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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

怪盗ニックの事件簿

2022-09-23 19:01:27 | 読んだ本

エドワード・D・ホック/木村二郎訳 二〇〇三年 ハヤカワミステリ文庫版
読みやすくて短いのが気に入って読んでる怪盗ニックもの、先月に買い求めた古本の文庫だが、もとは1983年に日本で独自に編纂された第三短篇集。
比較的初期の作品もおさめるという方針はありがたくって、1968年・発表順でいうと三番目、1969年・発表順は五番目みたいなのが訳を新しくして入ってる、一般的にこういうシリーズは初期のもののほうが、それまでに温めてたアイデアを満を持して出してくるんで、面白いというのが私の思うところで。
怪盗ニックは二万ドルの手数料で仕事を請け負い、価値のないものしか盗まないんだけど、依頼者にはそれなりの価値があるはずで、そこんとこが泥棒の手際とはちがって謎解きとしておもしろい、ニックはときどき劇中で「わたしは泥棒で、探偵ぢゃない」みたいなことを言うけど、まちがいなくお話としては探偵的要素はある。
本書のなかには、泥棒になったきっかけをニック自身が語るとこがあって興味深い、少年時代からの友人に問われて、
>もちろん、女が原因だ。その女はおれを説得して、泥棒の片棒を担がせた。ニュージャージーにある中世研究所に押し入って、美術品を盗もうと言った。おれはトラックを都合して、建物の中にはいれるようにステンド・グラスの窓を外した。おれが中にはいっているあいだに、その女はステンド・グラスの窓を持って、トラックで逃げてしまった。女は初めからステンド・グラスを狙っていたわけだ。収集家にとっては、五万ドルの価値があったらしい(p.120-121「マフィアの虎猫」)
と言って、ある時点である人にとっては値打ちのあるものってのがあるって価値観に気づいたらしい。
一方、1966年のデビュー以来、ずっと一緒のガールフレンドのグロリアに自分のホントの仕事を打ち明けるのが1979年の作品中でのこと。
グロリアはニックのことを、最初はカタギだと思ってて、そのうち政府の情報機関だか諜報部員だか秘密の仕事してると思い込んでたんだが、ニックがある事件で料理をグロリアのドレスにぶちまけた騒ぎの間に目的のものを手に入れたり、そのことで関係者に泥棒だと詰め寄られたりで、とうとう真実を打ち明けざるをえなくなる。
足を洗えと言われるか、別れると言われるか、反応を読めなかったんだけど、全部の説明を聞いたあとの彼女の答えは、とてもふるっているので、興味あるひとは「昨日の新聞」を読んでください。
おもちゃのネズミ The Theft of the Toy Mouse
 パリのスタジオで撮影中のアメリカ映画の小道具のひとつ、ゼンマイ式の小さな金属製ネズミを盗んでくれ、アメリカでは98セントで売っているおもちゃだという。依頼者は自分の住所も書かず手紙で小切手を同封してきた、そういうのは例外だがニックは受けることにした。
劇場切符の謎 The Theft of the Wicked Tickets
 依頼人は百万長者で、息子がプロデューサーをしているブロードウェイ・ショウの切符を切符売り場からすべて盗んでくれという。切符を盗んでも誰の邪魔もすることにはならない、芝居は二カ月前に終わっているという。
笑うライオン像 The Theft of the Laughing Lions
 ニックがひとりでボートに乗っていると水着姿の女性が海から乗り込んでくる。近年6つの州都で開店営業した「キャピタル・クラブ」のテーブルの上にある石膏のライオン像を盗んできてほしいという。
七羽の大鴉 The Theft of the Seven Ravens
 ロンドンに呼び出されたニックにイギリス政府関係者らしき人物が接近してきて、新しい独立国ゴラの大統領が明後日に女王に謁見し七羽の大鴉を献上する予定だが、献上式典が終わるまでそのカラスが盗まれないように取り計らってほしいという。警備は自分の仕事ではないといったニックだが、結局引き受ける。(どうでもいいけど私はレイヴンとクロウの違いなんて知らなかった。)
マフィアの虎猫 The Theft of the Mafia Cat
 少年時代からの知り合いで同じイタリア系のポールはいまやマフィアの幹部、べつのマフィア組織の大物マイク・ピロネの猫を盗んでくれという。スパークルというその大きな虎猫はいつもピロネと一緒に写真に映っている有名な猫だ。ニュージャージー州北部の湖のほとりの邸宅にニックは釣り人のふりをして近づこうとする。
ポスターを盗め The Theft of the Circus Poster
 フロリダに呼び出されたニックをホテルの部屋で待っていたのは派手なピエロのメイクアップをした男だった。ハービー・ベンスンという引退したピエロが持っているコレクションの一部である、1916年版のサーカス・ポスター、上部に五人の空中ブランコ乗り、下部にサイとピエロの絵があるポスターを盗んでほしいという。
家族ポートレート The Theft of the Family Portrait
 赤いあごひげをつけ瑪瑙の指輪をはめた謎めいた男の依頼、オハイオの小さな大学の女子寮の部屋にある、女子大生と彼女の両親と弟が映っている縦8インチ横10インチの額入り写真を盗んでくれという。
昨日の新聞 The Theft of Yesterday's Newspaper
 一月のロンドンに休暇のつもりでグロリアと来ていたニックのところにフェリックス・ポーランドという男が接近してくる。女優のホープ・トレニスの家では今夜パーティーが催されるが、その家のどこかにある昨日の「ロンドン・フリー・プレス」という新聞を盗んでくれという。
銀行家の灰皿 The Theft of the Banker's Ashtray
 高層ビルにある銀行家のオフィスに呼ばれた依頼は、デスクからガラスの灰皿が盗まれた、価値のないものなのでその理由を知りたいのだというもの。新しい教会を建てるために貸し付けを受けたいといってきた牧師と面会したあとに灰皿が無くなったのに気づいたという。自分は探偵ぢゃないと断るニックに、銀行家は所定の手数料を払うので灰皿を取り戻してくれという。
石鹸を盗め The Theft of the Silver of Soap
 グロリアと休暇中のニックに話しかけてきたのは音楽グループで歌っているという女性、出演契約したクラブが火事で全焼し、楽器は灰になり仕事もなくなってしまった。火事はクラブのオーナーがわざと起こしたにちがいない、オーナーの家の二階のバスルームから店の名前の入った石鹸を盗んでほしいという。

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