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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

でかした、ジーヴス!

2025-01-10 19:12:55 | 読んだ本
P・G・ウッドハウス/森村たまき訳 2006年 国書刊行会
これは去年5月の古本まつりで見つけたんだけど。
背表紙のタイトルみたときに、はたして自分が読んだもんかどうかわかんなくなって、スマホで自分のブログ検索してしまった。
とほほ、なんて情けない、若いころに読んでたら、そんなことの記憶に自信ないことなんかなかっただろうに。
で、結果として、『それゆけ、ジーヴス』と『よしきた、ジーヴス』は読んでたけど、これはまだだったと判明したので、サクッと買った、読んだの最近になってだけど。
原題「Very Good, Jeeves! 」の刊行は1930年で、順番でいくと『比類なきジーヴス』と『それゆけ、ジーヴス』につづくシリーズ第三冊目なんだそうである。
なんつっても短篇集だってのがうれしいね、短篇のほうがおもしろい、たとえそんなのご都合主義の急速解決じゃんとかって展開でも、私ゃ短篇のほうが好きだ。
ところが冒頭の「ジーヴスと迫りくる運命」を読んでいたら、あれ、これって読んだことあるんぢゃ、って思えてきて、あわてて巻末「訳者あとがき」見たら、文春文庫版『ジーヴスの事件簿 大胆不敵の巻』に「ジーヴズと白鳥の湖」ってタイトルで入っていた話だった。(自分の記憶力がそこまで最悪になってなかったことにちょっとホッとした。)
あと本書の「ジーヴスとクリスマス気分」もおなじく文庫で読んだ「ジーヴズと降誕祭気分」って話だった。
ま、いずれのエピソードにおいても、若紳士バーティー・ウースターは自らのマヌケな見識によって引き起こしてしまうトラブルに遭遇し、従者ジーヴスがその卓越した頭脳によって主人を窮地から救い出すさまはあざやかで、ついでに主人を自分の思うようにふさわしい方向へ調教してくのが、いつ何度読んでもおもしろい。
コンテンツは以下のとおり。

1.ジーヴスと迫りくる運命
主人公バーティーはアガサ伯母さんの田舎の邸宅に招待される、アガサ伯母さんが命令するには、お客のフィルマー氏から良い印象をもってもらうよう行動せよってことなんだが、親友のビンゴがなぜかバーティ―の従兄弟の家庭教師として邸にいる、トラブルの予感しかしない。
>「それだけじゃない。自由意志を持った人間が、単に快楽追求のためだけに僕の従兄弟のトーマスの家庭教師を引き受けるだろうか? あいつは手ごわいガキで人間のかたちをした悪魔だってことはあまねく知れ渡ってるんだ」
>「およそ蓋然性なきことと存じます、ご主人様」
>「水底は深いんだ、ジーヴス」
>「言い得て妙かと存じます、ご主人様」(p.18)

2.シッピーの劣等コンプレックス
バーティーは旧友のシッパリー氏を訪ねる、シッピーは週刊誌の編集長として働いているのだが、ある女性に恋をしている一方、昔の校長がおもしろくもない原稿を書いてよこすのには閉口していた。
>「おそれながら、今現在とっさにということであれば、わたくしが自信をもってご提案できる計画はございません、ご主人様」
>「考える時間が欲しいってことだな?」
>「はい、ご主人様」(p.54-55)

3.ジーヴスとクリスマス気分
レディー・ウイッカムから招待されたバーティーはクリスマス休暇をそこで滞在することに決める、当初予定していたモンテ・カルロ行きがなくなったことに不満なジーヴスはいつもよりやや冷淡である。滞在先では因縁のあるサー・グロソップも来ていて不穏な感じもあるんだが、バーティーはロバータ・ウィッカム嬢に恋をする。
>「ジーヴス」僕は冷たく言った。「君がもしあの令嬢に関して何か批判めいたことを言いたいならば、僕の前では言わないほうがいいな」
>「かしこまりました、ご主人様」
>「またその件については他所でも言わないでいてもらいたいものだ。君はウィッカム嬢のどこが気にいらないんだ?」
>「いえ、滅相もないことでございます、ご主人様」
>「ジーヴス。それでもあえて訊きたい。腹を割って話そうじゃないか。君はウィッカム嬢に不満があると言う。なぜかを僕は訊きたい」
>「あなた様のようなお人柄の紳士様には、ウィッカムお嬢様はお似合いのご伴侶ではあられない、との思いがわたくしの脳裏をよぎったまででございます」(p.83-84)

4.ジーヴスと歌また歌
かつてドローンズクラブでバーティーをひどい目にあわせたタッピー・グロソップが、オペラを勉強中のベリンジャーという女性と婚約したから、昼めしをおごれだの過去の悪いことは言うなだの都合のよいことばかり言う。寛容なバーティーは対応してやろうとするが、ダリア叔母さんが訪ねてきて、グロソップは娘のアンジェラに一時期イレこんでたのにポイと捨てて傷つけたのだという。
>「(略)それであたしは、このベリンジャーとの関係をあんたにぶち壊してもらいたいの、バーティー」
>「どうやって?」
>「どうやってだっていいの。好きなやり方でやって」
>「だけどどうして僕にそんなことができるのさ?」
>「できるかですって? 何言っているの。あんたのところのジーヴスにすべてを話せばいいことでしょ。ジーヴスが道を見つけてくれるわ。あたしが今まで出会った中で最も有能な人物の一人だわね。すべての事実をジーヴスの前にさらして、この問題の周辺に心遊ばせてくれって頼むのよ」(p.118-119)

5.犬のマッキントッシュの事件
レディー・ウィッカムの娘ボビーがバーティーを訪ねてくる、用件は自分の母親の書いた脚本をアメリカの劇場経営者に売り込もうとしている、ついてはその経営者が脚本の採用に影響力をもつ悪ガキの息子をつれてくるのでよろしくもてなしてほしいのだという。
>彼女は僕が入っていくと丁重に挨拶した――実を言うと、あまりにも真心込めて挨拶したもので、カクテルを調整しに退室する前にドアのところでジーヴスが立ち止まり、熱くなりやすい息子が地元の妖婦に強気で当たるのを目にした賢明な老父が投げかけるみたいな、一種の厳しい、警告するがごとき表情を向けるのを僕は見たくらいだ。「冷硬鋼!」と言うみたいに僕はうなずき返し、彼はにじみ去り、僕は快活なホストを演ずるべく残された。

6.ちょっぴりの芸術
ダリア叔母さんのヨット・クルーズ旅行に招待されたバーティーだが、いまロンドンを離れるわけにはいかないと断る、新しい女の子に恋をしているのだ。彼女は芸術家で、僕の肖像画を描いてくれたんだと言うバーティーに、ダリア叔母さんは、そんな縁談をジーヴスが認めるわけないわと断言する。
>「ジーヴス」僕は言った。「君はこのちょっぴりの芸術が気に入らないようだな」
>「いえ、滅相もないことでございます」
>「いやちがう。言いつくろったってだめだ。君の気持ちが僕には書物を読むようにわかるんだ。何らかの理由で、このちょっぴりの芸術は君の意に沿わない。反論する点はあるか?」
>「色彩がいささか明るすぎはいたしますまいか、ご主人様?」
>「僕はそうは思わない、ジーヴス。その他の点は?」
>「さて、管見いたしますところ、ペンドルベリー様はあなた様にいささか空腹げなご表情をお与えなさいました」(p.178)

7.ジーヴスとクレメンティーナ嬢
年に一度のドローンズ・ゴルフトーナメントに参戦するためホテルに滞在しているバーティーのところへ、またもボビー・ウィッカム嬢が現れる。13歳の従姉妹の誕生日祝いにディナーをご馳走してくれという彼女は、最後に従姉妹を女子校へ送り届けてくれればいいんだからと頼む。
>僕はよくよく考えた。
>「そういうことならゆうに我々の射程範囲内みたいだ。どうだ、ジーヴス?」
>「わたくしもさようと拝察いたすところでございます、ご主人様」
>この男の口調は冷たくじめじめしていた。それで、彼の顔にさっと目をやると、僕は「あなた様はわたくしの導きに従っておられればそれでよろしいのに」の表情を認め、またそれはものすごく僕の気に障った。ジーヴスにはまるで伯母さんみたいに見える時がある。(p.216)

8.愛はこれを浄化す
八月になるとジーヴスは休暇をとってどこかリゾート地へ行ってしまう、そのあいだどう過ごすか考えているとダリア叔母さんから招待状が届く。行ってみるとダリア叔母さんの息子のボンゾがいるのは当然だが、アガサ伯母さんの息子のトーマスが滞在しているのは想定外だった。悪魔のようなワルガキのトーマスだが、滞在客の提案による「よい子のお行儀大賞」によっておとなしくしている、それでは賭けが不利だと思ったバーティーはジーヴスを招集する。
>ジーヴスにはいいところがある。彼の心臓はちゃんと正しい位置にあるのだ。厳密な検査の結果彼に欠けた所は認められなかった。彼の立場にある人物の多くが、年に一度の休暇の真ん中に電報で呼び出されたら、ちょっとは怒り狂ったりしてなんかいたことだろう。だがジーヴスはちがう。翌日の午後に彼はそよぎ入ってきた。(p.261)

9.ビンゴ夫人の学友
バーティーの親友ビンゴ・リトルは、女流小説家のロージーと結婚して幸せな生活をおくっていたが、ロージーの学生時代の友人ローラ・パイクが滞在すると事態は一変、ローラが食べすぎはよくない、野菜だけ食べてればいいんだなど意見して、しかもロージーはその意見を鵜呑みにしてるんで、食卓は悲惨なことになってしまった。
>「(略)それでまた恐ろしいことに、そんなことをビンゴ夫人は是認してるんだ。細君というのはしばしばあんなふうなのか? 主人であり支配者たる夫に対する批判を歓迎するものなのかってことなんだが?」
>「奥様方は一般に、旦那様の改善向上に関する外部観衆からの示唆に対し、ご寛容でおいであそばされるものでございます、ご主人様」
>「それで既婚男性ってのは青白くて弱々しいんだな、どうだ?」
>「さようでございます、ご主人様」(p.285)

10.ジョージ伯父さんの小春日和
ジョージ伯父さんはどこにでもいるような肥満気味のオヤジさんで、クラブでうだうだ過ごしている毎日しかないタイプだった、ところがある日ひょっこり来た伯父さんはニタニタ笑いを浮かべて、バーティーにむかって「わしは結婚を考えてる」なんて言い出した。
>「あのバカ親爺が!」
>「はい、ご主人様。無論わたくしはあえてそのご表現を用いるものではございませんが、しかしながら閣下はいささか無分別でおいでと愚考するものと告白申し上げるものでございます。とは申せ、一定以上のご年齢の紳士様が、いわゆる感傷的衝動と呼ばれるものに屈服なされる様を拝見いたすのは稀有にはあらざることと、ご想起をいただかねばなりません。かような紳士様がたは、小春日和と名づけてよろしかろう、ある種、一時的な回春状態をご経験中でおいでなのでございます。わたくしの理解いたしますところ、この現象がとみに顕著なのはアメリカ合衆国ピッツバーグの富裕な住民層においてでございます。(略)(p.317)

11.タッピーの試練
今回のクリスマス休暇はブリーチング・コートの通称バートの邸宅にごやっかいになろうと決めたバーティーは、その地にタッピー・グロソップも滞在していると聞き、以前うけた仕打ちの報復をしてやろうと計画していた。ところが当のタッピーから電報が来て、来るときに俺のフットボール・ブーツを持ってこい、できたらアイリッシュ・ウォーター・スパニエルもよろしくと言ってきた。
>「(略)あいつは僕をサンタクロースだとでも思ってるのか? あのドローンズ・クラブでの一件の後、奴に対する僕の感情がやさしい善意に満ちあふれているとでも思っているのか? アイリッシュ・ウォーター・スパニエルだって、まったく! チッ!」
>「ご主人様?」
>「チッ、だ、ジーヴス」
>「かしこまりました」(p.353)
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