見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

ゆっくり時が流れる/純喫茶とあまいもの(難波里奈)

2018-09-05 22:08:56 | 読んだもの(書籍)
〇難波里奈『純喫茶とあまいもの:一度は訪れたい30の名店』 誠文堂新光社 2018.7

 甘いものをいただくのと同じくらい、甘いものの本が好き。特に少し疲れたときは、甘いものの写真を眺めて心を癒す。本書は「パフェ」「プリン・ア・ラ・モード」「ホットケーキ」「フルーツサンド/トースト」「ケーキ」「飲みもの」の6つのテーマで5軒ずつ、計30軒の喫茶店を紹介したもの。そして「甘いもの」も魅力的だが、どちらかというと「お店」のたたずまいの紹介に気合が入っていると感じる。

 それもそのはず、著者は会社員業のかたわら、好きな喫茶店巡りにいそしみ「東京喫茶店研究所二代目所長」を名乗るライターさんである。本書に登場するのは、日本中にあふれるチェーン系のカフェではなく、昭和の面影を残すレトロな純喫茶ばかり。少し暗めの店内。使い込んだ木製のテーブル、革張りやビロード張りの椅子、タイルやレンガ積みの壁、ステンドグラスの照明、さりげなく飾られた絵画やアート作品。そして歴史を知るマスターの存在も欠かせない。20代や30代の頃は、こうした喫茶店は入りにくかったが、今なら堂々と入ることができるのが喜ばしい。

 紹介されているお店は東京が中心で、千葉や神奈川が少々。首都圏以外のお店はない。郊外よりも都心部、オフィス街や駅ビルの地下街で営業を続けているお店が多いように思った。これは著者の行動範囲がそうなのか、それとも残っている純喫茶の分布がそうなっているのだろうか。「資生堂パーラー銀座本店」や浅草の「アンヂェラス」など有名店もあるが、聞いたことのないお店も多かった。江戸川区平井の「ワンモア」(表紙になっている)とか市川の「ミワ」とか、よく見つけて、取り上げてくれたなあ。私は総武線沿線の生まれなので、ちょっと嬉しい。

 西荻の「こけし屋」は押しも押されもせぬ洋菓子の名店。私は西荻にも住んでいたことがあるので嬉しい。私が、確実に行ったことがあるのは、ここと神保町の「さぼうる」それに「古瀬戸」。藤沢の「ジュリアン」はクリームソーダの名店だそうで、入ったことはないが、大きな特徴的な丸窓にかすかな記憶がある。遊行寺にお参りに行ったときに前を通っているかもしれない。池袋の「タカセ」は、大学生の頃、ゼミのコンパの二次会で寄っている気がする。町の喫茶店は、こんなふうに、人それぞれの記憶と深くひもづいている。

 本書に紹介されている「あまいもの」のクオリティは、正直、さまざまで、横浜・ホテルニューグランドのプリン・ア・ラ・モードや資生堂パーラーのストロベリーパフェは一点の隙もない完成度である。それに比べると、迫力はあるけど見た目はいまいちだったり、作り手によって見た目が微妙に(否、かなり)異なるパフェを出すお店などもある。しかし、その「ゆるさ」も地元と常連に愛される魅力なのだろう。こういう空間が、もうしばらく存続してくれるといいなあ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする