尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「大軍拡」をどう考えるべきかー2021衆院選⑤

2021年11月10日 22時41分24秒 |  〃  (選挙)
 衆議院選挙であまり論じられなかったことに、「安保・防衛」問題がある。まあ他の問題もきちんと論じられたとは言えないわけだが。しかし、今回の選挙を通して戦後日本でずっと続いてきた大原則が変わってしまうのかもしれないのである。

 まず、以下で「政党A」の公約を見てみたい。
 「人間の安全保障の理念に立脚した「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向け平和構築、軍縮・不拡散、保健・感染症、女性の活躍、防災などといった日本が得意とする分野における取り組みを強化します。
 次に「政党B」の公約を見てみよう。
 「自らの防衛力を大幅に強化すべく、安全保障や防衛のあるべき姿を取りまとめ、新たな国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画等を速やかに策定します。NATO諸国の国防予算の対GNP費目標(2%以上)も念頭に防衛関係費の増額を目指します。

 これがどの党か判るだろうか。A党は公明党B党は自民党である。全然違うではないか。いや、公明党は「平和」とは言うけれど、「防衛費GNP1%枠を厳守する」とは書いてない。「日米防衛協力のための指針及び平和安全法制に基づく適正な運用を積み重ねながら、日米同盟の抑止力・対処力を一層向上させ、緊密な情報共有及び共通情勢認識の構築を行います」とあって、賛成したんだから当然だが「平和安全法制」を認めている。

 「維新」の公約を見ると、「防衛費の GDP1%枠を撤廃し、テロやサイバー・宇宙空間への防衛体制をさらに強化します。また、領域内阻止能力の構築について、積極的な検討を進めます」とあって、防衛費の GDP1%枠を撤廃することでは自民党と一致している。公明党よりも「日本維新の会」の方が議席が多いわけだから、国会では防衛費の増強する「大軍拡」を望む勢力が多数を占めるのである。これをどう考えるべき何だろうか。(なお、1%枠そのものは安倍政権においてすでに撤廃されている。「撤廃」というか、「1%という上限があるわけではない」という首相答弁がなされている。)
(防衛費増強を目指す自民党高市政調会長)
 2021度の防衛予算を調べてみる。5兆1235億円であり、2011年からずっと増えている。特に2013年度の4兆6804億円から安倍政権において5千億円ほど増大してきた。一方、日本の名目GDP(国内総生産)は円ベースで528兆9605億円である。今後少しずつ統計が改定されていくのだが、大まかには大体同じだろう。昨年度の防衛費は5兆688億円なので、対GNP比は0.95%ほどになる。これを2%以上にするということは、2021年度の予測数値で考えるならば、10兆円以上にするということである。
(世界各国の軍事費)
 上に示したように、自民党の公約通りの大軍拡が実現すれば、日本は米中に並ぶ一大軍事国家になる。そんなことは現実的に不可能だと思うが、方針として明示した意味は大きい。ヨーロッパ各国のように、人口規模が小さく一人当たりGDPが日本より大きい国と比較すること自体がおかしい。(一人当たりGDP(ドルベース)は日本は24位である。)防衛費を倍増させるなど、国家は大国でも国民生活は貧困だった戦前日本の再来である。もっともそれは簡単に出来ることではない。労働力が不足する中で、すでに大きく割り込んでいる自衛隊員を倍増させるなど出来ない。だから、「装備」を増強することを考えているのだろう。要するに、米国製兵器をもっと買うことになるのだろう。

 どんな予算もそうだけれど、特に防衛費は増やしたら減らしにくい。人件費は削れないし、大型兵器は一年単位ではなく何年にもまたがって設計段階から膨大な予算を必要とする。一度始めたら、途中で止めることは難しい。日本はすでに「事実上の空母」を所有するようになっている。とすると「敵基地攻撃能力」だけでなく、ミサイルや原子力潜水艦を「専守防衛」の名の下に開発するのだろうか。この方向性は「亡国への道」だと僕は思う。「地上イージス・アショア」が断念に追い込まれたように、国民の抵抗に直面することになるだろう。
コメント (1)
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