尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

与党が絶対安定多数を確保した選挙ー2021衆院選①

2021年11月01日 23時10分18秒 |  〃  (選挙)
 2021年10月31日に衆議院選挙が行われた。岸田首相は「与党で過半数」が目標と言っていたが、まあそれは「衆院選は政権選択選挙だから」という建前である。自民党の公示前勢力は276人、前回の当選者は284人なのだが、前回は「希望の党」をめぐるゴタゴタがあって自民は出来すぎとも言える。今回は事前予想では自民単独では過半数が難しいという報道(読売等)もあって、単独過半数(233)は何とか越えて、出来れば絶対安定多数(261)に迫りたいというあたりがホンネの数字だった。

 フタを明けてみれば、自民党は追加公認二人を加えて261議席と絶対安定多数を確保した。NHKの選挙速報が始まった時点では、210~250台後半という幅がある数字だった。当初は「単独過半数が焦点」かと思われたのである。ところが公明党32人を加えて、自公で293人と与党が圧勝した。もっとも小選挙区ではし烈な激戦区が多く、なかなか決着が付かなかった。午前1時を過ぎても決まってない小選挙区が幾つかあった。
(総選挙の結果)
 立憲民主党共産党を中心に選挙協力が行われたが、両党ともに議席を減らした。立民の枝野代表も、共産の志位委員長も、協力には「一定の成果があった」と言っている。しかし、それは裏を返せば「一定の成果しかなかった」=「大きな成果には結びつかなかった」ということでもある。その問題は別に考えたいが、東京8区(石原伸晃落選)や神奈川13区(甘利明が小選挙区で落選)は野党の選挙協力なくしてはありえなかった。その結果甘利幹事長は辞任した。自民党の権力構造に影響を与えたのは間違いない。
(甘利幹事長が辞意)
 それにしても立憲民主党は公示前勢力110人を大きく割り込んで、96人当選と100人に達しなかった。小選挙区は全289区の中で57議席、比例区は39議席と前回の37議席とあまり変わらない。比例での復活当選が少ないので、次回の期待も難しい。比例区は全176議席中、自民が72議席公明が23議席と合計で95議席も獲得している。だから「小選挙区制度だから勝てない」と野党支持者が言うのは間違いだ。選挙制度を比例中心に変えても、負けるのである。それは何故か、じっくりと検討する必要がある。
(落選した石原伸晃)
 共産党は10議席(公示前12)、国民民主党は11議席(公示前8)、れいわ新選組は3(公示前1とあるが、これは立民から除籍された高井崇志が滋賀3区から出たものなので、実質は公示前ゼロ)、社会民主党は沖縄の小選挙区を守って1議席である。これらは小政党なので、はっきり勝った負けたと言いにくい部分がある。はっきりしているのは「立憲民主党は敗北」で、「日本維新の会」が大勝利ということだろう。

 「維新」は小選挙区で16、比例区で25、合計で41議席も獲得して、一躍第3党になった。もっとも2012年に「大阪維新の会」が国政進出に当たって「立ちあがれ日本」と合同した「日本維新の会」というのがあって、56議席を獲得したこともあったが。(なお、旧「維新の会」は石原慎太郎と橋下徹が共同代表を務めていた。)その後、いろんな経緯があって、維新にも浮き沈みがあって前回は小選挙区で3(うち1つは丸山穗高)、比例で8の計11議席だった。しかし、今回は大坂の小選挙区では公明党が出ている4つを除く15議席も当選した。

 それは何故なんだろう。今回は比例代表区で東京、北関東、南関東、東海では2議席、九州と北陸信越でも1議席と関西ローカル政党という範囲を超えつつある。特にビックリしたのが東京12区。ここは東京唯一の公明党擁立区で、広く名前が浸透していた太田昭宏が引退して、比例北関東から当選3回の現職岡本三成が立候補した。一方で立民も出ずに、共産党元議員の池内沙織が出ている。池内は毎回立候補しているので名前も通っている。朝日新聞26日付の情勢報道では「岡本と池内が互角」と出ている。「維新新顔の阿部司が懸命に追う」とある。

 開票結果を見てみると、以下の通り。
  岡本三成 101,020
  阿部 司  80,323
  池内沙織  71,948
 どこが「互角」なんだと思うが、実は最終盤に吉村洋文大阪府知事が東京12区に入って、かなり密着して細かく回ったという。その結果、無党派の池内票を引き剥がしたのだと思う。前回2017年は太田票が11万2千票なので、実は1万票以上減らした。池内は8万3千票だったから、こちらも1万1千票も減らしたのである。他の選挙区ではこんなに違っているところはない。調査時点では確かに岡本、池内互角に近い結果だったのだろう。吉村効果が東京でも出るのである。反自公だけど、共産じゃない票がやはりあるのだ。

 この「維新」をどう考えるのかも、また別に考えたい。他に無所属で10人(自民党追加公認2人を除く)が当選した。与党系が3人、野党系が6人、他1人ではないかと思う。与党系は静岡5区の細野豪志、岡山3区の平沼正二郎、熊本2区の西野太亮の3人。平沼は平沼赳夫の次男。西野は野田毅を破った。どっちも自民公認が得られないが保守系。細野も今さら野党系には戻れないけど、岸田派の自民党吉川赳も比例区で当選したから、自民党に入るのも大変だ。どうするんだか知らないけど、首班指名では岸田と書くのは間違いない。

 野党系はあえて政党公認なしで退路を断って臨んだ人が多い。茨城1区の福島伸享、新潟5区の米山隆一、京都4区の北神圭朗、福岡9区の緒方林太郎、大分1区の吉良州司の5人で米山以外はかつての民主党議員である。もう一人鹿児島2区の三反園訓(みたぞの・さとし)がいる。非自民系の支持で知事に当選したが、任期中に自民に近づき2期目を目指す選挙は自民の推薦を得ながら落選した。しかし、今回は自民党前議員がいる選挙区で出馬して当選した。首班指名でどうするんだか、僕には判らない。

 今回の結果については、概ね朝日新聞の情勢報道に合っていた。朝日は近年下限と上限を示しているが、自民党は251~279、立憲民主党は94~120になっていた。自民は真ん中に近いが、立民は下限に近い。公明25~37、国民民主8~12、共産9~21だから、どの党も合っているが、共産は下限に近い。一方で維新は25~36なので、上限を突破している。朝日予測は野党に厳しく、逆に読売予測は与党に厳しかった。普段の支持傾向と逆なんだけど、もちろんわざとしたわけではないだろう。読売は投票率を高く見積もりすぎたのかと思う。立民、共産も予測範囲内だったが、予測の一番下に近かった。それは最終盤になって維新に予想以上に取られたということ以外に考えられないと思う。

 なお、書く気にはならなかったが、自民党の堅調は予測しないでもなかった。首都圏では無党派が多く、共産党や公明党関係の人も多いから、選挙協力にもあまり違和感がない。だから立共協力がある程度成果を挙げそうなムードも間違いなくあったと思う。だがそれだけで日本全体を判断してはいけない。愛知県の立憲民主はトヨタの選挙撤退で大きく減らした。また選挙直前にあった北と南の出来事は僕には暗示的だった。北は北海道旭川市長選で、15年ぶりに自民系市長が誕生した。士別市長選でも自民系が勝った。それを受け衆院選でも立民が持っていた議席を立民から立った前旭川市長が守れなかった。

 南では沖縄で「オール沖縄」勢力にほころびが生じ、地元資本の金秀グループが抜けた。その結果もあってか、沖縄の4選挙区の内、半分で自民党が勝利した。負けたのは3区と4区で、どちらも立憲民主党だった。比例区でも復活できず、「オール沖縄」の打撃は大きい。北と南で別々に起こった問題だが、各地方では立憲民主党が難しい情勢にあることを何となく予感させる出来事だった。単に直前に岸田内閣に衣替えして有権者の目をそらしたというだけの問題ではない。
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