見もの・読みもの日記

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楽しみ尽くす/国宝 鳥獣戯画のすべて(東京国立博物館)

2021-06-14 19:43:30 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』(2021年4月13日~5月30日※6月20日まで会期延長)+本館・特別1-2室他 特集『鳥獣戯画展スピンオフ』(2021年3月23日~6月20日)

 甲乙丙丁全4巻の全場面を会期を通じて一挙公開し、断簡や模本の数々を含め、「鳥獣戯画のすべて」を堪能できる特別展。当初は2020年夏に予定されていたが、コロナ禍で1年延期になり、4月に始まったものの、のんびり構えていたら緊急事態宣言で休止となり、本当にハラハラした。会期延長という英断のおかげで、なんとか参観することができた。

 鳥獣戯画は、もちろん大好きなので、機会があれば見に行っている。大規模な展覧会としては、2007年のサントリー美術館『鳥獣戯画がやってきた!』(各巻の前後半を前後期で巻替え)、2014年の京都国立博物館『国宝 鳥獣戯画と高山寺』(同、前後期で巻替え)、2019年の中之島香雪美術館『明恵の夢と高山寺』(前期は甲乙巻、後期は丙丁巻)が記憶に残っている。しかし「全4巻の全場面を会期を通じて一挙公開」するのは「展覧会史上初めて」だそうだ。個人的には、こういう展示方法はとてもありがたい。あと、2014年の京博の大混雑がトラウマになっているので、コロナ対策とはいえ、時間指定の入場者制限は結果的によかったと思う(チケット入手には苦労したが)。

 当日は夕方からのチケットだったので、先に本館の常設展示を見た。特集『鳥獣戯画展スピンオフ』には、動物たちをモチーフにした古今の絵画や工芸品のほか、『鳥獣戯画』の模本が4巻分全て出ていて、見どころの予習ができた。嬉しかったのは『年中行事絵巻』の模本が出ていたこと。雑誌『芸術新潮』で土屋貴裕さんが、風流傘の上にサルとウサギの競べ馬の場面がつくりものとして載っている、と指摘していた場面で、写真も撮れた!

 さて特別展へ。平成館の2階は、いつもと違う側が第1会場の入口になっていた。第1室は模本と写真パネルで『鳥獣戯画』の概要を紹介するが、なるべくアッサリ見て先を急ぐ。次がいよいよ原本展示で、甲巻の前には、うわさの「動く歩道」が設置されていた。広い待機スペースが設けられていたが、人の流れは順調で、全く待たずに歩道に乗れた。甲巻は12メートル弱なので「動く歩道」の長さもそのくらい(展示室のほぼ端から端まで)である。これ、前後の観客の進み具合を気にせず、資料に集中できるのでとてもよかった。今後、画巻の展示は、ぜひこのスタイルをデフォルトにしてほしい。

 乙丙丁巻は観客が歩いて進む方式なので、どうしても滞留ができたり、空きができたりしていたが、絵巻の前に行くまで待たされたのは10分くらいで、あまりストレスはなかった。待ち時間には、会場内のディスプレイ(バナーや映像投影)を見ているのも楽しかった。

 第2会場は、かつての姿を復原する手がかりとなる断簡や模本を集める。東博本やMIHOミュージアム本は見たことがあるが、滅多に見られない貴重なものもあった。益田家旧蔵の甲本断簡は、鹿にまたがるサルと狐にまたがるウサギの競べ馬の図で、サルがウサギの耳をつかんで邪魔をしている(※年中行事絵巻のつくりものに似ている)。見物人の中にはスッポンやアヒルがいる。所蔵者注記がないので個人蔵なのだろう。

 高松家旧蔵の断簡は、どうやら続きの場面で、反則をしたサルが落馬している。これはアメリカの個人蔵とのこと。住吉家旧蔵本『鳥獣戯画模本』巻五(建長年間写の識語、梅澤記念館)には、これら断簡と一致する場面が描かれている。住吉家旧蔵本は、巻五にも、現存の甲本とほぼ一致する巻一にも、他にない場面が描かれていて興味深い。事情を知らなければ「何このニセモノ」と思ってしまいそうだ。

 最後は明恵上人と高山寺ゆかりの品々。高山寺開山堂の明恵上人坐像がおいでになっており、『春日権現験記絵』巻十八(鹿に礼拝される明恵さん)や『華厳宗祖師絵伝・元暁絵』も見ることができた。最後はやっぱりわんこ(子犬)。

 節約と断捨離のため、今回の図録は買わないでおこうと思っていたが、やっぱり買ってしまった。『鳥獣戯画』に直接関係する資料の解説は、たぶん全て土屋貴裕さんが書いており、ですます体で読みやすい。多様な視点で書かれたコラムも充実。ゆっくり楽しむことにする。そして栂尾の高山寺、また行きたいなあ。永久拝観券をもらってから、まだ行っていないのである。

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