都市計画学会の都市地域セミナーがありました。
話題提供者はお二人で、まずは北海道弟子屈町の徳永哲雄町長さん自らがリモートでご出演。
弟子屈町の取り組みは、町内にある阿寒摩周国立公園内の川湯温泉街で朽ち果てた廃ホテルを除却したという事業の説明です。
徳永町長は、「『廃ホテルの除却などできるわけがない』という声が多かった中で、ある廃ホテルの建物が火事になりその後始末を町役場がやらなくてはならなかった。
ちょうどその時に環境省で国立公園満喫プロジェクトが始まった。
そこで町はふるさと納税による基金を活用してその建物の権利関係を整理・取得して国に寄付をしました。
国の土地になったことで環境省による直轄事業国の予算で建物の除却ができ、それが住民にもわかりやすい「除却ができる」という前例になった。
民間建物の権利関係の整理はやってみると本当に大変なのだが、そこは役場の職員が頑張ってくれて一棟ずつ手続きを進めてきた。
ふるさと納税による一定の財源が得られたことと、国立公園満喫プロジェクトがはまったことで環境省の力を借りられたことがうまくいっている背景になっている」という説明がありました。
こうして除却を行った跡地には星野グループなどによる新しいホテルの進出が計画されており、今は非常に面白い動きが出ている。
また、そういうことが契機となって、町の中心市街地にあった営林署の跡地を利用してお風呂や図書館、プールなどが入る複合施設をつくろうとしてい。
それにはボーリングで出る高温のお湯を使ったバイナリ発電を活用した環境に貢献できる建物にもなってゆく予定だ、とのこと。
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次に環境省国立公園課の植竹課長補佐より、国立公園満喫プロジェクトの事業や今後の進め方についてのご説明を受けました。
国立公園課の植竹課長補佐からは、これから国立公園内に満喫プロジェクトによる宿泊施設を認め誘致してゆくためのガイドラインなどについての説明がありました。
利用者数のコロナ前と比較しての戻りが気になりますが、事業の成功度合いは単なる利用者数だけではなくて、満足度なども指標としてとらえたい、と言います。
質疑応答の中で徳永町長は、「おもてなしと言っても住んでいる住人が自分たちの周りをきれいにできるようにならなければ魅力はないだろう」
「私自身酪農経営しているが、まず農業景観がきれいになったのは水田。次に十勝の畑作風景、そして最後が根釧の酪農地帯だった。農業が儲かる産業になり生活にゆとりがなければきれいにならない。
まちも同じでそこの町がきれいで魅力的だ、という意識でおもてなしをすることが大事だと思う。
川湯温泉の若者たちが一念発起して、温泉川をどぶさらいしてきれいにするという実践活動をしてくれたが、そういう高い志があることがありがたい。
宿泊施設も、金儲けして倒産していなくなるようなことではなく、入湯税などを含めて長続きする仕組みを整える必要があるのではないか」
そんなお話をされました。
さらには、今後はまちなかの古いホテルを除却して新しいホテルを建てる動きがあり、それが核となって地元も頑張りながら飲食店などの賑わいも作り出したいと思う。
地域協力隊が情報発信してくれて頑張っている。今後はワイナリーやチーズ工房の整備なども構想しているが、あらゆる人材と協力しながら魅力的な町にしてゆきたいと思う、というような未来を描かれていました。。
今回はかつて栄えた温泉街の古い建物を除却することで、再活性化が進んでいる好事例という事で弟子屈町の取り組みを取り上げましたが、その動きに通底するテーマを、「次世代へのバトンの渡し方」としました。
何かを足し算して行って活性化を行う手法に対して、今ある負の遺産を取り除く"引き算の事業"によって町を新しくする取り組みを「次世代へのバトンを渡す」とした捉え方が面白い切り口でした。
今回は外部からのリモートによる一般の聴衆参加者も多く、興味深い取り組みだったことが伺えます。
関係の皆様、ご苦労様でした。