〇雑誌『芸術新潮』2019年5月号「特集・オールアバウト東寺」 新潮社 2019.5
ずいぶん前にも『芸術新潮』の東寺特集を読んだ記憶がある。蔵書のほとんどは段ボール箱に入っていて、すぐに参照できないので、ネットで検索したらちゃんと出てきた。1995年7月号「弘法さんの秘密道場 『東寺』よ開け!」という特集だ。
国立国会図書館のデジタルコレクションにも入っていて、著作権の保護期間中のため、画像は見ることができないが、目次が読めるのはありがたい。創建1200年記念『東寺国宝展』(1995年、京博。東博には巡回していない)に合わせた特集であることが分かる。「展覧会の見どころ」によれば、五大尊像、十二天像、真言七祖像など、今回の『国宝 東寺』展と共通する寺宝が出陳されていることが分かる。私は、もともと仏像好きで、東寺はお気に入り寺院だったのだが、『芸術新潮』1995年7月号(たぶん入手したのはもう少し後)には強い影響を受けた。焼損四天王の存在を知ったのもこの号のおかげだと思う。
それに比べると、2019年5月号には感動がなかった。私が些末な知識を身に着けすぎて、純粋さを失ったせいかもしれない。しかし「ここは真言密教の根本道場」「忿怒ひしめく、明王&四天王」「五大菩薩のほほえみ」等の写真キャプションは、何も言っていないも同然で、プロの仕事と思えない。どうした芸術新潮編集部?と首をひねりたくなった。
ちなみに1995年7月号では、金堂三尊のキャプション「悲劇の青年・豊臣秀頼の壮大な置き土産」が私は好きで、他にも「後醍醐天皇、足利尊氏、豊臣秀頼 多士済々のパトロンたちと東寺との関係を教えて下さい」「洛中洛外で合戦が繰り広げられたとき、東寺はどう乗り切ったのですか?」など、東寺の歴史に関する読みものが多かった。今号は、もちろん創建者・空海へのリスペクトはあるものの、いま目の前にある仏像や宝物の詳細な解説が中心になっていて、創建から今日までの「間の歴史」への関心が薄いように思う。ちなみに金堂三尊のキャプションは「桓武天皇のオーダー・メイド薬師三尊の朝」だ。桃山時代の再興像であることは小さな活字で注記されている。
ただ主な仏像の様式や見どころの解説、曼荼羅の尊格の配置やエリアの解説は詳しい。後七日御修法における十二天の配置は、東博の会場パネルにはあったが、図録には収録されていない(みたい)でガッカリしていたので、大変ありがたく思った。