見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

一兆円敷地総掘り計画/雑誌・なごみ「探検!東京国立博物館」

2015-01-08 21:41:20 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『なごみ』2014年10月号「大特集・藤森照信×山口晃と行く 探検!東京国立博物館」 淡交社 2014.10

 東京国立博物館の『博物館に初もうで』を見に行ったついでに、ミュージアムショップの書籍コーナーをひやかしていて、この雑誌を見つけた。ああ、アレだ、『日本建築集中講義』(淡交社、2013)というタイトルで、既に単行本が1冊出ているシリーズだということは、すぐに了解した。待っていれば、やがて次の単行本が出るんだろうなあ、と思いながら、買ってしまった。

 実は、この号で二人が見てまわるのは建築だけではない。まず、冒頭から40ページ以上が「美術編」で、茶室「転合庵」で、学芸企画部長・伊藤嘉章さんを亭主役に、館蔵の茶道具を見せてもらう。展示ケース、照明デザイン、保存修復の専門家の話を聞き、館長室、副館長室も訪問する。

 さらに後半に10ページほど「建築編」があって、本館と表慶館を中心に見どころを紹介。私は、2009年に藤森先生が語る『上野の博物館・美術館建築について』という講演会を聞いたことがあるので、懐かしく思い出しながら読んだ。そうそう、平成館は「見るべきところなし」とアッサリ切っていたなあ。山口さんもイラストエッセイで「この建物をホメている人を見たことがない」「入口ホールの『ホテルの宴会場』っぽさがいけないのかなあ…」と、さりげなくキツイことをおっしゃっている。東洋館に対する「ミドル昭和なニクい造り!」というのも言い得て妙。

 それにしても、この「建築編」の写真は美しい! 写っているのがオジサン二人なのが残念なくらい。記事のキャプション、「撮影 川本聖哉」のお名前を書きとめておこう。表慶館入口の階段に、長大な一本石が使われているというのは、気づいたことがなかった。

 「美術編」には、二人が選んだ「勝手にトーハクセレクション20選」という記事もある。藤森先生のセレクションは「乱暴力」があふれていて、実にいいなー。『茶糸威野郎頭形兜(ちゃいとおどしやろうがしらなりかぶと)』は、昨秋、東博で見た見た。「ねじりはちまきで戦場に行くって『お祭りじゃないんだから』って(笑)」っていうコメントが最高。『古染付笹蟹文砂金袋花入(こそめつけささがにもんさきんぶくろはないれ)』の「竹に登る蟹を誰かが見ているっていう、訳の分からない図柄が大胆だよねえ」にも、よく言ってくれました!と共感しながら笑った。山口晃さんは、『青磁輪花碗 銘・馬蝗絆』とか、伝・毛松筆『猿図』など、正統派。この性格の違いが、鑑賞の合間に東博のソファで休息する二人の姿勢(39頁)にそのまま反映しているようで可笑しい。

 いま、東博の館長は、元文部科学事務次官の銭谷真美氏で、副館長は島谷弘幸氏なんだな。銭谷さんには何の恨みもないが、やっぱり日本を代表する博物館の長は、博物館学(運営あるいは資料学)の専門家であってほしいと私は思う。

 藤森先生いわく、土器や土偶に始まる五千年の日本美術を一望するには、今の展示面積では、圧倒的に足りない。今の面積の最低五倍は必要だろう。いや、これは大風呂敷に聞こえるかもしれないけど、中国の省級博物館には(感覚的に)そのくらいの規模のものがある。一兆円あれば敷地を総掘りして、ルーブルに対抗して、西洋美術に対抗する東洋美術の展示ができるんじゃないか。未来に責任を果たす、いい提案だ。一時しのぎの「クールジャパン」戦略より、こっちのほうがずっと投資価値があると思うなあ。
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今年はヒツジ年/2015博物館に初もうで(東京国立博物館)

2015-01-08 00:05:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
 今年も1月2日に東京国立博物館の吉例『博物館に初もうで』に出かけた。ホームページによると、今年で12年目。「申」から始まった干支も今年の「未」でひと回りしたそうだ。もちろん私は12年間、皆勤である。参観者は年々増えているのではないかと思う。年間を通じて、本館(平常展)にいちばん人が多いのは、正月松の内ではないかな。

■本館・特別1室 『博物館に初もうで~ひつじと吉祥~』(2015年1月2日~1月12日)

 12年目でようやく出番のまわってきたヒツジ。洋の東西を問わず、人類とかかわりが深く、「吉祥」イメージとの結びつきも強い。でもヤギとヒツジって、あまり区別されていなかったような気がする。

 ヒツジと関係ないが、これは!と思ったのは、中国・元代の『寿星図』。あまり同館で見た記憶がない。曲がった杖、黒い帽子、地味な濃茶色の衣の、鼻の大きい(でも胡人ではない?)長髯の男性が描かれている。隣りに、伝・雪舟筆『梅下寿老図』が並んでいて、こちらは髭や眉の白い老人の姿に置き換えられているものの、中国絵画の『寿星図』を本にしたことが明らかであった。

■本館 新春特別公開(2014年1月2日~1月13日)など

 11室(彫刻)は、吉祥天・弁財天・毘沙門天など、天部の彫刻が揃って、それとなく目出度さを演出。文化庁所蔵の大黒天立像(室町時代・快兼作)がめずらしかった。まるまるした顔と体型、大きな袋に打ち出の小槌。ほぼ近世の「福神」の要素を備えながら、どこか「武人」の威圧感を残している。もとはセゾン美術館が所有していたものらしい。

 12室(漆工)は、栃木・輪王寺蔵『住江蒔絵手箱』に見とれた。蒔絵と言っても、金銀を使わない(目立たない)漆工が好き。赤い鳥居が可愛らしかった。18室(近代の美術)は、従来、絵画と彫刻だけだったのが、最近、工芸(木工・金工・陶芸等)も置かれるようになって、面白いと思っていたら、今回は書道作品も混じるようになった。何でもありなところが、日本の近代の曙っぽい。島崎柳塢筆『美音』が、古い日本の家族の姿を伝えていた。

 2階へ。1室(日本美術のあけぼの-縄文・弥生・古墳)は、埴輪『猪』(大阪府藤井寺市出土、大阪府立近つ飛鳥博物館蔵)が目立っていたが、なぜヒツジ年にイノシシ? 2室(国宝室)は『松林図屏風』で、例によって大混雑だったので、流し見で通り抜け。3室(宮廷の美術-平安~室町)は「『源氏物語』の美術」の特集だったのか。室町時代の『源氏物語図扇面』6種が珍しかった。

 7室(屏風と襖絵-安土桃山~江戸)はよかったなあ。狩野永祥筆『雪景山水図屏風』と伊藤若冲筆『松梅群鶏図屏風』と池大雅筆『西湖春景銭塘観潮図屏風』という、個性的な3点。特に永祥(1810-1886)と大雅の、風景の「掴み取り方」の自由さに興奮した。

■東洋館・8室 『中国の絵画 吉祥のかたち』(2015年1月2日~1月25日)

 東洋館(アジアギャラリー)はいつものように8室(中国の絵画と書跡)から。清末、広東を中心に、西洋への輸出やお土産用に作られた「トレードペインティング」(貿易絵画)が面白かった。確か、長崎や江戸にも同様の絵画があるはず。風景がきっちり描かれている割には生気が感じられない(人間を描くことに関心が薄い)ものが多く、どこか幻想絵画の趣きがあって引かれる。「貿易港の賑わいを描いた華やかな本作も正月にふさわしく」という解説は、ややこじつけ気味。

 書跡は、米芾(べいふつ)の臨書の軸を見つけて、上手いなあ、筆者は誰?とよく見たら、康熙帝だったので笑ってしまった。料紙も上々で、華やか。隣りに「どうだ巧いだろう」と言いたげな乾隆帝の書もあった。おめでたくて、何より。この二人の書、欲しいなあ。
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