〇三の丸尚蔵館 第81回展覧会『春日権現験記絵-甦った鎌倉絵巻の名品-』(修理完成記念)(2018年8月18日~10月21日)
鎌倉時代の絵巻の名品『春日権現験記絵』は春日大社の重宝として伝わり、江戸後期に何らかの事情で鷹司家の所有となった後、明治初期に皇室に献納されて御物となったもの。三の丸尚蔵館が平成16年度(2004)から13カ年をかけて行った本格的な保存修理がこのたび終了し、お披露目となった。ただ、すでに今春の奈良博『国宝 春日大社のすべて』展や、昨年の東博『春日大社 千年の至宝』にも出品されていたし、それ以前の2009~2010年頃の記録を調べても、ときどきこの絵巻は目にしている。たぶん全20巻を段階的に修理してきたためだと思う。現在、本展で見られる巻・場面は以下のとおり。
・巻2:第1段(白河上皇の春日社参)
・巻3:第3段、第4段(春日大社の神官を罰したため、藤原忠実が病となる)
・巻8:第7段(関東に下向した僧のもとに春日明神が示現)
・巻16:第1段(解脱上人貞慶のもとに春日明神が示現)
・巻15:第3段(斎宮の夢に示現した春日明神が、春日八講を志す僧を助けるよう告げる)、第4段(喘息に悩む僧の夢に神鹿が現れる)
・巻19:第1-4段(神鏡の盗難)
巻2は、社頭に集まった廷臣たち(文官、武官)、武者、僧侶など大勢の登場人物が、衣装も表情も個性的に描き分けられていて、華やかで楽しい。巻8と巻15には、束帯姿の春日明神が描かれる。巻8では、松の木の枝に浮かぶように立ち、長い下襲の裾を、ほぼ地面と平行にたなびかせている。必ず、顔が隠れるように描くのがお約束。しかし当時の人々の立場になってみれば、同時代人と同じ服装で神が示現するのが面白い。巻8では、僧侶に対して「汝は私のもとを離れたが、私は汝を見捨てない」と告げるのだ。なんというイケメン。
巻15、第4段は同じ画面に2回描かれた鹿が可愛かった。特に僧侶がカーテン(垂れ布)をめくって、鹿と顔を見合わせている場面が微笑ましい。なお、会場には、別の場面に描かれた鹿の群れを拡大した写真パネルがあって、鹿の表情(目の向き)を描き分けているのがすごいと思った。
そして巻19は、波乱万丈で大好きな巻。大和国の悪党たちが春日大社に乱入し、本社と若宮の神鏡14面を盗み出してしまう。そのあとに霜(雪?)の降りた春日山。場面変わって、武装した(興福寺の)衆徒たちが悪党どもに攻め入って、鏡3面を取り戻す。血潮は控えめだが、よく見ると膝から下を斬り落とされた者もいる。あと、彼らの手にしている武器は、弓でなければ。刃が長く柄の短い長刀で、太刀(だよね?)は佩いているけど、抜いている者がひとりもいない。ここで奪還された神鏡は円形である。次に虹をたよりに尋ねあてたお堂で3面、また瑞光をたよりに1面を探し当てる。この2場面では神鏡の形態は不明。さらにあるお堂で本尊の下(本尊を持ち上げている)から神鏡5面を見つけた。この5面は卓上に並べられており、五葉の花形をしている。
お客さんはそれなりに多かったが、外国人観光客が多くて、そんなに作品に執着していないので、隙間をぬって、じっくり見ることができる。図録も充実していて、高精細カラーで全画面を収録した上、実にいいところをアップで掲載してくれている。巻14:第6段の火事で焼け残った真っ白な家(漆喰塗りなのだろうか)の図は初めて認識した。巻7の後ろ足で頭を掻くぶち犬の図、ちゃんと蚤が描き込まれているとは! 「春日の神鹿」などのコラムも面白かった。また、絵巻の軸首や、収納箱の金具など、さりげなく埋め込まれた藤の意匠も美しかった。
ホームページでは展示替え情報が分かりにくいのだが、会場で貰ったパンフレットによれば「9月18日または21日で入れ替え」になるらしい。後期も必ず行く。なお、三の丸尚蔵館の作品紹介ページに「巻2 白河院の春日行幸」とあるのだが…それは違うと思う。
※補記:後期レポートはこちら。
鎌倉時代の絵巻の名品『春日権現験記絵』は春日大社の重宝として伝わり、江戸後期に何らかの事情で鷹司家の所有となった後、明治初期に皇室に献納されて御物となったもの。三の丸尚蔵館が平成16年度(2004)から13カ年をかけて行った本格的な保存修理がこのたび終了し、お披露目となった。ただ、すでに今春の奈良博『国宝 春日大社のすべて』展や、昨年の東博『春日大社 千年の至宝』にも出品されていたし、それ以前の2009~2010年頃の記録を調べても、ときどきこの絵巻は目にしている。たぶん全20巻を段階的に修理してきたためだと思う。現在、本展で見られる巻・場面は以下のとおり。
・巻2:第1段(白河上皇の春日社参)
・巻3:第3段、第4段(春日大社の神官を罰したため、藤原忠実が病となる)
・巻8:第7段(関東に下向した僧のもとに春日明神が示現)
・巻16:第1段(解脱上人貞慶のもとに春日明神が示現)
・巻15:第3段(斎宮の夢に示現した春日明神が、春日八講を志す僧を助けるよう告げる)、第4段(喘息に悩む僧の夢に神鹿が現れる)
・巻19:第1-4段(神鏡の盗難)
巻2は、社頭に集まった廷臣たち(文官、武官)、武者、僧侶など大勢の登場人物が、衣装も表情も個性的に描き分けられていて、華やかで楽しい。巻8と巻15には、束帯姿の春日明神が描かれる。巻8では、松の木の枝に浮かぶように立ち、長い下襲の裾を、ほぼ地面と平行にたなびかせている。必ず、顔が隠れるように描くのがお約束。しかし当時の人々の立場になってみれば、同時代人と同じ服装で神が示現するのが面白い。巻8では、僧侶に対して「汝は私のもとを離れたが、私は汝を見捨てない」と告げるのだ。なんというイケメン。
巻15、第4段は同じ画面に2回描かれた鹿が可愛かった。特に僧侶がカーテン(垂れ布)をめくって、鹿と顔を見合わせている場面が微笑ましい。なお、会場には、別の場面に描かれた鹿の群れを拡大した写真パネルがあって、鹿の表情(目の向き)を描き分けているのがすごいと思った。
そして巻19は、波乱万丈で大好きな巻。大和国の悪党たちが春日大社に乱入し、本社と若宮の神鏡14面を盗み出してしまう。そのあとに霜(雪?)の降りた春日山。場面変わって、武装した(興福寺の)衆徒たちが悪党どもに攻め入って、鏡3面を取り戻す。血潮は控えめだが、よく見ると膝から下を斬り落とされた者もいる。あと、彼らの手にしている武器は、弓でなければ。刃が長く柄の短い長刀で、太刀(だよね?)は佩いているけど、抜いている者がひとりもいない。ここで奪還された神鏡は円形である。次に虹をたよりに尋ねあてたお堂で3面、また瑞光をたよりに1面を探し当てる。この2場面では神鏡の形態は不明。さらにあるお堂で本尊の下(本尊を持ち上げている)から神鏡5面を見つけた。この5面は卓上に並べられており、五葉の花形をしている。
お客さんはそれなりに多かったが、外国人観光客が多くて、そんなに作品に執着していないので、隙間をぬって、じっくり見ることができる。図録も充実していて、高精細カラーで全画面を収録した上、実にいいところをアップで掲載してくれている。巻14:第6段の火事で焼け残った真っ白な家(漆喰塗りなのだろうか)の図は初めて認識した。巻7の後ろ足で頭を掻くぶち犬の図、ちゃんと蚤が描き込まれているとは! 「春日の神鹿」などのコラムも面白かった。また、絵巻の軸首や、収納箱の金具など、さりげなく埋め込まれた藤の意匠も美しかった。
ホームページでは展示替え情報が分かりにくいのだが、会場で貰ったパンフレットによれば「9月18日または21日で入れ替え」になるらしい。後期も必ず行く。なお、三の丸尚蔵館の作品紹介ページに「巻2 白河院の春日行幸」とあるのだが…それは違うと思う。
※補記:後期レポートはこちら。