見もの・読みもの日記

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異類憑き萌え/文楽・御所桜堀川夜討、本朝廿四孝

2014-02-27 23:00:43 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 2月文楽公演(2014年2月22日) 第3部『御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)』『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』

 同日の舞楽公演に続いて、文楽公演の第3部を見る。『御所桜堀川夜討』は弁慶上使の段。ずいぶん昔に一度見た記憶があるが、その頃は、近世演劇・文芸における弁慶の活躍ぶりがよく分かっていなくて、え?堀川?なぜ京都に弁慶がいるの?というのが不可思議だった。こうしてみると、平家物語に取材した歌舞伎・文楽作品って多いんだな。しかも原作を離れて、自由に二次創作の翼を広げているのが面白い。

 『本朝廿四孝』は「十種香の段」と「奥庭狐火の段」。この演目があるのを見て、何としても東京公演に行かねば!!と思い立ったのである。昨年1月、大阪の国立文楽劇場・新春公演で、初めてこの演目を見て、椅子にへたり込むような衝撃を受けた。「奥庭狐火の段」の桐竹勘十郎さんが、とにかく凄かったのである。まるで彼の熱演が霊狐を引き寄せたかのように。

 「十種香」は豊竹嶋大夫と豊澤冨助。嶋大夫さん、安定してるなー。八十翁に「安定している」って感想もないものだが。上手の一間の内では、亡き許婚の勝頼の絵像(いえぞう、と発音していた)の前で手を合わせる八重垣姫(蓑助さん)。下手の襖がするすると開くと、勝頼の位牌を前にした腰元の濡衣(ぬれぎぬ)(文雀さん)。八重垣姫は、ほとんど客席に顔を向けず、後ろ姿だけで、初々しくも艶なる嘆きを表現する。そこに現れる花作り蓑作こと武田勝頼(玉女さん)。三者が舞台に揃ったときは、うわーなんという贅沢な配役!と胸の内で唸った。恋の炎を燃え上がらせた八重垣姫は、腰元の濡衣に、必死で仲立ちを頼む。「勤めする身はいざしらず、姫御前のあられもない」と呆れる濡衣。この「姫御前にあるまじき大胆さ」という設定に萌えたんだろうなあ、当時の観客は。 

 場面変わって「奥庭狐火の段」。呂勢大夫、鶴澤清治、ツレの清志郎という顔ぶれは、大阪公演のときと同じだ。青い薄闇の舞台に狐火が飛び、白狐が登場する。出遣いの桐竹勘十郎さんも白地に狐火を描いた裃で飛び回る。と、舞台から引っ込んだと思いきや、フツーの裃になって、八重垣姫を遣って再登場。人形遣いの「早変わり」って、あまりない演出だと思う。

 恋人・勝頼の身を案じる八重垣姫の一念が、諏訪法性の兜に奇跡を呼び覚ます。霊狐と一体化した姫は、赤い振袖から、狐火柄の白い着物に変身。手足を縮め、宙に浮かんで、右へ左へ激しく踊り狂う。勘十郎さん、何度見てもカッコいい! そして、この「異類憑き萌え」は、「現実にはあり得ない女性が好き」という日本人の精神的伝統の一端だと思う。

 文楽協会さん、「奥庭狐火の段」をYouTubeかニコニコ動画にUPしないかなー。これを見たら、若い文楽ファンは確実に増えると思うのだけど。
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