見もの・読みもの日記

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播州清水寺と朝光寺を中心に/神仏人 心願の地(多摩美大美術館)

2018-09-14 21:56:28 | 行ったもの(美術館・見仏)
多摩美術大学美術館 加東市×多摩美 特別展『神仏人 心願の地』(2018年9月1日~10月14日)

 多摩美の美術館に行くのは2回目である。前回は2014年の年末で、北海道から帰省した折に立ち寄った。『祈りの道へ-四国遍路と土佐のほとけ-』という、やはり地方仏の展示で、たいへん感銘を受けた。今回、取り上げるのは兵庫県加東市。兵庫県の中心からやや南東、浄土寺のある小野市の北に位置し、一帯は、古来ひとつの文化圏を形成してきたと言われている。大きな観光名所があるわけではないが、古代史好きを惹きつける地域で、私は西国札所の播州清水寺には2回、参詣している。

 展示の第1室は、江戸時代の『播磨国風土記』写本に加え、土器、勾玉、小さな土人形、銅鏡、瓦など、多様な出土資料が並ぶ。鎌倉~南北朝の『釈迦十六善神図』(花蔵院)、江戸時代の『熊野観心十界図』も面白かった。『釈迦十六善神図』は劣化が進み、よく見えなかったが、玄奘三蔵の姿が古様で、南都との関連性が指摘されているそうだ。確かに播磨は、法隆寺とか元興寺とか、奈良の寺社とかかわりが深い地域なのである。仏像は、ボリュームのある木造地蔵菩薩立像(東古瀬地区)ほか、平安時代の古仏が数体並んでいた。いずれもお顔に個性があるのが、地方仏の魅力である。私が気に入ったのは、室町時代の小さな(30cmくらい)木造仏。自分のものにできるなら、念持仏として所有したい。阿弥陀如来坐像と薬師如来坐像の2躯で、目鼻や光背の文様が筆で描き込まれているのが素朴で面白い。墨と朱と胡粉が使われている。

 第2室は大型スクリーンで加東市の祭りと芸能を紹介。恐ろしい仮面をつけ、長い鉾を構えた、等身大の舞人の人形が飾られていたが、これは上鴨川住吉神社の神事舞「リョンサン」だという。もしかして「リョンサン」は「陵王」なのだろうか? ほかにも鎌倉~室町の神事舞の面や追儺の鬼面が出ていた。

 2階の第3室へ。入口に「御嶽山播州清水寺」の文字を見つける。バナーには、緑なす山の頂にある寺院を、はるか上空から撮影した写真が使われていた。懐かしい。少なくとも私が参詣したときは、1日2本のバスしか通っていなかったお寺だ。どんな仏像があったかは、実はよく覚えていない。会場で、まず惹きつけられたのは、木造大日如来坐像(鎌倉時代)。運慶の円成寺の大日如来を思わせる。五智如来の中尊だそうだ。透かし光背は美麗だが後補。「横から見たところもいいんですよ!」とスタッフらしいお兄さんに声をかけられ(確かによい)、部屋の中央の銅造菩薩立像(白鳳時代)についても「加東市最古の仏像です!」と得意そうに教えてくれたので「お寺の方ですか?」とお聞きしたら「いえ、この展覧会を企画した者です」というお答えが返ってきた。

 小さな銅造菩薩立像は実にかわいい。銅が全体に花崗岩みたいに白っぽく変色しているのも素朴でよい。正面はあどけない童顔だが、背面には両肩から背中に沿って長い瓔珞が垂れていて、細い体を余計に華奢に見せている。木造毘沙門天立像もよかった。70cmくらいの小像で、決して巧くないのに強い力がみなぎっている。しばらく横顔を眺めていて、ポスターに使われている仏像だと気がついた。鎧の腹の怪獣の顔(獅噛?)も獰猛そうでよい。

 第4室は「鹿野山朝光寺」。知らないお寺だったので、あとで調べたら、加古川線と福知山線から等距離くらいの山の中にあるそうだ。本堂には、板壁に仕切られた厨子に2躯の千手観音立像が祀られており(会場に写真あり)、その「東御本尊」がおいでになっていた。脇手が短いので、あまり動きを感じさせない、黒い木肌が神秘的な千手観音である。一方、「西御本尊」は一回り大きく、全身金箔を保っている。実は、京都の蓮華王院(三十三間堂)から、室町時代からそれほど離れていない時期に移住されたものと見られている。「移動する仏像」の話は、どこかで聞いたことがあるなあと思ったら、昨年、兵庫県立歴史博物館で開催された『ひょうごの美ほとけ』で、朝光寺の「西御本尊」の話を、写真パネルで読んでいた。

 あらためて「東御本尊」だが、全体像からは地方仏らしいおおらかさを感じるのだが、顔立ちはシャープで的確な造形。特に横顔がよくて、さきほどの播州清水寺の毘沙門天立像と組み合わせて、ポスターに使われている。あと、風化が進んで顔立ちもほぼ分からなくなった木造地蔵菩薩立像6躯(六地蔵、平安時代)は、インスタレーションのような面白さがあった。修験の関与が窺えるそうだ。
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