レポートを書いていない展覧会が溜まってきたので、とりあえずメモだけでも。
■国立民族学博物館 特別展『驚異と怪異-想像界の生きものたち』(2019年8月29日~11月26日)
むちゃくちゃ楽しい展示! 世界各地の人々の想像の中に息づく生きものを具体化した仮面・神像・衣装・木彫・護符・玩具・絵馬等々を「人魚」「龍」「水怪」「霊鳥・鳥人」「有角人」「蟲」などのカテゴリーごとに集めて見せる。広い展示会場には、迷路のように曲がりくねった巡路が用意されていて、角を曲がるたびに、思いもよらない怪物に出会って驚く。ちょっとお化け屋敷気分。ライデン国立博物館が保存する、江戸時代の日本で蒐集された人魚のミイラや鬼の首も里帰り。国内の寺社や個人コレクションに伝わる幻獣のミイラや爪・骨などが多数出ていて、よくぞ探し当てて、公開に応じてもらったなあと驚く。西洋の貴重書は、ゲスナーとかキルヒャーとか、澁澤龍彦に耽溺した日々を思い出す。
■根津美術館 新創開館10周年企画展『美しきいのち-日本・東洋の花鳥表現』(2019年9月7日~11月4日)
東洋、特に中国と日本における花鳥表現の展開を絵画と工芸でたどる。「院体花鳥画と草虫画」は本家・中国を中心に、小品だが色がきれい。「漢画系花鳥画」では、狩野派より前に室町将軍家の御用をつとめ、いちはやく漢画を取り入れた「小栗派」の存在を知る。戯墨筆『芦雁図』が可愛かった。可愛いといえば、伝・狩野元信筆『四季花鳥図屏風』に描かれた鳥たちは全部可愛い。「明・清時代の花鳥画」では、周度筆『花鳥図』の、爪でがっちり岩を掴んだ鳥の姿に鶴亭を思い出した。
■泉屋博古館・分館 住友財団修復助成30年記念『文化財よ、永遠に』(2019年9月10日~10月27日)
この秋、全国4会場で開催されている同展の2箇所目。9月28日に出かけて、高橋真作先生(東京国立博物館)と板倉聖哲先生(東京大学東洋文化研究所)のギャラリートークを聞いてきた。「中国元明絵画と室町水墨」という題目だったが、前期に室町水墨は1件しか出ていなかったため、高橋先生は鎌倉仏画についても解説。日光輪王寺の『軍荼利明王(金剛童子)像』は、寺伝では軍荼利明王だが図像学的に金剛童子像と推定されるとのこと。同じ日光輪王寺の『不動明王像』とともに、初めて見た作品かもしれない。神奈川・称名寺の『十二神将像』は金沢文庫で展示されたときに見たもの。大倉集古館の『十六羅漢像』はむかし見ているかなあ。羅漢とは「応供」(供養を受けるのにふさわしい者)の意味であると初めて知る。それで羅漢図には、花や果物を捧げる動物や供養人が描かれることが多いのか。
中国絵画は鑁阿寺伝来の『雪景山水図』と元代の『草虫図』『立花図』。元代には文人画が隆盛するが、日本に残っているのは南宋絵画の雰囲気に近く、しかも南宋絵画に比べて大画面のものが多いとの説明にとても納得。滋賀・聖衆来迎寺所蔵の『立花図』はガラスの花瓶に生けてある。
ほかに増上寺の狩野一信の『五百羅漢図』を久しぶりに見た。曽山幸彦『弓術之図(弓を引く人)』は、髷を結い、帯刀した若者が片膝をついて、まさに矢を放ったところを紙に木炭で描いたもの(明治時代、東大工学部建築学専攻所蔵)。モデルと画力の両方に見とれる。馬を駆って薄野を行く武士を描いた『かりくら』も魅力的な大作で、誰かと思ったら木島櫻谷の作品だった。
■五島美術館 館蔵・秋の優品展『筆墨の躍動』(2019年8月31日~10月20日)
「墨」を切り口に、高僧の墨蹟や法帖、水墨画、さらに近代の書画までバラエティ豊かな展示。狩野探幽の道中スケッチ『旅絵日記』が面白かった。
■静嘉堂文庫美術館 『入門 墨の美術-古写経・古筆・水墨画-』(2019年8月31日~10月14日)
「墨」の多彩で奥深いモノクロームの世界をわかりやすく紹介。五島美術館とは意識的に時期を合わせた企画なのか偶然なのかは不明である。同館所蔵『寒山図』(元代墨画)の筆を構えた寒山は、愛嬌があって昔から好きなのだが、今回、展覧会のキャラクターとして使いまわされていて楽しかった(※チラシPDF)。ぜひ今後も、墨画をテーマにした展覧会では復活・継続使用してほしい。『白描平家物語絵巻』(室町時代)は、画面の小さい小絵の絵巻。初めて見たような気がする。「二代の后」(藤原多子)が夜更けに二条天皇に召される場面が描かれていた。
※出光美術館『名勝八景』と東京美術倶楽部『東美アートフェア』は別稿の予定。