〇『猟狼者-Hunter-』全8集(芒果TV、湖南衛視、2021)
西暦2000年、新疆の高山地帯。雪の岩山で、森林警察の警官である魏疆(秦昊)と趙誠は、密猟団「狼子」と銃撃戦を繰り広げていた。魏疆は狼子のひとりを射殺するも、撃たれて崖下に落下する。狼子に追いつめられた趙誠は、動けないよう脚を撃たれ、雪の中に放置されて凍死した。
5年後、奇跡的に生き延びた魏疆は、警官の職を辞し、森林保安員として酒浸りの日々を送っていた。あるとき、密猟者を追って山林に入った若い警官が戻ってこない事件が起きる。警官の捜索には賞金がかかっている。魏疆は、旧友・老伊が息子を学校に行かせるため、金銭を必要としていることを知り、賞金稼ぎに山に入り、密猟者たちに捕まっていた若い警官・秦川(尹昉)を助け出す。その密猟者たちは、五年前、彼の同僚・趙誠を奪った狼子の一味だった。
魏疆は五年前の悪夢を振り払い、狼子の殲滅を決意する。相棒となった秦川。魏疆は老伊(かつて狼子の一味だったが、回心して森の中で幼い息子とひっそり暮らしている)を訪ね、狼子について情報を得ようとする。しかし魏疆が動き出したことを察知した狼子一味は、先回りして老伊を殺害し、魏疆らを待ち伏せていた。以下、銃と火薬、馬と車を使ったアクションの連続。さすが『長安十二時辰』の曹盾監督作品である。
狼子の大ボス・毒鷂子(鷂=ハイタカ)(尹鋳勝)、三狼・刀子(趙魏)、五狼・狐狸(隋咏良)、六狼・周煬(余皑磊)、七狼・巴図(何晨)は、見事にタイプの違う悪党ヅラが揃っている。四狼は回心した老伊。二狼・薩木は五年前、雪山で魏疆に撃たれて死亡した。その妻である花翻子(沈佳妮)は女狼子として密猟に加担し、夫の仇である魏疆をつけねらう。長い手足、化粧っ気のない無表情で躊躇なくライフル銃をぶっ放す姿がカッコいい。
狼子集団は一枚岩ではなく、基本的には自分の利益が最優先。スキがあれば仲間を裏切り、命を奪うことも辞さない。その最たるものが六狼である(余皑磊、相変わらず小悪党ぶりが巧い)。大ボスの毒鷂子も、子分思いは見せかけで、自分ひとりが助かればいいと思っている。五年前、二狼・薩木を殺害したのは魏疆ではなく、背後にいた毒鷂子だった。
そして、死すべきものは死し、捕まるものは捕まり、亡き趙誠の恨みは晴れ、魏疆と秦川の新しい人生が始まることを示唆して、気持ちよくドラマは終わる。基本的には、アクションの撮り方(特殊効果と雄大な自然と俳優さんの身体能力!)に、ふえ~と驚き呆れて楽しめる作品である。その一方、亡き趙誠の妻に偶然再会した趙魏の動揺とか、異動や昇進を避け、狼子逮捕の機会を待ち続ける警官の孫海洋とか、魏疆に協力的な遊牧民の少女・賽娜(黄子星)が幼い頃から姉と慕っていたのが花翻子であるとか、複雑な人間関係と人情がちゃんと盛り込まれているのもよい。警官の理想を愚直に信奉する頑固青年の秦川が、その愚直さで死に際の三狼・刀子の心を動かすところも。原作はなく、オリジナル脚本らしい。
アクションシーンは、森林地帯、草原、雪山、閉じ込められた小屋の中など、舞台を変え、手を変え品を変えて登場するが、最も印象的だったのは、魏疆と秦川が、砂嵐のロードサイドで狼子たちに遭遇する段。メイキング映像を見たらスタジオで撮影しているのだが、種明かしを見ても衝撃が薄れないくらいすごかった。主演の秦昊、私は『隠秘的角落』→『無証之罪』の順に見てきたのだが、ボサボサ頭の無精ひげにも色気があっていい役者さんだなあ。次回作が楽しみである。
蛇足。オープニングのアニメーションは、はじめ手抜きのようで気に入らなかったが、回が進むと意味が分かって、だんだん愛着が湧いた。携帯電話を持っている人物が少ないことが不思議だったが、2005年の新疆だとあんなものかな。私は90年代後半にツアーで新疆を旅しており、ロードサイドの荒涼とした風景が懐かしかった。