4月の始めに映画「ドライブ・マイ・カー」を観に行きました。
もちろんアカデミー賞国際長編映画賞を受賞したから、ということもありましたが、「流行物には乗っておけ」という自分なりの価値観もあって、(一度は観ておかなくてはと思っていたのです。
私自身、村上春樹のファンではないのですが周りにいわゆるハルキストと呼ばれる村上春樹ファンがいたことで何らかの影響は受けていました。
特に北海道はときどき彼の小説の舞台と思われる場所があることから、道民の知識として少しは彼の小説を知っておいた方が良いということもありました。
その最初のきっかけは、稚内にいた数年前に居酒屋で飲んでいたときにひょっこり現れた外人さんに話しかけたことでした。
彼は道内の大学に勤めるフランス人だとのことでしたが、「どこへ行くの?」と訊いたときに「十二滝町を見に来た」と言われて面食らったことを今でも思い出します。
「北海道には十二滝町なんて町はないよ」と言うと彼は「あなたはハルキ・ムラカミを読まないのか」と来たもんだ。
「読んだことはないよ」
「ふむ、"Chasing Wild Sheep"と言うんだがね」
彼がその時に言った"Chasing Wild Sheep"を調べてみると、それが彼の「羊を巡る冒険」という小説だと知り、その中で展開する場面がどうやら道北の美深町と思われると知った時には、自分の不明を恥じました。
世界から村上春樹を読んだ人たちが、小説の中の風景を求めて北海道を訪れるというのに、自分自身全く無頓着なのはとても残念だと思ったのです。
その後に「羊をめぐる冒険」を読み、美深町を旅して山の上にある松山湿原にまで登り、それまでのあまりの"知らなさ"への贖罪を果たした気になっていました。
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そしてそれに関連して単行本を買って読んだのが「ドライブ・マイ・カー」でした。
家の中に当時買った本があったはずだと思って探してみましたが、ようやく出てきました。
小説「ドライブ・マイ・カー」は思わぬ形で話題になった小説で、それはこの小説の中に登場する女性ドライバーがタバコを車外に捨てるシーンがあるのですが、元々は「それは(彼女の生まれた)〇〇町ではみんなが普通にやっていることなのだろう」という一文に実名の町の名前が入っていたところにクレームがついて、この単行本の段階でもすでに彼女の出身地は北海道の「上十二滝町」(映画では「上十二滝村」)という架空の名前になっているのでした。
町の名前が実名の方が良かったのか、架空の町の方が良かったのかそれはよくわかりませんが、あまり風景に詳しい描写もなく、映画では赤平町でロケが行われたようです。
また今回はロケ地としての広島市が注目される形となり北海道民としてはちょっと残念な気持ちもあります。
個人的には、中頓別の知駒峠から見られる雲海や頓別川の川霧などはちょっと不思議な風景で気に入っているのですがね。
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さて、映画のドライブ・マイ・カーは、村上春樹さんの短編集「女のいない男たち」に収録されている短編小説「ドライブ・マイ・カー」をベースにしつつ、同じくこの本に収録されている「シェラザード」、「木野」の中のシーンを紡ぎながら展開しています。
私の場合はうすぼんやりした記憶を持ちながら映画を観て、そして改めてこの短編集をめくり直してみたもので、「ああ、そうだったかな」と思う事ばかり。
何かを事前に知っていたら自慢できるか、と言えばそんなこともないし、所詮は小説の中の場所を追いかけてみても「るるぶ旅」みたいなものなので、まずは純粋に映画を楽しんでみてはいかがでしょうか。
逆に広島に旅行に行きたくなりますなあ。