見もの・読みもの日記

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データベース作りの情熱/茶入と茶碗(根津美術館)

2021-06-25 19:18:04 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『茶入と茶碗:「大正名器鑑」の世界』(2021年6月1日~7月11日)

 高橋義雄(1861-1937、箒庵)が編纂した『大正名器鑑(たいしょうめいきかん)』(大正10/1921年~昭和2/1927年刊)の刊行開始百年を記念し、同書の成立過程を概観し、同書に掲載された名品を展観するともに、編者・箒庵と初代根津嘉一郎(1860-1940)の友情を紹介する。

 冒頭には『大正名器鑑』全9編11冊の初版本セットが立派な木箱とともに展示されている。茶人で実業家の高橋箒庵は、自宅に「大正名器鑑編纂所」を設け、プロジェクトチームを率いて編纂に取り組んだ(Wikiによれば、実業界を引退したあとの仕事なのだな)。個人蔵の『大正名器鑑稿本』も展示されていたが、図版ページにどのように図版を収めるか、試行錯誤したあとが分かって面白かった。同書は、掲載した茶入と茶碗すべてに写真図版を付し、名品には着色の木版図版も付した。このように記録されたことにより、大正12(1923)年の関東大震災で被災した茶器の姿を偲ぶことができている。

 箒庵は、過去の文献から茶器の評判・解説などの抜き書き帳をつくり(解説資料)、所持者リストを作成し(名物茶入茶碗所持者台帳)、最終的には自らの目で実物を確かめている(茶器実見記、以上の資料は全て慶応大学所蔵)。文化財調査のお手本のような周到さだが、箒庵の茶人としての名声がなかったら、実物を見るところまでたどりつけなかっただろう。

 『大正名器鑑』は、掲載を茶入と茶碗に限る方針を立てた。茶入はともかく、茶碗が重視されるようになったのは江戸後期からだというのに驚く。伝統的には、茶壷、掛軸、花入、水指、香炉などが鑑賞の対象だった。

 そして『大正名器鑑』に掲載された名品を見る。当時から根津嘉一郎の所蔵だったものもあるが、当時は雲州松平家など諸家の所蔵だったもので、現在は根津美術館の所蔵になったものも多い。私が好きなのは、加賀前田家旧蔵の小ぶりな曜変天目。かすかな青みが控えめでよい。

 全編刊行が終結した後、根津嘉一郎が中心となり、大正名器鑑告成会および箒庵翁慰労会が開催された。この慰労会だったと思うが、嘉一郎所蔵の「銘:寿老人」をはじめ、関係者所蔵の伊賀花入5点が陳列された写真があって、壮観だった。

 展示室3(仏像)は、めずらしく中国朝鮮の銅造鍍金仏が並んでいた。唐の五尊仏像は薄い銅板を叩きのばして、仏菩薩や狛犬が5センチくらい浮き出すようにしたもの。抑揚のある表現に驚かされる。展示室5は「茶人たちの手紙」で、桃山時代の利休や織部から、近代の益田鈍翁、松永耳庵までがズラリ一堂に会する。展示室6「梅雨時の茶」は雨や水にちなんだ道具を取り合わせていた。

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