コリン・ウィルソン+タモン・ウィルソン/関口篤訳 1995年 青土社
ことし5月に古本市で見つけて買ってみた本、大きくて厚い本は置き場困るんだからやめようと思ってるのにやめられない私。
著者の名前は『とり・みきの大雑貨事典』で知ってから気にしてたもんで、ほんとはそこで紹介されてた『現代殺人百科』が読んでみたかったんだが、とりあえずなんでもいいやと、これ手に取った、世界の七不思議とかそーゆーの好きだし。
著者について、前出書でとり・みきは、
>彼の興味の対象はつねに「怪しげなもの」「異端視されているもの」「いかがわしいもの」に向けられている(『とり・みきの大雑貨事典』p.68-69))
と紹介している、「哲学者兼博物学者兼オカルト研究家兼SF作家」ともいう。
でも、
>(略)知り合いのオカルト方面に詳しい若手SF作家によれば「本質を見通せず、うわべの俗物的な部分だけを拾いあげることしかできない凡人」ということになる。確かにこの人の本は、数だけはやたら多くの事例が紹介されるものの、あくまで自分は「紹介者」という立場をくずすことはない。(同)
ということで、「終わりも始まりもない本」ということになる、ヒマツブシにはいいよね、そういうの、疲れなくて。
そういうわけで、二段組だし、たしかにやたら文字数が多いが、ヘンな話はきらいぢゃないんでサラサラと考えずに読んでった。
一読しての今んとこのフェイバリットは、いわゆる超常現象ものなんかぢゃなくて、歴史上の謎みたいなやつということになった。
1825年12月に死んだはずのロシア皇帝アレクサーンドル一世は、実はそのときの病気を機に行方をくらまして、1836年に浮浪者として逮捕されシベリヤ送りになったけど、当地で治癒師として評判になったフョードル・クズミッヒという人物の正体こそ元皇帝ではないかとか。
1461年に英国王に就いたエドワード四世の死後、その王子二人がロンドン塔に送り込まれ、王子二人を殺害したのはエドワード四世の弟のリチャード三世という説が有力だが、それはホントなのかどうかとか。
いいなあ、そういうの、と単純に思っただけなんだが。
どうでもいいけど、話の本筋とは直接関係のないなかに、
>十八世紀の文豪ドクター・ジョンソンの断言「愛国主義は悪漢の最後の逃げ込み場」(p.333)
とか、
>近世ナチスの宣伝相ゲッペルスのように、ジュニアスも「人に嘘を信じ込ませるには、これを反復唱えるのが最良の手立て」(p.389)
みたいなフレーズがあったときに、あー、現代日本でも使えるなー、なんて思った。
コンテンツは以下のとおりだが、原著は標題ABC順のものをこの翻訳版では分野別に再編してる、とり・みきも書いてたけど、わざと百科事典型にしてる趣向なんだから、そのまんまでよかったのではないかという気もする。原題「UNSOLVED MYSTERIES―Past and Present」は1993年の出版。
1自然
ミステリー・サークルの謎
人類進化の謎ミッシング・リンク
渦巻理論 自然と超自然を結ぶ架け橋
2幻獣
妖精は存在するのか
ディーダラスの海蛇 深海の未知の巨大怪獣
吸血鬼は存在するのか
ゾンビーあるいは死人が歩く
3歴史
ナチス副総統ルドルフ・ヘスとその替え玉
ロシア皇帝アレクサーンドル一世の死の真実
ロンドン塔の王子殺害犯はリチャード三世か
アーサー王と魔術師マーリン
ホメロスとトロイア落城 事実か神話か
グローゼル文明は考古学の謎かいかさまか
失われた大陸の忘れ去られた歴史書 オーエラ・リンダ書
古代海洋王の地図 氷河期の高度文明
4事件
極左テロ集団の謎の獄中死 バーダー/マインホフ・ギャング団
墓場からの声 テレシタ・バサ殺し
豪州首相は中国のスパイだった ハロルド・ホルトの失踪
グレン・ミラーの不可解な失踪
クリーヴランドのばらばら殺人
忘れられた学童 鉄道事故奇譚
国会議員の奇怪な行方不明事件
切り裂きジャックの新事実
探検家メリウェザー・ルイスの死
英国を戦慄させたジュニアス匿名投書事件
十八世紀の嘘つき女 エリザベス・カニングの謎
5超自然
死体が血を流して犯人を名指す
運命の頭蓋骨 水晶細工の奇怪な物語
宇宙からの訪問者の末裔・ドゴン族
災厄を呼ぶ「ホープ」ダイヤモンド
6超心理
天使が取り憑いた作家P・K・ディック
死人が取り憑く
心の謎を説き明かす催眠術
丸谷才一・井上ひさし選 昭和59年 朝日文庫
前回記事(「ぱふ」)の雑誌インタビューでは、「時々、CMのパロディなどもありますね」に対して江口寿史が「そればっかという話も(笑)。」と答えたりしてるんだが、パロディといえば、これ。
これは今年4月に地元の古本市の初日に手に入れたもの、普通に文庫のワゴンにあった。
『花のパロディ大全集』の続編なんだが、見つけるまでに一年半もかかってしまったんで、見た瞬間すぐつかんださ。
初出は「週刊朝日」の1979年1月から1981年11月ということで、どんな時代だったかというと、あとがき代わりの対談で丸谷さんが、
>(略)ですから「週刊朝日」のパロディ三十四回の歴史というのは、要するに田中角栄騒ぎの日本史とちょうど重なっている。角栄さんが我々のパロディの大スターであったというのは当然のことなんですが、しかし単に年代的にダブっていたからという理由だけではなくて、この人はもともとパロディに向いている感じが非常にありますね。(p.188)
という社会背景というか世相というか、そんなころ。
政治関係のものをパロディにしてやっつけるのは基本という丸谷さんは、角栄以後のキャラクターにきびしく、
>それに遠慮のないところを言はせてもらへば、総理大臣はやはりもうすこし花のある人が望ましい。福田さんも大平さんも立派な人なのでせうが、残念ながらパロディには向かないのです。(p.26)
とか、
>ただ一つ残念だつたのは大福両氏をからかふ佳作がつひになかつたことです。諷刺でいちばん基本になるのはやはり政治諷刺ですから、ここのところが手薄になるのは寂しい。しかしこれはむしろあの二人が悪いのでせうね。実を言ふとわたしもいろいろ試みてみたのですが、うまくゆかなくて筆を投じました。近頃の日本の政治は本当に困る。(p.83)
という具合に「総理大臣がパツとしない」と嘆く。
どうでもいいけど、鈴木善幸首相をとりあげたネタのなかには、「棒読み」とか「顔も上げぬ男の話の空しさよ」とか「原稿を一枚抜かして読む」とかってフレーズが使われてて、そんなことあったっけって憶えてないんだが、まあ歴史は繰り返すものなんだなと思った。
毎回いい作品が寄せられてるんだけど、それだけに選者の要求するレベルも上がってるみたいで、恒例の百人一首で政治と野球ネタに佳作が少なかったときに、
>不振の理由はおそらく、起こつた事件の表面をなぞつただけで百人一首の元歌に当てはめ、それをパロディだと思つてゐることにある。しかしそれではパロディは出来ないんですね。事件や人物を思ひがけない角度からとらへ、冗談や諷刺を成立させたときはじめてパロディと言へるのです。(p.136)
なんて丸谷さんは苦言を、高度な苦言を呈している。
ふつうの文藝時評みたいな物言いだ、日本文学史におけるこの企画への期待の大きさを感じてしまう。
別の替え歌を題材にしたときにも、
>不振の原因について井上さんは、「元唄の文脈をとらえてゐないものが多い」と言つてゐましたが、まさにその通り、従つて、字句のもぢりに部分的にこだはつて、意味の方向がはつきりしないことになつてゐた。これでは困るんですね。(p.118-119)
なんて言っていて、「楽な話ではない」「厄介きはまる作業」と難しさを認めたうえで、パロディいかにあるべきかを説いている。
井上さんも、別のところで、
>全体の構想には大胆不敵な冒険を、そして細部にはもっともらしい忠実さを、これまたパロディ作法の基本です。(p.96)
というようなことを言っていて、もう単なる読者投稿ページの遊びではなく、この文藝に懸ける思いの強さが伝わってくる。
どうでもいいけど、本書には百人一首ぢゃなくて、「石川啄木の短歌」をパロディのお題にした回があるんだけど、2500の投稿があって日本人は啄木が好きなんだという話になるんだが、
>一行目、二行目をわざと下手に作っている気味がある。そして三行目に全力を傾注して自分の感情を盛り込み、表現にも苦心している。だから、下手、下手ときて上手に締めくくっているわけだね。これは芸当ですよ。こんな芸当を突きつけられて、当時の歌壇はさぞかし仰天したことだろうねえ(p.156)
という丸谷さんによる石川啄木の歌そのものに対する解説があって、すごい、そういう読みを教えてくれれば国語の教科書だってもっと興味もてただろうに、とは思った。
さてさて、私としては本書のなかでは、定番の百人一首よりも、ちょっと変わったお題のほうが好みだった。
「日本語を考える会編 『レーガンVSリーガン』」とかの「架空書評」なんかはもちろんおもしろいが、日本国憲法前文を使って、
>われら悪徳医は、金銭を主眼として行動し、われらとわれらの子孫のために、一部私立医大との協和による裏口入学制度と、わが国全土にわたる医師優遇税制のもたらす恵沢を確保し(略)(p.103)
みたいなのが、いかにもパロディって感じしていい。
あと、「パンダが死んだら何屋が儲かる!?」って回は、選者井上さんいわく「こじつけゲーム」なんだけど、おもしろい遊びだ。(おそらく1979年にランランが死んだという時事ネタと思われる。)
>パンダが死んだら、その記念に西郷さんがパンダを引いて立つことになる。そこで、全国の犬がひがんで吠えなくなる。犬が吠えなくなると、泥棒がふえる。泥棒がふえると、亭主族の帰りが早くなる。亭主族の帰りが早くなると、ネオン街がさびれる。ネオン街がさびれると、女性たちが昼間の勤めにきりかえる。昼の勤めにきりかえると、通勤ラッシュが激しくなって電車が増発。電車が増発されると、車両の需要がふえ、パンタグラフ・メーカーが儲かる。(p.42)
ってのが一席に選ばれたひとつなんだけど、西郷さんの銅像がパンダを引いて、それで番犬が吠えなくなる、って飛躍した導入もいいし、パンダからパンタグラフへって結末がばかばかしくて、おもしろい。
コンテンツは以下のとおり。
狂歌百人一首
江川君を励ます歌
パンダが死んだら何屋が儲かる!?
書かれざる本(?)の「架空書評」(1)
狂歌百人一首
「枕草子」
憲法前文
軍艦マーチ
狂歌百人一首
ある有名人の架空演説
石川啄木の短歌
現代一流作家が書く「なんとなく、クリスタル」
書かれざる本(?)の「架空書評」(2)
対談/丸谷才一=井上ひさし パロディの大スターたち
まんが専門誌ぱふ 1983年7月号 雑草社
これは「特集 諸星大二郎の世界」のやつ買ったときに、近くにあったからついでに買った。
ちなみに、諸星大二郎特集号は発売当時の定価の2倍以上の高値したんだけど、この号は定価の6割にも満たない、まあ普通の古本の値段です。
もともと「ぱふ」って、私は読んだことないんだけど、名前だけは知ってたのは江口寿史のせいで。
『NANTOKA NARUDE SHO!』の「なんとかなるでショ!」第14話で、誌上募集企画で恋人募集したが応募ゼロだったというオタクっぽい設定の大学生キャラに対して、
>『ぱふ』とか『ニュータイプ』とかの文通希望コーナーにでも出してみたらどーでしょうかね
って江口がコメントするって一コマがあって、どんなんだろうなと思ったもんだ。
さて、この特集号が出たのは1983年ということで、江口先生は「ひばりくん」の連載をしていた時期。
インタビューによると、正確には「ひばりくん」の連載を休んでいた時期で、インタビュアーに「六ヵ月描いて、三ヵ月休むというペースが定着しつつありますね」なんて言われてる(笑)
対して先ちゃんは「これから描きためるんですよ」とか言ってる、なんかいつも言ってる気がする、「ネームはできてるんですよ」とか(笑)
「六月に『ひばりくん』の単行本三巻が出るから、それの直しをしてる」なんてことも言ってる、連載時には締め切りに追われて描ききれてなかった、バックに手を入れてる模様。
単行本出すとなると、「収録する作品に関してはテッテ的に手を入れ直すのです」と『江口寿史のお蔵出し』でも言っているとおり。
っつーわけで、この時点での作品リストをみても、「POCKY」までの13作品しかないんで、インタビューぐらいしか興味をもてる記事はないんだけど。
インタビューでは、
>――御自分のギャグに対しては、どう思っていますか?
>江口 過激で日常を壊すというのをやってみたい。常識を壊すという。日常的でありたいと思うから、一種のSFみたいな感じでやっていきたい。
とか、
>――これから描いてみたい作品の傾向などは?
>江口 ギャグ、ホントのナンセンスを描いていきたい。SFギャグ。ギャグにこだわっていきたい。
とかって受け答えがある、ほんと、描いてくださいよぉ。
※9月5日付記
インタビューでは
>「ひばりくん!」で、ファッションが今っぽいですが、資料などは?
>江口 資料は『MC Sister』。
なんてやりとりもあるが、そういう細かい情報出すとこ当時からおもしろいと思って見てたなあ。
特集ページのコンテンツは以下のとおり。
カラーイラスト
インタビュー・江口寿史 ギャグにこだわっていきたい
仕事場訪問
江口寿史の交遊録 大友克洋・いしかわじゅん・田村信・吉田まゆみ・高寺彰彦・赤星たみこ・河野哲郎
全作品グラフティ・作品リスト・単行本リスト
「すすめ!!パイレーツ」の世界
パイレーツ栄光の軌跡
パイレーツメンバー表
めいばめん集
「ひのまる劇場」の世界
キャラクター紹介
鈴木家の一日――文江ちゃんを中心に――
ひのまる主役交代劇(コマ数考察)
「ストップ!!ひばりくん!」の世界
CHARACTER'S GRAFFITY
ひばりアルバム
耕作くん苦悩の日々 ひばりくん幸福な日々
迷場面 迷セリフ
FASHION
江口寿史のキャラクター総点検
美女美少女ベストテン!!
美男美少年ベストテン!!
そこのあなた、これを見て大丈夫ですか?
白いワニ大集合!!
おもしろければ、それでいい。西村幸生
特集後記