一面観音。どっしりと下半身に量感を感じさせる。ほかに小像が2件。その奥は、目隠しのような白い壁を背にして、秋篠寺の彩色乾漆像が2体。以前からこのホールにあったものだ。

 ん?あの白壁の後ろは、本館の正面入口のはずだが?と思って、裏にまわってみたら、東大寺の西大門勅額が飾ってあった。額のまわりに小さな彫像が取り付けられた、楽しい逸品である。なるほど、正面玄関から本館にアプローチしてきた客は、この勅額に迎えられるわけだ。悪くないセンスである。ただ、巨大な勅額の全体像を味わうには、チケットをもぎられる位置より、少し後ろに(エントランスの外へ)下がらないといけないと思う。

 そのほか、現在の展示では、興福寺の緊那羅(きんなら)像が見られるし、薬師寺の八幡三神像、室生寺の十二神将の神(頬杖をつく未神)も見られる。奈良博では見たことのなかった走り大黒も(金沢文庫が初見)。もともと名品に事欠かない奈良博ではあるが、思い切った大盤振る舞いだなあ。これもスポンサーのせいか? 興福寺伝来の四天王(現在は、奈良博、興福寺、MIHOミュージアムに分有されているそうだ)、当麻寺蔵の板光背6件も興味深い。

 最後に、以前から気になっていたところに立ち寄った。奈良博の敷地の東北の隅(東大寺寄り)の道端にある「鴎外の門」という史跡である。もと博物館の官舎の門で、帝室博物館総長をつとめた森鴎外が、奈良滞在中に宿舎にしていたことから、このように呼ぶのだそうだ。開けたら明治につながっていそうな門である。


コメント
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