尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ヘルプ」と「ドライブ」-新作映画のおススメ

2012年05月01日 23時31分38秒 |  〃  (新作外国映画)
 映画について何回か。まずはGWにやってる新作映画について。もちろん全部は見てないけど、今年のアカデミー賞や昨年のカンヌ映画祭受賞作品なども出そろって、なかなか充実した作品が多い。

 僕の一押しは「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」。これはビートルズの主演映画じゃなくってなんて言っても、もう知らない人の方が多いかな。曲は「なんでも鑑定団」のテーマ曲で知られてるだろうけど、リチャード・レスター監督の遊び心にあふれた「HELP!」という映画の面白さは忘れられない。今回の「ヘルプ」はアメリカ南部の黒人メイドのことを指し、60年代初期のミシシッピ州の厳しい差別の中で苦闘する女たちの物語である。これは「作られたときからの名作」で、皆に勧められる感動的な作品になっている。今年のアカデミー賞で助演女優賞受賞の他、作品賞、主演女優賞、助演女優賞にノミネート。つまり助演女優賞には2人ノミネートされていたわけ。「アンサンブル演技賞」を作れる賞は、そういう受賞になってる場合もある。しかし、アカデミー賞などは個人賞だから誰に与えるべきか、見てても悩んでしまう。働く側の黒人女性メイドの悩みも、雇う側の白人女性の様々な事情も実に上手に描きわけられている。アンサンブル演技のお手本。自分なら誰にあげるか考えながら見るのもいいと思うから、助演女優賞を誰が取ったかは書かない。監督は2作目のテイト・テイラー。キャスリン・ストケットの原作は集英社文庫上下2巻で出ている。二人ともミシシッピ州ジャクソン出身で、もともとの知り合いで出版前に映画化権を取ったということだ。

 テーマ的には、黒人差別が間違ってるなんて今さら改めて言われるような問題ではない。表面的には差別が少なくなっても、犯罪率の高さや麻薬問題など深刻な実態は残っている。そういう深刻な現実を暴くのではなく、60年代初期に舞台を取っているので、見る前はちょっと心配だった。安易な社会派作品や薄っぺらな良心作になりやすい。それを白人の若い世代ともっと年齢の高い黒人メイド(つまり若い白人女性を実質的に育てた世代)という二つの「仲間たち」のつながりを際立たせるドラマ作りが成功している。人間にとって、「友だち」と「正義」がからむ時が難しい。(例えば原発やダムに引き裂かれた地域に住む人々を思い起こせば。)そういう意味で、人種や性別、時代を超えた「勇気の物語」になっているのが感動の源である。人種差別だけでなく、性差別、貧困、女性労働、高齢者、学歴や男女交際、家事労働や育児労働など様々な問題も見え隠れしているが、難しい映画ではなく笑いがあふれる映画。当時のファッションや美味しそうな南部料理、スイーツの数々に目を奪われる楽しさもある。アメリカ南部の風景を美しく撮るにはやはりコダックフィルムがいいなと痛感。音楽も素晴らしく、見て勇気がもらえる映画として多くの世代にお勧め。63年11月のケネディ大統領暗殺などのニュースも出てくるので、世代を超えて一緒に見るといい映画。


 アメリカの黒人問題に関しては、スウェーデンのテレビ局が取材していた当時のフィルムが発掘された「ブラックパワー」という記録映画も公開中。東京では新宿のケイズシネマというところで上映。「ブラックパワー」という言葉を作ったストークリー・カーマイケル、冤罪で起訴された女性社会学者アンジェラ・デイヴィスなど当時の有名人のインタビューが貴重。もちろんキング牧師やマルコムX、ブラックパンサー党などの映像もある。ネーション・オブ・イスラムのファラカン師の若き日も出てくる。非常に貴重な映像だけど、ある程度前提となる知識がいる「お勉強映画」。

 一方、昨年のカンヌ映画祭受賞作品では、まだグランプリの「少年と自転車」を見ていないが、最高賞の「ツリー・オブ・ライフ」、女優賞の「メランコリア」、男優賞の「アーティスト」(アカデミー作品賞)などもあるけれど、うっかり見落とすともったいない傑作が監督賞の「ドライブ。もっともアメリカの犯罪映画だから流血や銃を見るだけで嫌な人は敬遠した方がいいけど。でも小気味よい演出で100分の疾走感は並の力量ではない。ハリウッドでスタントマンを務める超絶ドライブテクニックの主人公。特技を生かして時々犯罪の手助けを頼まれる。隣室の女と子供との触れ合い、刑務所にいる夫の出所という設定から想定される安易なストーリーを裏切り続ける予想外の展開にあれよあれよと驚く。寡黙な主人公が美女と子供に寄せる純愛。車と犯罪の映画だけど、やはり本質は愛の映画なのだ。監督はニコラス・ウィンディング・レフンという新鋭で、どこの人かと思うとデンマーク。ただし子ども時代にアメリカにすんだ経験があり、アメリカで映画を学んだ。デンマークに帰って人気監督になったらしいが、これがアメリカ進出第1作。最近デンマーク出身の映画監督が元気いいけれど、この人も要注目。こんなに威勢のいいアクション映画も久しぶり。カーチェイスものも作られ過ぎた感じがするが、こういう手があったのか。「映画作家の技」というものが娯楽映画にも必要なのだということが伝わってくる映画でもある。純粋な映画ファンには絶対これは見逃せない。
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