あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

宇田川悟著「パリの下ジャズは流れる」を読んで

2023-12-07 10:33:36 | Weblog

 

照る日曇る日 第1990回

 

1980年代から20世紀末までおよそ20年間西欧芸術の都パリに滞在した著者が、その貴重な体験と該博な知見を存分に発揮して、アメリカならぬフランスにおけるジャズの歴史とその変遷を、なんとまあ610頁の長きにわたって語りつくした刺激的な書物である。

 

しかしながら、クラシックなら少しは耳にしたが、まるっきりジャズ音痴の私は、文中綺羅星のごとく点滅するジョセフィン・ベーカー、デューク・エリントン、マイルス・デイヴィス、ルイ・アームストロング、イヴ・モンタン、エデイット・ピアフ、ミシェル・ルグラン、ゲンスブールくらいの名前は知っていたものの、彼らの音楽や、彼らが米仏両国でどのような活動をしていたのかについては甚だしく無知であり、本書で詳細に触れられているジャンゴ・ラインハルトの功績にいたっては何も知らなかったので、まるで小学生が音大の教室に迷い込んだような思いで、本書からパリとパリジャンとフランス的ジャズについての多くを伝授されたような次第である。

 

ジャズやその周辺の音楽だけではない、著者はフレンチジャズの本質を追求するだけではなく、その周辺にうごめいていたドビュッシー、ラベル、「五人組」、ストラヴィンスキー、とりわけエリック・サティなどのクラシックの作曲家たち、コクトー、ボリス・ヴィアンなどの森羅万象万能型プロデューサー、アポリネール、プルースト、ピカソ、ピカビア、ミシュル・レリス、サルトル、ボーヴォワールなどの作家&芸術家の動静を仔細にレポートするのである。

 

また永井荷風、大杉栄、林芙美子、宮澤賢治、武満徹、岡本太郎、薩摩次郎八、美輪明宏、大江健三郎などの日本人とパリとの関わりについても鋭い洞察を示し、パリの芸術と文化に大きく貢献したサン・ジェルマン・デ・プレの3つのカフェや有名なジャズクラブの盛衰、さらにはルイ・マルの「死刑台のエレベーター」以降ジャズと深い結びつきをもつようになったヌーヴェルヴァーグの映画世界についても独自インタビューを含めた興味深い記録と逸話を書き残している。

 

しかも、これらの記述が頭でっかちで空疎な観念論から遠く離れて、自らの目と耳と手足を駆使して体得した、切れば血が出るような生き生きした音楽人生ものがたり、永遠の巴里青春賛歌と化している点が、まことに素晴らしいと思うのである。

 

    ちょっと来いとコジュケイに呼ばれて来てみればジャズの花咲くチュイルリー公園 蝶人

 

 

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