最近は新しい本を読むよりも、昔読んだ本を引っ張り出して再読し、初めてその言葉に出会った時のフレッシュな感動を思い出しながらその味わいを楽しむことが増えてきました。
本を売る側も考えていて、昔の本もそのままでは売れません。
昔の本の良いところだけを集めたダイジェスト版のほうが手軽に読めて、その大事なエッセンスを取り入れることができるという狙いがはっきりしています。
しかしダイジェスト版が安直だ、ということでもありません。
明治維新最大の功労者であったかの西郷隆盛は、幕末の儒学者佐藤一斎の著した『言志四録』という四冊からなる書物から、101の言葉を抜き出して、常にその傍らに置いていた、と言われています。
言志四録は大変優れた人間修養の書物ですが、内容の量が多ければ、そこから人生のヒントを探すことが難しくなります。
書物の中から、特に自分が感動した部分だけを集めて座右の書としておけば、手軽に自分自身を顧みることができることでしょう。
ダイジェストはそれもまた一つの知恵なのです。
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先日立ち寄った本屋さんで書架をめぐっているうちに、安岡正篤さんの『人生手帳』という本を見つけました。
これは、故安岡先生の膨大な書物の中から選び抜かれた語録を用いた『安岡正篤勝岳語録カレンダー』の中の語録を新書版にしたものです。
古来東洋では、「聖人の言は簡、賢人の言は明」と言われ、『論語』以来、東洋の個展は、簡明で端的な表現を良しとしてきた伝統があります。
簡にして明なる名文を、常に座右の書としておける幸運をわずか1200円+税で得られるとは良い時代を生きているものです。
心はときどき清い言葉で洗濯をするのが良いようです。