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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

背徳の官能-パク・チャヌク「お嬢さん」

2017年03月18日 21時28分36秒 |  〃  (新作外国映画)
 韓国のパク・チャヌク監督の新作「お嬢さん」は、すららしく面白いエンターテインメントの傑作だ。まあ、内容がかなり背徳的なエロスを描いているから、誰にもお勧めじゃないかもしれない。イギリスのミステリー作家サラ・ウォーターズの「荊(いばら)の城」の映画化で、舞台を日本統治下の朝鮮に移している。本来は、パク・チャヌクとかサラ・ウォーターズといった名前に反応する人向けだと思うけど、それで見逃してはもったいない映画。

 サラ・ウォーターズ(1966~)は、2003年、2004年と連続で「このミステリーがすごい」の外国部門1位となった。最初が「半身」(1999)、次が「荊の城」(2002)で、どっちもヴィクトリア朝時代を舞台に、壮大なミステリー世界を描いている。長くて読むのも大変な作品ばかりで、僕は次の「夜愁」まで読んで、次の「エアーズ家の没落」は積まれたままである。その中で、物語的に一番面白くて、読みやすいのが「荊の城」だろう。これを自国に移して映画化しようというアイディアそのものがすごい。

 1939年の朝鮮。広大な屋敷に、支配的な叔父と華族の令嬢・秀子が暮らしている。この叔父は、朝鮮人でありながら、日本に憧れ支配階級にもぐりこんだ人物で、書物に囲まれて暮らしている。その財産を狙って、詐欺師の「伯爵」が、孤児だったスッキを侍女として送り込んでくる。スッキの協力を得て、「お嬢様」 の心が伯爵に向くように仕向けて行き…。結婚したら、財産を換金して奪い取り、秀子は精神病院に送り込んでしまうという計画である。

 そうして、計画が成功したかに見えるところで、第一部が終わる。続いて、二部、三部と続くが、世界が反転するミステリーなので、ここでは筋は書けない。基本的には原作と同じだけど、ラストの方が違っている。(と書いてあるけど、僕は原作の細部を忘れてしまったので、よく判らない。)「だまし」とエロス背徳と官能の香りが全編を覆い、濃密な空間が広がっている。

 かなりのセリフが日本語で、韓国人俳優がかなり頑張って話している。違和感がまったくないわけでもないが、セリフがかなり「普通じゃない」ので、むしろ日本人観客の方が反応できるかもと監督は述べている。屋敷の地下で行われる秘密の会合、叔母に何があったのか、秀子とスッキの関係は、伯爵と秀子の間には何があるのか、謎が謎を生み、一瞬も目が離せない。

 場所を日本支配下の朝鮮に移したことで、だましあいの背後にある「偽者」性が、よりくっきりと浮かび上がっていると思う。「支配」と「被支配」というテーマが、登場人物どうしの複雑な関係に反映されている。何が真実なのか、「ホンモノ」は何なのか。しかし、そういうテーマ性を深読みするよりも、ひたすら美しい映像で展開される背徳的エロスに耽溺すればいいんだろう。

 主演の秀子はキム・ムニ(1983~)という女優で、ホン・サンス監督の映画などで知られるというけど、僕は初めて。ちょっと松たか子みたいなムード。スッキはキム・テリ(1990~)という新人で、素晴らしくいい。伯爵はハ・ジョンウ(1978~)で、「チェイサー」「暗殺」などに出ていた。(写真は紹介順)
  
 監督のパク・チャヌク(1963~)は、「JSA」(2000)が大ヒットし、「オールド・ボーイ」(2003)でカンヌ映画祭グランプリ。というのは映画ファンには周知のことだろう。「オールド・ボーイ」をはさんだ「復讐者に憐れみを」(2002)、「親切なクムジャさん」(2005)の「復讐三部作」が面白かった。その後も、「渇き」(2009)がカンヌ映画祭で審査員賞を取ったけど、ソン・ガンホが吸血鬼の神父って、そりゃあムチャでしょうと思ってしまった。ハリウッドでにコール・キッドマン、ミア・ワシコウスカ主演の「イノセント・ガーデン」も確か見たけど、全然面白くなかったと思う。韓国に戻って作った「お嬢さん」で久々の復活という感じである。クレジットを見ると、三重県でかなりロケされていた。
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