尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

東京8区のケーススタディー立憲民主党考③

2021年11月19日 22時43分42秒 |  〃  (選挙)
 現在の選挙制度は衆議院も参議院も矛盾を抱えている。衆議院は小選挙区比例代表区があるが、小選挙区では「各野党が選挙協力をする方が有利」だが、比例代表区では「各野党がそれぞれの独自の主張をする方が有利」である。どっちも重要ではあるが、政権交代を実現しようというならば、全国の小選挙区の半分以上で勝利する必要がある。比例ではその特性から、大きな差は付きにくい。だから小選挙区で大差を付けないといけないのである。2009年衆院選がそうだったし、参議院で自民党が大敗したときも「1人区」の敗北が全体を決めたのである。そこで小選挙区で協力しようという動きが出て来る。

 今回首都圏では選挙協力によって野党が勝った選挙区がいくつもあった。その中で自民党元幹事長で(小なりといえど)派閥のトップだった石原伸晃を破った東京8区(杉並区の大部分)を取り上げて見たい。(投票率61.03%)
 吉田晴美(立憲民主党) 13万7341票 (48.45%)
 石原伸晃(自由民主党) 10万5381票 (37.17%)
 笠谷圭司(日本維新の会) 4万0763票 (14.38%)
 8時の開票速報開始とともに、吉田晴美の当確が報じられた。石原伸晃は比例で復活も出来なかったぐらい(3万票以上)差を付けられた。だが、よく見てみれば吉田晴美の得票率は過半数に達していない。これを逆に見れば、自民・維新の「保守協力」があれば、結果は変わった可能性があるのかもしれない。
(東京8区で当選した吉田晴美) 
 では、同じ東京8区の2017年の選挙結果を見てみたい。(投票率55.42%)
 石原伸晃(自由民主党) 9万9863票 (39.22%)
 吉田晴美(立憲民主党) 7万6283票 (29.96%)
 木内孝胤(希望の党)  4万1175票 (16.17%)
 長内史子(日本共産党) 2万2399票 (8.80%)
 円より子(無所属)   1万1997票 (4.71%)
 斎藤郁真(諸派)      3850票 (1.15%)  
 これを見れば、「次回は吉田晴美にまとまれば石原伸晃に勝つんじゃないか」と思うのも当然だろう。前回の立民と共産の票を合わせれば、ほぼ石原票と同じになる。もっとも前回の希望の党と今回の日本維新の会は、ほぼ同じ4万票を獲得していて、「非共産票」もあるんだろうと思う。それにしても接戦予想が出たことで、投票率が5%も上昇した。石原伸晃も前回より5千票以上上乗せしているが、増えた分の大部分は吉田票になったと思われる。(なお諸派の斎藤は「都政を革新する会」で、中核派系である。円より子は元民主党参議院議員で、2012,14年に東京8区の民主党候補だった。今回は東京17区で国民民主党から出馬して維新、共産にも及ばず4位だった。)
 
 次に東京8区の比例票を見てみる。主要政党のみ。( )内は2017年。【 】は2019年参院選(対象は杉並区全体)
 自由民主党  8万5703票  (7万6828票)  【7万9037票】
 立憲民主党  6万5028票  (7万3471票)  【5万1138票】
 日本維新の会 3万6311票   (8552票)   【2万0790票】
 日本共産党  3万0998票  (2万8076票)  【2万7395票】
 れいわ新選組 2万2687票           【2万8364票】
 公明党    1万9855票  (1万8297票)  【1万8445票】
 国民民主党  1万4752票           【1万1854票】
 社会民主党    4346票   (2631票)    【4999票】
 希望の党          (4万1014票)

 比例区票の見方はなかなか難しい。僕が驚いたのは、この地区では(今回の得票順で見れば)公明党が第6党だということである。東京でもそういう地区があるんだ。今回の自民+公明票はほぼ選挙区の石原票である。つまり、自民、公明票は固めたが、それ以外には浸透しきれなかった。一方、維新+国民民主は、選挙区の維新票より1万票ほど多い。国民民主党票も、吉田晴美に流れた方が多いと思われる。立憲民主党は前回より減らしているが、19年参院選より多い。前回衆院選にはなかった「れいわ新選組」に流れている可能性が高い。東京8区は2012年に山本太郎が初めて選挙に立候補したところで、なじみがあるところである。

 東京8区は1996年の小選挙区導入以来、8回連続して石原伸晃が当選してきた。ただし、石原が得票率で5割を超えているのは、実は2003年、2005年の2回だけだった。恐らくその頃が石原伸晃の最盛期で、だから2009年の野党転落後の自民党で幹事長を務めて、次期総裁の最有力候補と思われていたわけだろう。対する民主党は2003年、2005年には30代の鈴木盛夫という人が立候補していた。2回とも比例当選も出来ず、2009年には社民党の保坂展人(現世田谷区長)を擁立して敗れた。その後は円より子が2回、吉田晴美が2回立候補した。今までも反石原票がまとまったならば小選挙区で勝てたという選挙が多い。

 こういう風に見てみると、今回吉田晴美に(維新以外の)野党がまとまったのは、自然な流れのように思われる。首都圏には非自民系無党派層が多く、国民民主党を支持する大企業の労組票も少ない。(本社は多いが、工場が少ない。)自民党に対抗するためには、立憲民主党と共産党が「共闘」とまでは言わずとも、「棲み分け」することへの抵抗感は他ブロックより小さいだろう。北海道、東北、甲信越なども比較的同じような傾向がある。一方で、大工場が多い東海ブロック、維新が圧倒している近畿ブロックは全然違う。中国、四国、九州では自民が圧倒的に強い。日本も全国共通ではなく、アメリカや韓国のような「地域的な政党支持の違い」のある国になっている。首都圏だけの感覚でみてしまうと、違和感を持つ人も出てくるのだろう。(本当はここで西日本の状況を検討するつもりだったが、結構長くなってしまったので、ここで一旦終わりにして置きたい。)
コメント
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