見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

歌のように/君がいない夜のごはん(穂村弘)

2011-09-15 23:29:09 | 読んだもの(書籍)
○穂村弘『君がいない夜のごはん』 NHK出版 2011.5

 ぜんぜん知らない著者の書いた、知らない本なのに、たまたま開いた箇所を読んでみたら面白い。立ち読みがやめられなくなって、これは当たりだ!と思って買って帰る。そういう本との出会いが、ときどきある。そもそも、直感的に本書を手に取った理由は何だろう。あとから首をひねって、タイトルの小気味よさに惹かれるものがあったのではないか、と思った。「君がいない/夜のごはん」って、字数の揃い具合が、まるで歌のリフレインみたいじゃないか。

 本書は、雑誌『月刊ベターホーム』と『きょうの料理ビギナーズ』の連載エッセイをまとめたもので、「食べ物とその周辺についての文章」から成っている。ただし、本書を読んでも決して料理はうまくならなし、会食の席で自慢できるようなウンチクは全く増えない。あまりにも変化球すぎる「食べ物エッセイ」集なのだ。

 だけど、分かる。私たちは、目の前の食べ物を本当に味わっているのではなく、脳で食べているとか、「おいしい」「まずい」以外に「かっこいい食べ物」というのがあるとか、完璧な食生活にあこがれながら、つい、ぐだぐだな日常に堕ちていくトラップとか…。特に、ダイエットの失敗、味オンチなど、さらけだされた著者のダメっぷりが可笑しい。過剰に露悪的ではなく、ダメな小者っぷりが、いつまでもじわじわと可笑しいのだ。

 「炭水化物は食べません」などという平成生まれの若者を眩しく感じ、「パティシエ、パティシエ」とつぶやいてみて、よし、言えたぞ、と確認する。かなり、おじさんっぽいのだが、一方で「がーん」とか「ううう」とか、平気で書いてしまう。いや、使うけどね、私も。何歳くらいの方だろう、と思って著者紹介を見たら、だいたい同世代だと分かった。ついでに主著書を見て、へえ、このひと「歌人」なんだ、とびっくりした。なるほど。日本語の感覚が鋭いはずである。
コメント
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