穂村弘著「もしもし、運命の人ですか。」を読んで
照る日曇る日 第1997回
「嫌いな相手とふたりで食事をすることはないだろう。だが、嫌いでない相手とセックスしてもいい、の間には深い溝がある」
ふむふむ、そりゃそうじゃ。んで、それからどうなる?
なんちゅう方向性についてあれこれ具体的にモノガタル随筆の名手、穂村選手による名品の数々がずらずら。
とりわけ女性をホテルに誘おうとする男性の内心を、鋭くも悲しく、面白くもおかしく描き切っている超絶名人芸には、なるほど、にゃるほど、といたく感嘆した。
さだめし年季の入った実人生の実体験のなせる業なのだろうが、それをこれくらい軽妙洒脱に書ききる剛腕はただ者ではない。
作者が焦って飛び込んだラブホテルのロビー。「そこで真剣に部屋を選んでいる杖を突いた高齢の男性と銀髪の女性の横顔を見て、圧倒されながらなにか感動に近いものを覚えた」と書く作者は、こんな短歌を載せている。
四十になっても抱くかと問われつつお好み焼きにタレを塗る刷毛 吉川宏志
短歌もなかなかに凄いが、エッセイの切れ味はさらにその上を行く穂村選手なのであったあ。
スマホにもAIさんの世話にもならずわが生涯をゆるゆる終える 蝶人