〇サントリー美術館 『徳川美術館展 尾張徳川家の至宝』(2024年7月3日~9月1日)
尾張徳川家に受け継がれてきた重宝の数々を所蔵する徳川美術館のコレクションから、国宝『源氏物語絵巻』『初音の調度』に加え、歴代当主や夫人たちの遺愛品、刀剣、茶道具、香道具、能装束などを展示し、尾張徳川家の歴史と華やかで格調の高い大名文化をする。
『源氏物語絵巻』は、徳川美術館が絵15面・詞28面(蓬生、関屋、絵合(詞のみ)、柏木、横笛、竹河、橋姫、早蕨、宿木、東屋の各帖)、五島美術館が絵4面・詞9面(鈴虫、夕霧、御法の各帖)を所蔵する。東京在住が長い私は、五島美術館所蔵分は何度も見ているが、徳川美術館所蔵分は、なかなか見る機会がない。今回は「柏木三」「横笛」「橋姫」「柏木二」が出るというので、あまり記憶にない「橋姫」を狙うことにした。
開館の30分後くらいに行ったので、会場に入ると、最初の展示室はそこそこ混んでいた。お目当ての「橋姫」を探すことにして、順序を飛ばして先に進む。4階には無かったので3階へ。階段下のホール(第2展示室)にも無いことを確認し、第3展示室の突き当りの、壁はめ込みの展示ケースで見つけた。ケースの前にいたおじさんがすぐどいてくれたので、私ひとりで視界を独占するかたちになって拍子抜けしてしまった。え、みんな、この作品を見に来たお客さんじゃないの?
「橋姫」は薫が宇治の八宮の山荘を訪れ、二人の姫君の姿を垣間見する場面。右端に透描垣の外に立つ薫。画面の中央から左側には4人の女性の姿が見える。縁先で琵琶に半身を預け、撥(ばち)をあごに当てて(このポーズいいなあ)月を仰ぎ見るのが中の君。部屋の中で筝の琴にかぶさるような姿勢の大君。筝の脇には開きかけの扇。あとは女房と女の童。中の君の上衣は灰色、大君の上衣は赤一色だったけれど、もとの色彩はどんなふうだったんだろうか? 袖や裾のかさねが、綿入れみたいにふくらんでいて豪華なのも印象に残った。
ちなみに2010年に五島美術館で開館50周年記念特別展『国宝 源氏物語巻』という展覧会があって、私はこのとき、いちおう徳川美術館所蔵分も全て見ているのだった(全く忘れていた)。
さて、あらためて第1展示室に戻ってはじめから。冒頭は「尚武 もののふの備え」と題して、徳川葵紋を背景に、徳川義直(尾張家初代)着用の『銀溜白糸威具足』と太刀拵、陣太鼓など。名古屋の徳川美術館の第一展示室を思わせるつくりである。さらに太刀、弓、火縄銃などが続き、一転して、茶道具、能面・能装束という構成も、徳川美術館と同じだ~と思ってニコニコしてしまった。「香」が1つのセクションになっていて、香木や組香の道具がいろいろ出ていたのは珍しくて面白かった。筝や琵琶、三味線など、楽器・楽譜関連も多かった。『初音の調度』からは将棋盤と駒箱。「あそび」や「生活」を大事にするサントリー美術館らしいセレクションのような気がした。ただ、徳川美術館の膨大なコレクションを知っていると、東京に来てくれるのは、まあこんなものか、という諦めと納得感も抱いた。
絵画は少なかったが、板谷慶舟筆『小朝拝・朔旦冬至屏風』(18世紀)が面白かった。「朔旦冬至」(19年に一度、陰暦11月1日が冬至にあたることを祝う)なんていう行事があるのだな。2014年が朔旦冬至だったらしいので、次は2033年である。