諸星大二郎 2021年7月 集英社文庫〈コミック版〉
最近になって書店で見かけて買った、新しい文庫。
「妖怪ハンター 稗田の生徒たち」シリーズ。
最初、なーんだ、また焼き直し文庫版かあ、とか思ったんだが、「コミックス未収録作品」の帯の文字みてビックリ。
2014年のコミックス『夢見村にて』には入っていなかった「美加と境界の神」という作品が加わっての全三編収録。
そら、もう読むしかないでしょ、って買って、さっそく読んだ。
巻末の初出一覧によれば、「美加と境界の神」は他二作品よりも前の、2009年ウルトラジャンプ発表のものだという。
著者あとがきによれば、
>2014年のコミックスの時は、ページ数の関係から『美加と境界の神』は入れられませんでした。そのうちシリーズの続きを描くこともあるだろうと思って、その時は断念したのですが、なんとなくその機会が来ないまま、10年以上もたってしまいました。初めての単行本化が文庫というのは残念なのですが、このまま眠らせておくのも悔しいので、このさい収録することにしました。
ということだそうですが、シリーズの続きはぜひぜひ描いてくださいますようお願いいたします。
文庫版はねえ、今回これ、初めて読むことになった作品見て、思ったんだけど、やっぱサイズが物足んない気がする。
読んだことあるやつが文庫化されるんならまだしも、やっぱ、ちゃんとマンガ読むなら、A5版くらいは欲しいなと思った。
「美加と境界の神」
『天孫降臨』シリーズでおなじみの天木美加は、村の境界に置く大きな藁人形に興味をもち、四方口村を訪れる。
そこで出会った男の子は、結婚して村に住んでいた姉を探しに村に来たという。
半月くらい前に姉が死んだと知らせがきたが、村の習慣だという葬儀は、火葬にはしないし、親族は埋葬に立ち会わない決まりだった。
初七日の後、東京に戻っていると、姉の携帯からメールが来て、寂しいところにいる、坂を登れないとか書いてある。
義兄に問い合わせても、まちがいなく死んだんだし誰かのいたずらだと言い、とても動揺していて何か隠しているらしい。
「夢見村にて――薫の民族学レポート――」
『天孫降臨』シリーズでおなじみの美加の兄である天木薫は大学生になっていて、民俗学を専攻していた。
実地調査に訪れた夢見村は、夢を売買する習慣や伝説がある土地だった。
温泉で出会った少女についていくと、「村に泊まると夢を見ると思うけど、その夢を誰かが買うといっても売っちゃだめよ」と言われる。
「悪魚の海」
『六福神』等でおなじみの小島渚は、ある夜の海岸で、中学のときの同級生だった後藤カオリが倒れているのを見つける。
カオリは出身の村で海女になり、厳しい訓練を受けていたが、逃げ出してきたのだという。
具合悪そうにしていたカオリは、次の日の夜になると、海に行きたいと言い出し、海に行くと「呼んでる 行かなけりゃ」と意識ふらふらした様子のまま沖に泳いでいってしまった。
小島渚はいつものとおりボーイフレンドの大島をつれて、カオリの家のある尼捨岬の余利集落へ出かけていくが、海の近くに行ったところ、いつものように霊媒体質のせいで、魂が抜けたような状態になってしまった。
まんが専門誌ぱふ 1979年1月号 清彗社
これは今年5月に古本市みたいなとこで見つけたもの、催し物としてはサブカル展みたいなタイトルついてたと思うが、こういう古い雑誌がけっこうあった。
もちろん、表紙に「特集 諸星大二郎の世界」って書いてあったから、それ目当てに買ったわけで。
「未発表作品 昔死んだ男(32P)収録」ってのもなかなかそそる見出しだが、読んでみたら、読んだことあった作品だった。
あとから探したら、『コンプレックス・シティ』に収録されてんだが、その単行本は1980年11月なんで、1979年時点では初出ってことだ。
(こういうとき作品を探すには『諸星大二郎博物館』というホームページがすごく便利、秀逸である。)
この雑誌の発行時点のプロフィールでは、コミックスリストは『暗黒神話』『妖怪ハンター』『孔子暗黒伝1・2』『夢みる機械』『アダムの肋骨』しかないし。
1970年のデビューから1978年12月までの作品一覧表というのもあるが、最新が「徐福伝説」で第43作目とナンバリングされている。
そういうわけで今からみると、ごく初期の作品しか対象になってないんだけど、そこはマニアックな人気が最初からあるので、論評を寄せてるひとはみんなそれぞれ熱いものがあります。
そのなかでも手塚治虫氏が、「ど次元世界」が好きだ、「あれだとわけがわからんながらもとにかくおもしろいんですよ」とか言ってるのは興味深い。
>やっぱり、SFファンと諸星さんの固定ファンのためにですね、今後も描き続けていってほしい。一般の読者をあまり考慮せずにね。或いは、人気とかヒットするかどうかとか大衆うけとか、そういうことを全く考えずにやっていかないと諸星さんは自滅すると思うんですよね。(p.27)
なんてことを今後の期待として語ってますが。
一方で、諸星さんご本人のインタビューもあるんだけど、これが「……」が異常に多い、無言の箇所をわざとそのまま出してくる編集なので、ほんと黙ってしまってる様子がうかがえる。
去年のNHK・Eテレの「漫勉」に登場したときも、寡黙だったからなー、あれテレビ嫌いとか苦手だとかぢゃなくて、昔っからのままだったんだなと再確認してしまった。
インタビュー番外編の筆記回答というなかではおもしろいこと言っていて、
>○怪奇的な事象は科学で解明できると思われますか?
>この質問は間違っている。
>「科学的な事象は怪奇で解明できるか」というのが正しい質問であり、それに対する答は「科学的な解明は怪奇な事象である」となります。
というQ&Aがよくわかんないんだけど印象的。
コンテンツは以下のとおり。
ぱふ美術館
読者のおたより
プロフィール
サイレント・インタビュー――諸星大二郎さんの静かな次元を訪ねて――
諸星大二郎を語る 手塚治虫
諸星世界の幻獣グラフィティ
諸星大二郎――しんとしずまりかえった異常な世界―― 山田正紀
諸星王国の極私的あかでみ賞 まついなつき
所感・諸星大二郎について 服部隆彦
登場人物はすべて作者の分身なのです 筆記回答・諸星大二郎
不安な風景の中の美女 矢野敬子
諸星大二郎名セリフ名場面
諸星大二郎君への手紙 光瀬龍
未発表作品「むかし死んだ男」
コミックス日誌・あたまの中の細密画 小野耕世
1ページ劇場「見ろ、指導者が悪いとああなる。」 諸星大二郎
巻頭すぐの13ページから82ページまでが特集なのに、突然ずっと飛んだ228ページに諸星作品の1ページ劇場をぽつんと載っけてるとか、ずいぶんいーかげんな構成だ。
それにしても、1979年とはわかっているものの、「今、いちばん注目をあつめている若い作家、大友克洋」なんて記事のタイトルをみると、ちょっとしたタイムスリップ感が味わえてしまう。
諸星大二郎 2021年2月 講談社モーニングKC
うかつだった、「火焔山の章」の第2巻が出てるのを知って、買いに走ったのは今週のこと。
2月には出てたんだという、いくらバタバタしてたにしろ、西遊妖猿伝の発売日をチェックしてなかったなんて、ボーっと生きてるにも程があると言われてもしかたない。
このマンガのつづきを読むことを一番の楽しみに生きている、とか言ってるわりにゃあ遅れをとるとは情けない。
なに、次巻は2021年秋に刊行予定、よし、それだけをたのしみに今年の夏を越そう。
さて、物語のほうは、火焔山近くの高昌国というとこで玄奘一行は歓迎されつつも足止めをくってるんだが。
前にとおった伊吾国から、ゾロアスター教寺院の見習いの子ども二人がやってきて、またなんだかんだと悟空にからんでくる。
こんなところでいちいち拘わりあってたら、いつまで経っても天竺になんか行き着きゃしないぞって心配になる。
早いとこ斉天大聖の力でもって、牛魔王でもなんでも倒しちゃってくれよ。(待てよ、西遊記だと、牛魔王とは兄弟分になるのかな。)
それにしても、寧戎窟寺という岩窟寺院で壁画の仏像が抜け出てくるっていうシーンがあるんだけど、モロホシらしい妖しさいっぱいで一発で気に入った。
第五回 高寧城に二童 師を訪ね 岩窟寺に行者 奇を見る
第六回 寧戎城に土民 水を争い 水流洞に群童 難を逃る
第七回 悟空 旧敵を索めて市を探り 八戒 妬心を抱いて跡を追う
第八回 悟空 児を捜して寧城に入り 牛王 威を顕して陋巷を震わす
諸星大二郎 2020年12月 小学館・BIG COMICS SPECIAL
出ました! 待ちに待ったというか、いつ出ても大歓迎の、諸星大二郎の新刊だ。
奥付には12月5日発行ってなってるけど、発売日は11月30日だという情報つかんだんで、その日にすぐ書店行って手に入れたさ。
世間で騒々しくしているマンガなんかは私には関係ない、なんつっても諸星大二郎作品がいちばんさ。
「諸星大二郎劇場第3集」ってことになってて、『雨の日はお化けがいるから』『オリオンラジオの夜』につづく短編集。
初出は「ビッグコミック増刊号」で、何か月かに一度載るみたいだけど、あいかわらず雑誌読んだりはしないので、こうして早く単行本にしてくれるとうれしい。
ちょうど11月12日放送のNHK教育(どーでもいーが「Eテレ」って何のつもりのネーミングなんだろ)「漫勉」で諸星先生執筆の様子やってたから、新しいやつ読みたいなと思ってたとこだったし。
至福至福、新作のページをめくっていくときは、私にとってとても幸せな時間だ。
ただ、そのテレビ番組で、「僕も、なんか天竺まで行けないんぢゃないかな、と思ってる」って言ってたのが気にかかる、どうなる西遊妖猿伝!?
「鳥の宿」
ビリー少年の家の屋根裏に、鳥が迷い込む。
鳥ったって普通の鳥ぢゃない、『バイオの黙示録』や『私家版鳥類図譜』でおなじみの、背中に羽のはえた人のかたちの鳥。
「月童」
「星童」
月童はユエトン、星童はシントンと読む、中国の明だか清だかの時代の話。
星童は人間のように動く人形、月童は一緒についてきた少年で人形の操作をする。
生きているかのように舞を踊る人形ったら、『巨人譚』のなかの「阿嫦」って話もあったな、いつの間にか人のほうが人形に操られていくような不気味さ。
「美少女を食べる」
十九世紀ロンドンの“悪趣味クラブ”といえば『雨の日はお化けがいるから』のなかの短編「空気のような…」にも出てきた紳士の集まりだが。
アシュトン卿の語る本日の悪趣味な話はといえば、人肉料理しかも美少女の肉料理を食べたという経験談。
「アームレス」
アームレスは女性型サイボーグの名前、その名のとおりふだんは腕がないが、状況に応じてトランスフォームしたりする。
戦争前の技術でつくられたメカで今はメンテナンスできる科学者もおらず、あるキャラバンに同行して力仕事をしている。
「タイム・マシンとぼく」
“ぼく”こと春男くんが“ちいちゃん”と映画を観にいくということで、『オリオンラジオの夜』のなかの「原子怪獣とぼく」「ドロシーの靴」につらなるシリーズ。
「タイム・マシン/80万年後の世界へ」をみてたらタイムスリップしてしまう、未来っていっても昭和37年から昭和42年へ行くってこじんまりしてるとこがご愛敬。いいなあ昭和の映画館“木元オリオン座”。
「俺が増える」
ある晩に街はずれの建物の二階で女と酒を飲んで騒いで二日酔いになったアンドレ。
その後その部屋へは行っていないはずなのだが、知人たちは毎晩そこで彼の姿を見ているという。
乗り込んでみたら、ほんとにもうひとりの“俺”がいて驚く。
二人ならよくある話のようだが、しばらくすると“俺”が三人になってるのは笑える。
諸星大二郎 2020年7月 講談社
きたきた! 待ってました! 西遊妖猿伝の新刊!
20日に発売になったんで、すぐ書店行ったさ、すぐ読んだ。
前回の西域篇第6巻が出たのは2015年4月だったんで、5年ぶりかー(遠い目)
なんか単行本の仕様の雰囲気がこれまでと変わっているようだが、まあいい、そんなことは。
もう、このマンガの完結だけが、私の人生の楽しみといえようから。
仕事やめようが、新型ウイルスが来ようが、地震や台風にみまわれようが、これを読みきるまでは死ねない、改めてそう思うね。
前巻まででエピソードが一段落して、新しい章に入った。わくわく。
天竺を目指す玄奘一行は西域のトルファン盆地にある高昌国に案内される、まだまだ天竺は遠いね、しかし。
そこで子供たちばかりの盗賊団みたいのとトラブルになるんだけど、そいつらのアジトは火焔山っていう。
火焔山っていったら、あれでしょ、牛魔王、芭蕉扇、本家西遊記ではおなじみのとこだ。
期待にたがわず、子どもたちが「あの人」って呼ぶ、ものすごい大男で太い鉄の棒を振り回すキャラが出てくる。
でもその正体はまだまだ謎のまま。
次巻、はやく出ないかなー、ああ。
第一回 聖僧 夜を徹して高昌を目指し 行者 山中に孤兒群を見る
第二回 二児 山中に秘窟を探り 悟空 坎井に怪人に遇う
第三回 安氏邸に呉越 同舟し 水流洞に怪人 呻吟す
第四回 城外に悟空 毬を追い 市場に公主 虎を観る