○雑誌『なごみ』2014年10月号「大特集・藤森照信×山口晃と行く 探検!東京国立博物館」 淡交社 2014.10
東京国立博物館の『博物館に初もうで』を見に行ったついでに、ミュージアムショップの書籍コーナーをひやかしていて、この雑誌を見つけた。ああ、アレだ、『日本建築集中講義』(淡交社、2013)というタイトルで、既に単行本が1冊出ているシリーズだということは、すぐに了解した。待っていれば、やがて次の単行本が出るんだろうなあ、と思いながら、買ってしまった。
実は、この号で二人が見てまわるのは建築だけではない。まず、冒頭から40ページ以上が「美術編」で、茶室「転合庵」で、学芸企画部長・伊藤嘉章さんを亭主役に、館蔵の茶道具を見せてもらう。展示ケース、照明デザイン、保存修復の専門家の話を聞き、館長室、副館長室も訪問する。
さらに後半に10ページほど「建築編」があって、本館と表慶館を中心に見どころを紹介。私は、2009年に藤森先生が語る『上野の博物館・美術館建築について』という講演会を聞いたことがあるので、懐かしく思い出しながら読んだ。そうそう、平成館は「見るべきところなし」とアッサリ切っていたなあ。山口さんもイラストエッセイで「この建物をホメている人を見たことがない」「入口ホールの『ホテルの宴会場』っぽさがいけないのかなあ…」と、さりげなくキツイことをおっしゃっている。東洋館に対する「ミドル昭和なニクい造り!」というのも言い得て妙。
それにしても、この「建築編」の写真は美しい! 写っているのがオジサン二人なのが残念なくらい。記事のキャプション、「撮影 川本聖哉」のお名前を書きとめておこう。表慶館入口の階段に、長大な一本石が使われているというのは、気づいたことがなかった。
「美術編」には、二人が選んだ「勝手にトーハクセレクション20選」という記事もある。藤森先生のセレクションは「乱暴力」があふれていて、実にいいなー。『茶糸威野郎頭形兜(ちゃいとおどしやろうがしらなりかぶと)』は、昨秋、東博で見た見た。「ねじりはちまきで戦場に行くって『お祭りじゃないんだから』って(笑)」っていうコメントが最高。『古染付笹蟹文砂金袋花入(こそめつけささがにもんさきんぶくろはないれ)』の「竹に登る蟹を誰かが見ているっていう、訳の分からない図柄が大胆だよねえ」にも、よく言ってくれました!と共感しながら笑った。山口晃さんは、『青磁輪花碗 銘・馬蝗絆』とか、伝・毛松筆『猿図』など、正統派。この性格の違いが、鑑賞の合間に東博のソファで休息する二人の姿勢(39頁)にそのまま反映しているようで可笑しい。
いま、東博の館長は、元文部科学事務次官の銭谷真美氏で、副館長は島谷弘幸氏なんだな。銭谷さんには何の恨みもないが、やっぱり日本を代表する博物館の長は、博物館学(運営あるいは資料学)の専門家であってほしいと私は思う。
藤森先生いわく、土器や土偶に始まる五千年の日本美術を一望するには、今の展示面積では、圧倒的に足りない。今の面積の最低五倍は必要だろう。いや、これは大風呂敷に聞こえるかもしれないけど、中国の省級博物館には(感覚的に)そのくらいの規模のものがある。一兆円あれば敷地を総掘りして、ルーブルに対抗して、西洋美術に対抗する東洋美術の展示ができるんじゃないか。未来に責任を果たす、いい提案だ。一時しのぎの「クールジャパン」戦略より、こっちのほうがずっと投資価値があると思うなあ。
東京国立博物館の『博物館に初もうで』を見に行ったついでに、ミュージアムショップの書籍コーナーをひやかしていて、この雑誌を見つけた。ああ、アレだ、『日本建築集中講義』(淡交社、2013)というタイトルで、既に単行本が1冊出ているシリーズだということは、すぐに了解した。待っていれば、やがて次の単行本が出るんだろうなあ、と思いながら、買ってしまった。
実は、この号で二人が見てまわるのは建築だけではない。まず、冒頭から40ページ以上が「美術編」で、茶室「転合庵」で、学芸企画部長・伊藤嘉章さんを亭主役に、館蔵の茶道具を見せてもらう。展示ケース、照明デザイン、保存修復の専門家の話を聞き、館長室、副館長室も訪問する。
さらに後半に10ページほど「建築編」があって、本館と表慶館を中心に見どころを紹介。私は、2009年に藤森先生が語る『上野の博物館・美術館建築について』という講演会を聞いたことがあるので、懐かしく思い出しながら読んだ。そうそう、平成館は「見るべきところなし」とアッサリ切っていたなあ。山口さんもイラストエッセイで「この建物をホメている人を見たことがない」「入口ホールの『ホテルの宴会場』っぽさがいけないのかなあ…」と、さりげなくキツイことをおっしゃっている。東洋館に対する「ミドル昭和なニクい造り!」というのも言い得て妙。
それにしても、この「建築編」の写真は美しい! 写っているのがオジサン二人なのが残念なくらい。記事のキャプション、「撮影 川本聖哉」のお名前を書きとめておこう。表慶館入口の階段に、長大な一本石が使われているというのは、気づいたことがなかった。
「美術編」には、二人が選んだ「勝手にトーハクセレクション20選」という記事もある。藤森先生のセレクションは「乱暴力」があふれていて、実にいいなー。『茶糸威野郎頭形兜(ちゃいとおどしやろうがしらなりかぶと)』は、昨秋、東博で見た見た。「ねじりはちまきで戦場に行くって『お祭りじゃないんだから』って(笑)」っていうコメントが最高。『古染付笹蟹文砂金袋花入(こそめつけささがにもんさきんぶくろはないれ)』の「竹に登る蟹を誰かが見ているっていう、訳の分からない図柄が大胆だよねえ」にも、よく言ってくれました!と共感しながら笑った。山口晃さんは、『青磁輪花碗 銘・馬蝗絆』とか、伝・毛松筆『猿図』など、正統派。この性格の違いが、鑑賞の合間に東博のソファで休息する二人の姿勢(39頁)にそのまま反映しているようで可笑しい。
いま、東博の館長は、元文部科学事務次官の銭谷真美氏で、副館長は島谷弘幸氏なんだな。銭谷さんには何の恨みもないが、やっぱり日本を代表する博物館の長は、博物館学(運営あるいは資料学)の専門家であってほしいと私は思う。
藤森先生いわく、土器や土偶に始まる五千年の日本美術を一望するには、今の展示面積では、圧倒的に足りない。今の面積の最低五倍は必要だろう。いや、これは大風呂敷に聞こえるかもしれないけど、中国の省級博物館には(感覚的に)そのくらいの規模のものがある。一兆円あれば敷地を総掘りして、ルーブルに対抗して、西洋美術に対抗する東洋美術の展示ができるんじゃないか。未来に責任を果たす、いい提案だ。一時しのぎの「クールジャパン」戦略より、こっちのほうがずっと投資価値があると思うなあ。