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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

蛇儀礼

2018-07-08 18:21:27 | 読んだ本
ヴァールブルク著/三島憲一訳 2008年 岩波文庫
中沢新一の『虎山に入る』を読んでたら、『「Be Careful」なふたり』って章で、チベットから帰ってきて山口昌男さんとつきあいはじめたころのことを語ってるんだが、
>チベットへ出かけたとき、宗教学科では最初、あいつは気が狂ったなんて言われていたようです。気が狂っている人と言えば、アビ・ヴァールブルクの『蛇儀礼』(岩波文庫)を読んでみますと、この人も僕と似たことを考えていたんだなあと、とても胸を打たれます。
なんていう一文があって、なんだかとても気になったので、本書を読んでみることにした。
ヴァールブルクは、1866年生まれのドイツの芸術史家だか文化史家だかということだが、ユダヤ系で実家は銀行業を営んでいたそうで。
なかみは、1923年に行われた「北米プエブロ=インディアン地域で見たさまざまなイメージ」という講演をそのまま収録したもので、そのとき使ったスライドの写真もいっぱい。
ぜんぶ読んだあと解説まで行ってわかったんだが、その講演が行われたのがベルヴュー病院という病院なんだけど、ヴァールブルクはそこの入院患者だった。
1918年ころから精神を病んで、スイスのクロイツリンゲンにあるその病院に入ることになったんだという、それで「気が狂った」の意味がやっとわかった。
でも、この私立病院は、解説によれば高級ホテルまがいで、ずいぶん立派なひとたちがたくさん世話になっていたようなので、暴れるような危ないひとたちの入れられるとことは違ったみたい。
そこで、だいぶ回復してきたとこで、自分から講演をやってみたいと言いだして許可されたもので、まあ治療の一環なんでしょう、これ。
で、講演の内容は、1895年から96年にかけてアメリカを旅行したときに見た、ニューメキシコだかアリゾナだかの地元インディアンの儀礼、舞踏について。
動物を通じて自然と一体化しようという魔術的な儀礼なんだけど、そのなかで蛇のもつ役割というかイメージが最重要で、もう崇拝といってもいいような扱い。
>蛇は、いったいこの世界においてなぜ根源的な破壊と死が、そして苦しみが起きるのか、という問いに対するまさにさまざまな地域にまたがる返答のシンボルなのです。(p.89)
なんて言ってますが、アメリカ先住民だけでなく、古代ギリシアなんかでも重要な位置を占めてたってとこに結びつけて展開してる。
結論としては、
>神話的思考と象徴的思考は、人間と環境の結びつきの精神化をはかる戦いの中で空間を宗教的儀礼の空間として、やがては思考の空間へと変えてきたのです。しかし、こうした崇敬の空間、そして思考の空間は、電気による一瞬の結びつきによって破壊されるのです。(p.95)
ということで、「電気」ってのは機械文明のたとえなんだけど、現代文明による合理的っつーか科学的な考え方が、人間の伝統の知恵をぶっこわしちゃうことを嘆いてるんである。
気が狂ってなんかいないよ、対称性の思考だ、俺そういうの大好き。(←俺も気が狂ってたりして。)
コメント
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