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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

星のあひびき

2020-12-12 18:17:30 | 丸谷才一

丸谷才一 2013年 集英社文庫版
これは去年2月に買ってあった中古の文庫、最近やっと読んだ、なまけものな読者だな、私。
単行本は2010年に刊行されたらしく、中身は2000年代後半に新聞や雑誌に書かれたものが多い。
書評もいいんだけど、私としてはやっぱ自由に書かれた随筆的なものが読んでて楽しい。
新聞を読むのが好きだが新聞の言葉づかいには嫌いなものが多いといい、
>どうやら役人言葉らしい。言葉づかひの素人である役人の真似を、言葉づかひの玄人である新聞記者がしては困るよ。(p.223)
とか厳しくいうのは、「一定の」って言葉を「ある程度の」って意味で使うことへの苦言。
文藝春秋編の『東京いい店うまい店』の書き方についてはホメていて、フランス料理や日本料理のいい店よりも、
>読んでおもしろいのはもつと格の低い(ごめんなさい!)料理屋のときである。そば屋とか、おでんとか、天ぷらとかを論じると、筆がのびのびして、文章の生きがいい。(略)気をそそられる。この、気をそそるといふのがこの手の本の大事なところで、たびたび引合ひに出して申しわけないがミシュラン『東京 2008』では一軒もその気にならなかつた。(p.235-236)
なんて評している。
丸谷さんはいつもちょっと変わった空想をして、ときには新しい商売を思いついたみたいなことを書くんだが、今回の傑作は、上野の博物館で兵庫一乗寺藏の天台高僧像の十幅の絵のなかのひとつ、慧文禅師の絵を見たときに思いついたということ。
>写楽はこの絵を見て、あの特異な画法を生み出したのではないか、と。
>(略)一般に、まつたくの独創といふものは存在しない。先行の何かに刺戟されて新規な工夫が生じる。(略)在来の写楽についての探求は彼が何者であるかといふ問題に熱中してゐるくせに、彼が何によつて触発され、何から学んだかといふことは論じてゐない。伝記的事実よりも美の伝統のほうが大事なのに。(p.258)
と言って、写楽は衝撃的な登場の前の年あたりに寺に参詣して寺宝の絵を見て写したりしたんぢゃないか、疑うひとは写楽の大首絵とこれを比べて見てくれと。
それはそうと、いつも丸谷さんの書いたもの読むと、次なる読書のヒントが見つかるんだが、今回、丸谷さんの紹介のせいで、読んでみたくなった本は、長年の友人だったという篠田一士のものもよさそうなんだけど、米原万里の書評について。
とかく日本の書評文化の未熟さをなげくことが多い丸谷さんだけど、
>彼女の長所の第一は、本をおもしろがる能力が高いといふことである。これはもちろん、駄本や悪書を手に取つておもしろがるのでは失格だけれど、見所のある本を手にしても長所がわからず、欠点や短所ばかりに目がゆくたちのリヴューアーは困る。下等な読者はとかくその手のリヴューアーを評価しがちなものですが、あれは邪道です。その点、米原万里は本に惚れるたちである。知的好奇心に富み、本に対して機嫌がいいのだらう、これは高級な生命力のあらはれだ。(p.341)
と彼女の書評をほめ、いつか自分のやってる新聞の書評欄にも参加してもらおうと考えていたという。
コンテンツは以下のとおり。
I評論的気分
 昭和が発見したもの
 わたしと小説
 『高野聖』劇化への一提案
 『坊つちやん』のこと
 本の本を紹介する
 書評文化を守るために
 文学を忘れた綜合雑誌
 サントリー学芸賞のこと
 小説家が教へる海外文学
 名人藝といふべき教訓句論
 角栄や小林秀雄を書く人は?
 花野
 危険な話題
II書評35本
 ハードボイルドから社交界小説へ
 クンデラ絶讃のフランス18世紀小説
 初恋といふあの重い病気の全症例集
 文系大学生に一番人気の社の経営者
 健気で勝気で賢い娘の母恋ひの物語
 現在のなかに歴史と神話が闖入する
 『ロリータ』署名入りパリ初版本は26万ドル
 東国武士伝来の「王殺し」の主題
 落語といふ不思議な藝の継承
 鷗外の歴史小説と並ぶほどの魅力
 仔犬を抱いて笑ふ少年特攻兵の写真は悲しい
 チェーホフ伝の底に花やかな仕掛け
 竹田出雲や黙阿弥と並ぶほどの劇作家
 短篇小説は音楽と夕暮によく似合ふ
 自伝は生き方と語り口の掛け算
 話術絶妙の文学史、ゴシップ集、私小説
 大正文学の余映を浴びて立つ作家
 謎ときの報酬として約束されたもの
 明治男性原理社会を咎めた作家
 白眉といふべき三帖は原文で読まう
 随筆性と教科書性の奇蹟的な両立
 「心情による愛」の歓びと嫉妬のオペラ
 精神分析は「永遠の都」のせいで生れた
 日本文化の基層は南インドから渡来
 『古今』の撰者紀貫之からのバトン
 女人救済といふ日本文学の伝統
 自殺する作中人物のあとを追つて作者も
 精神分析学者のエロチックな自伝
 モダニズムと英雄崇拝
 「妬みについて」から色事と舌の関係まで
 早く生れすぎたジャーナリストの生涯
 若菜つむわがころもでに雪は
 反軍、反左翼の名物教授の恋二つ
 19世紀の精神史を精巧な望遠鏡で
 注連縄から都市までによる人間の研究
III随筆的気分
 わたしたちの歌仙
 「新聞言葉」の恥しい表現
 酒のこと
 わが憂色
 愛用数十年
 眠る
 干支と関係ないけれど、犬と猫とパンダ
 平岩外四のこの三冊
 吉田秀和のこの三冊
 吉行淳之介のこと
 手紙と女
 小説家の空想
IV推薦および追悼
 民族の本音
 中華大帝国の首都よりも
 本を待つ
 よそでは聞けぬ高級な思索 川村二郎といふ男を悼む
 精神の運動神経 平岩外四さんを偲ぶ
 言葉から日本といふ謎を解く 大野晋さんを悼む
 友情の煙草
 昭和史と日本演劇の伝統 井上ひさしさんを悼む
 国見と色ごのみ 森澄雄を追悼する
V解説する
 「コレオグラフィ」といふ言葉のことから
 まぼろし電話
 辞書的人間
 里見弴についての小論
 健啖家にして美食者
 わたしは彼女を狙つてゐた

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美少女を食べる

2020-12-06 17:48:49 | 諸星大二郎

諸星大二郎 2020年12月 小学館・BIG COMICS SPECIAL
出ました! 待ちに待ったというか、いつ出ても大歓迎の、諸星大二郎の新刊だ。
奥付には12月5日発行ってなってるけど、発売日は11月30日だという情報つかんだんで、その日にすぐ書店行って手に入れたさ。
世間で騒々しくしているマンガなんかは私には関係ない、なんつっても諸星大二郎作品がいちばんさ。
「諸星大二郎劇場第3集」ってことになってて、『雨の日はお化けがいるから』『オリオンラジオの夜』につづく短編集。
初出は「ビッグコミック増刊号」で、何か月かに一度載るみたいだけど、あいかわらず雑誌読んだりはしないので、こうして早く単行本にしてくれるとうれしい。
ちょうど11月12日放送のNHK教育(どーでもいーが「Eテレ」って何のつもりのネーミングなんだろ)「漫勉」で諸星先生執筆の様子やってたから、新しいやつ読みたいなと思ってたとこだったし。
至福至福、新作のページをめくっていくときは、私にとってとても幸せな時間だ。
ただ、そのテレビ番組で、「僕も、なんか天竺まで行けないんぢゃないかな、と思ってる」って言ってたのが気にかかる、どうなる西遊妖猿伝!?
「鳥の宿」
ビリー少年の家の屋根裏に、鳥が迷い込む。
鳥ったって普通の鳥ぢゃない、『バイオの黙示録』や『私家版鳥類図譜』でおなじみの、背中に羽のはえた人のかたちの鳥。
「月童」
「星童」
月童はユエトン、星童はシントンと読む、中国の明だか清だかの時代の話。
星童は人間のように動く人形、月童は一緒についてきた少年で人形の操作をする。
生きているかのように舞を踊る人形ったら、『巨人譚』のなかの「阿嫦」って話もあったな、いつの間にか人のほうが人形に操られていくような不気味さ。
「美少女を食べる」
十九世紀ロンドンの“悪趣味クラブ”といえば『雨の日はお化けがいるから』のなかの短編「空気のような…」にも出てきた紳士の集まりだが。
アシュトン卿の語る本日の悪趣味な話はといえば、人肉料理しかも美少女の肉料理を食べたという経験談。
「アームレス」
アームレスは女性型サイボーグの名前、その名のとおりふだんは腕がないが、状況に応じてトランスフォームしたりする。
戦争前の技術でつくられたメカで今はメンテナンスできる科学者もおらず、あるキャラバンに同行して力仕事をしている。
「タイム・マシンとぼく」
“ぼく”こと春男くんが“ちいちゃん”と映画を観にいくということで、『オリオンラジオの夜』のなかの「原子怪獣とぼく」「ドロシーの靴」につらなるシリーズ。
「タイム・マシン/80万年後の世界へ」をみてたらタイムスリップしてしまう、未来っていっても昭和37年から昭和42年へ行くってこじんまりしてるとこがご愛敬。いいなあ昭和の映画館“木元オリオン座”。
「俺が増える」
ある晩に街はずれの建物の二階で女と酒を飲んで騒いで二日酔いになったアンドレ。
その後その部屋へは行っていないはずなのだが、知人たちは毎晩そこで彼の姿を見ているという。
乗り込んでみたら、ほんとにもうひとりの“俺”がいて驚く。
二人ならよくある話のようだが、しばらくすると“俺”が三人になってるのは笑える。


 

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ロッド・サーリングのミステリーゾーン 3

2020-12-05 18:15:34 | 読んだ本

リチャード・マシスン他/矢野浩三郎訳 1989年 文春文庫
ちょっと前から、リチャード・マシスンをもうすこしだけ読みたいなと思っているのだが、なかなか思うようなものが手に入らない。
私の欲しい古本は文庫なのにすごい高かったりするので躊躇する。ということは、そこまで読みたいというほどでもないってことになるんだが。
この文庫はこの秋に古本街で、恒例のおまつりは中止だったりするが、ふつうに見つけたやつ。
著者に「他」って付いてるんで、他のひとの作品も含めたアンソロジーだろうが、まあいいや、短篇が読みたかったところだし。
訳者あとがきによれば、どうやら元は「ミステリーゾーン」ってテレビ・シリーズ、アメリカぢゃあ「Twiight Zone」というタイトルだったらしいんだが、それのノヴェライゼーションしたのが1985年に出た「THE TWILIGHT ZONE : THE ORIGINAL STORIES」というペーパーバックだそうで、その編纂にマシスンがかかわってたと。
9本の短編が収められてて、目次には作者名ないから、どれがマシスンのものかわからないまま、とりあえずアタマっから読んでったんだけど。
おやおや、困ったことに、マシスン作の「言葉のない少年 Mute」と「スティール Steel」ってのは、どちらも既に読んだ『運命のボタン』って短編集にそれぞれ「声なき叫び」「四角い墓場」として入ってたやつだった。
あらら、というわけで、本書での収穫は「消えた少女 Little Girl Lost」ひとつってことになってしまった。
ま、いいか、ほかのもわりとおもしろかったし。
「サルバドア・ロスの自己改良 The Self-Improvement of Salvadore Ross」 ヘンリー・スレッサー
貧乏な若者サルバドア・ロスは工場で足をすべらせて骨折してしまった。
同じ病室の肺炎の老人が「足の骨折なんて、頼めばこの風邪ととっかえてやる」というので、取引に応じたところ、ほんとに二人の疾病は入れ替わってしまった。
退院したロスは、今度は酒場のバーテンに、店のカネをくれたら俺の髪をあんたにやるよと持ち掛けて、これまた成功する。
「楽園に眠る Elegy」 チャールズ・ボーモント
小惑星K7に到着した宇宙船の一行を出迎えたのはグレイプールと名乗る小柄な男ひとり。
船員たちが周囲を調査しにいくと、老若男女の人々がいるが、誰もが何かの作業をしているようでいて凍りついたように身動きしないで止まっている。
「言葉のない少年 Mute」 リチャード・マシスン
自宅の火事から助けだされた少年パールは保安官にひきとられたが、まったく口をきかない。
保安官の家族や学校の先生はなんとか彼にしゃべらせようとするが、パールが言葉を発しないのには普通ぢゃない理由があった。
「スティール Steel」 リチャード・マシスン
ポールとケリーは機械ボクサーをつれて試合を探していたが、時代遅れのその機械はだいぶガタがきている。
禁止令が出る前までは、自身がライトヘビー級のボクサーでスティールと呼ばれていたケリーは、壊れかけた機械でもなんとか試合をしようとする。
「ジャングル The Jungle」 チャールズ・ボーモント
二十二世紀の地球では、人口問題などを解決するために、ジャングルの土地で山を切り崩し沼を埋め立て、コンクリートで人工的な大都市をつくっていった。
しかし、マラリアに似た病気が発生し都市の建設者たちが倒れていくのは、開発に反対して抵抗した原住民たちの呪いのせいではないかと疑われた。
「人間饗応法 To Serve Man」 デーモン・ナイト
あるとき、豚に似た顔で緑色の上着に半ズボンのカナマ星人が三人で地球にやってきた。
国連の会議に出席したカナマ星人は、新しく安い動力源の供給などを提案し、自分たちの享受している豊かさを地球にもたらすためにやってきたと、その動機を説明した。
「そっくりの人 In His Image」 チャールズ・ボーモント
カーヴィルという町から来たというピーター・ノーランは、ニューヨークで七日前に知り合ったジェスという女性をつれて自分の家につれていく。
ところが町の様子は、聞いたことのない名前の店などあって、自分の記憶とちがうし、自分の家のはずが違うひとたちが住んでいた。
「消えた少女 Little Girl Lost」 リチャード・マシスン
クリスとルースの夫婦は、ある深夜に娘のティナの泣き声で目を覚まし、娘の寝ているリビングへ様子を見に行く。
娘の泣き声は聞こえるが、姿はどこにも見えない。声はソファーの下のなにもない空間から聞こえてくるのだが、手探りしても何もない。
「悪魔が来たりて――? The Devil,You Say」 チャールズ・ボーモント
新聞記者のたまり場の店で、コラムニストの仕事をもうやめるというディック・ルイスが回想する話。
ニュースなんてない町で、小さな新聞社をやっていた父親が死んで、その事業を引き継ぐことになったが、一か月過ぎるころには破産せざるをえなくなった。
ところが真夜中のオフィスに、顔中ひげだらけ、黒の小さな山高帽の老人がやってきて、父上とは懇意にしていたジョーンズという者だと言い、きみとちょっとした取引をしようと思うと持ち掛けてきた。

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