見もの・読みもの日記

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創意と技巧/華麗なる京蒔絵(三井記念美術館)

2011-09-27 01:07:42 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 特別展『華麗なる〈京蒔絵〉-三井家と象彦漆器-』(2011年9月17日~11月13日)

 とりあえず、蒔絵だ~と思って見に行った。8月末に、大和文華館の『漆工展』を見にいって、蒔絵のほかにも螺鈿・平脱・沈金など、さまざまな類似の技法があることを見てきたので、ちょうどいいと思っていた。それから、繊細なイメージの蒔絵工芸にも、意外と「豪快」な作品があることも覚えて帰ってきたところだった。

 『嵐峡春秋蒔絵文台硯箱』は、かなり大胆にダイナミックな線を刻んでいる。触ったら表面がデコボコなのではないかと思う。しかし、近世初期の「豪快」さとはちょっと違う。入口で貰った出品目録を見直し、本展の出品作品が全て、明治~昭和時代前期の「近代」作品であることに、あらためて気づいた。近代の工芸品って、力を入れるにも抜くにも、どこか大真面目な感じがする。だが、その真面目さが、360度反転して、得も言われぬ味わいになっているものもある。

 以下、気に入った作品を挙げていくが、最初の展示室に多い「硯箱」は、必ず蓋裏を覗いてみることを忘れないでほしい。特に『几帳蒔絵硯箱』は秀逸。

 『宝相華文蒔絵二重手箱』は、正倉院宝物を目指したものだろう。ただし、直接のモデルは見つけることができなかった。あくまで正倉院宝物ふう、ということか。

 『両替年代記蒔絵硯箱』は、4冊の和装本を重ねた姿を写しており、型押し紙の表紙や小口(こぐち)の風合いがリアル。中を開けると、蓋裏にホンモノの小判や銀貨、銅銭が象嵌(ぞうがん)されている。三井高雅が『両替年代記』の校註を出版した際の記念というのが、オシャレ。

 『月宮殿蒔絵水晶台』の創意には目を見張った。荒海の中に聳え立つ岩山を表現するのに、色とりどりの孔雀石・水晶・方解石などの大きな塊が象嵌されている。いや~自由だなあ~。しかも、全て「三井鉱山で産出した鉱石」だというのに笑ってしまった。

 『柳橋蒔絵冠卓』は、屏風絵のモチーフとしておなじみの柳橋水車図を卓(しょく)に用いたもの。これが、なんともいい。上下2枚の板を重ねる構造になっているのが、水面を表すのに効果的である。ここまで、全て上記サイトに画像ありなのが嬉しい。

 画像が欲しかった!と思うのは『宇治川先陣料紙蒔絵硯箱』。大きな「料紙箱」には、名馬・磨墨(するすみ)に騎乗した梶原景季が馬の腹帯を調べ直している図、小ぶりの「硯箱」には、生食(いけずき)に騎乗した佐々木高綱が先陣を急ぐ図を描く。両者とも漆黒の背景が緊迫感を高める。高綱の馬はすでに波間に腹が没しかけていて、川の中ほどに達していることを示す。佐々木高綱(佐々木源氏)は三井家の先祖と考えられているそうだ。

 なお、象彦(ぞうひこ)のページを見にいったら、京都本店にショールームがオープンとか、日本橋東京店で展示会開催中(一緒に寄ればよかった!)とか、いろいろ情報あり。店主便り「ひこぞうのよもやま話」のアイコンもかわいい。ちなみに「象牙屋の彦兵衛」で「象彦」なんですね。

 会場には、三井家が象彦に与えたパトロネージを具体的に示す文書も参考資料として展示されている。歴代当主の中でも、特に象彦の蒔絵を愛好したのは、北三井家(総領家)の十代・三井高棟(たかみね)(1857-1948)で、皇室への献上品をしばしば象彦に注文し、三井社として購入(今なら許されない公私混同だが)、皇室の慶事に際して献上した。献上品は、今も宮内庁三の丸尚蔵館に所蔵されているものもあれば、別の誰かに「下賜」されて伝わったものもある。なるほど、美術品って、こういうルートで動いていたのか、と感心した。
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