尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

リニア新幹線建設は中止すべきである

2021年12月19日 22時23分27秒 | 社会(世の中の出来事)
 2021年も終わりに近づき、今年の間に書いておきたいことが幾つかある。リニア中央新幹線の問題もその一つだ。JR東海が2027年開業を目指して建設を進めているが、今年も静岡県での着工問題が解決しなかった。それどころか、大井川の流量減少を心配して着工を認めない川勝平太知事に対して、知事選では国交副大臣を務めていた岩井茂樹参議院議員(自民党)が挑んで大敗する始末。その補欠選挙が10月の衆院選中に行われて、そこでも野党系無所属候補が勝利した。岩井候補は全県的に競り負けているが、とりわけ大井川水系地域では壊滅的な結果になっている。(なお、岩井氏は国政に復帰せず、来年3月の東伊豆町長選に出るらしい。)

 折しも今日(2021年12月19日)、この問題に関する国の有識者会議の中間報告が報道された。「科学者らでつくる国の有識者会議は19日、静岡県が懸念する大井川の流量の減少について、十分な対策をとれば中下流域への影響は抑えられるなどとする中間報告をまとめた。報告では、工事で出た湧き水を導水路ですべて川に戻せば、中下流域の流量は維持されると結論づけた。静岡県は工事中に湧き水の一部が山梨県側に流出することを懸念していたが、有識者会議は、山にたまっている豊富な地下水に補われると分析した。」しかし、静岡県には何のメリットもない工事で、こんな希望的観測だけみたいな分析で納得して貰えるだろうか。

 11月27日には、岐阜県中津川市の工事現場で土砂崩落が起こって死者が発生した。これは初の死亡事故だったが、負傷者が出るような事故はこれまでも相次いでいる。もう2027年開業は事実上困難と言われているが、このままどこまで難題が起こり続けるのだろうか。それでも未だ完成前だから良かったのである。今ならばまだ引き返せるからである。

 もし完成した後で巨大地震が発生したら、恐るべき大災害が発生すると警告するのは、石橋克彦リニア中央新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか」(集英社新書、2021年6月刊)である。他にも今年は科学史家山本義隆の「リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」も出た。こっちは1800円するし、難しそうだから読んでない。他にも週刊金曜日12月10日号でも「そんなに急いでどこへ行く? リニア中央新幹線」という特集を組んでいる。
 
 石橋克彦氏(1944~)の本は読んでみたが、これもなかなか難しい。地震学の細かい記述になると付いていけない部分が出て来る。しかし、僕は石橋氏の警告には耳を傾けないといけないと考えている。それは論理の問題とは少し違う。石橋氏が「大地動乱の時代」(岩波新書、1994年)を著した翌年に阪神淡路大震災が起きたのである。(その本は関西の地震を警告する本ではなかったが。)その後、石橋氏は1997年に「原発震災―破滅を避けるために」という論文を発表して、巨大地震によってメルトダウンが起きる「原発震災」に警鐘を鳴らした。「二度あることは三度ある」と言っては縁起でもないが、石橋氏の警告はあだやおろそかにしてはならないと僕は考えているのである。
(リニア新幹線予定ルート)
 リニア中央新幹線の予定ルートが決定した時に、「これは大変危険だ」「とても完成できないのでは」と僕は思ったものだ。そう感じた人はきっと僕だけではないと思う。僕は社会科の教員だから、地理、地学が専門領域ではないとはいえ、「中央構造線」「糸魚川静岡構造線」という日本列島を形成した最も重要な構造線のど真ん中にトンネルを掘って時速500キロで運行するなど、「神を畏れぬ所業」としか思えなかった。(まあ僕は無神論者ではあるけれど。)
 
 南海トラフ巨大地震は、想定される最大エネルギーのものが起きるとは限らない。幸いにして、2段階に分かれて発生するかもしれない。それにしても大地震は必ずいつか起きるのである。それは物理現象だから、避けることは出来ない。もし最大の地震が発生すると、リニア中央新幹線がどんな悲惨な重大事故になるかは、石橋氏の著書に書かれている。帯を引用すれば「時速500キロの超特急は「活断層密集地帯」を疾走する 本当に、大丈夫?」という言葉に尽くされている。東日本大震災の時は、震源域から遠かったために、東北新幹線は脱線、倒壊などしないで済んだ。それでも復旧するまでに49日ほど掛かっている。

 大地震を検知すれば、当然リニア新幹線も緊急停止するはずだ。それ自体が500キロ(地下はもっと遅いかもしれないが)から0に急停止するんだから恐怖である。リニア新幹線はほとんどが地下だから、止まるのも大体はトンネル内である。地震による崩落、倒壊などが一切なかったとしても、地下に止まった車両からどうやって脱出するのか。その時点で東海道新幹線などは津波の大被害を受けていると予想される。東海道の大動脈が止まったら日本は東西に分断される、だからリニア中央新幹線が必要だという論理なのだが、大地震が起きたらリニア救援に誰が行けるのか。最悪事態では、地下にずっと閉じ込められる恐れさえ予想される。
(リニア新幹線の車両)
 ところで僕は今までリニア新幹線について、きちんと考えたことがなかった。「リニアモーターカー」(linear motor car)が「和製英語」だということも知らなかった。それどころか「リニア」の意味さえ知らなかった。なんとなく「磁気」とか「超伝導」みたいな言葉みたいに思っていたが、単に「直線の」「線上の」という形容詞である。また「一次の」という意味もあって、「a linear equation 」が「一次方程式」である。一般的なモーターは回転運動をさせてエネルギーを発生させるが、リニアモーターは直線方向にエネルギーを発生させるので前へ前へと進行するわけである。

 そう言えば「新幹線」という言葉の使い方もおかしい。「幹線」、つまり東海道線などの幹線鉄道に対して、新たな「新」「幹線鉄道」を建設するというのが、「新幹線鉄道」計画である。東海道新幹線が時速300キロも出す「夢の超特急」だったから、新幹線=猛スピードの意味に転用されていった。それまでの東海道線特急列車に対して、新たに別の線路を敷いて特急を走らせるから「新幹線鉄道」になる。それがいつの間にか、在来線の上を走る路線まで「ミニ新幹線」などと呼ぶようになってしまった。

 ところで山本氏の本では、原発あってのリニア新幹線と指摘されているらしい。リニア運行にはあまりにも巨大な電気エネルギーが必要で、柏崎刈羽原発や浜岡原発を再稼働しないと賄い切れない可能性が高い。いや、それほどではないという主張もあるらしいが、そこら辺になると僕は判定しがたい。だが、はっきり言えば、これほどの巨大技術は「SDGs」の時代に逆行するのは間違いない。

 世の中には、このリニア新幹線を世界に売り込むためには日本でまず作ってみなくてはという人がいるかもしれない。しかし、こんな技術は世界でどこも導入しない。いま世界にある超特急鉄道よりも遠くに行く場合、飛行機という確立した交通技術が存在する。日本だって、誰も福岡や北海道までリニア新幹線を作れとは言わないだろう。その巨額建設費を償却するための運賃になれば、飛行機に勝てるはずがないからである。

 そもそも「名古屋まで40分」で行く必要性がどこにあるのだろう。現在東京駅朝7時発の「のぞみ」に乗れば、名古屋には8時39分に到着する。(運賃は乗車券6380円、特急券4920円、合計11,300円。)会議などもリモートでやる時代、名古屋までどうしても行く必要があれば、現在の「のぞみ」で十分なのではないか。リニア新幹線は品川駅発だから、東京駅から品川駅まで移動して乗り換える時間を加算すれば、短縮時間は30分程度である。一刻を争う場合もあるかもしれないが、それはごくまれだろう。遠距離恋愛中の恋人ならば、2,300円程度からある長距離バスを使うだろう。もしくは東海道新幹線に乗って、熱海で落ち合うとか。ほとんどトンネルで富士山も見えないリニア新幹線に観光で乗る人もいないはず。リニア新幹線、今なら中止できる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする