尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「マリッジ・ストーリー」、壮絶な演技合戦

2020年02月10日 23時01分34秒 |  〃  (新作外国映画)
 Netflix製作でアカデミー賞作品賞候補になったノア・バームバック監督「マリッジ・ストーリー」(Marriage Story)を見た。「アイリッシュマン」と同じく大々的な公開はされないが、一部映画館で上映されている。最近の映画は設定が日常とかけ離れた映画が多いが、この映画は現代のアメリカの日常を描いている。題名を「結婚物語」というけれど、実際は「離婚物語」である。何でも監督自身の体験が基になっているという話。夫のアダム・ドライヴァーと妻のスカーレット・ヨハンソンが壮絶な演技合戦を繰り広げて見逃せない。それにしてもアメリカの離婚裁判は苛酷である。

 ノア・バークバック(Noah Baumbach、1969~)は「イカとクジラ」、「フランシス・ハ」や「ヤング・アダルト・ニューヨーク」などの監督だが、今まではコメディ的な映画が多かった。「ヘイトフル・エイト」でアカデミー助演女優賞にノミネートされたジェニファー・ジェイソン・リーと結婚していたが2013年に離婚。「フランシス・ハ」の主演女優だったグレタ・ガーウィグと交際して子どももいるという。(ガーウィグは今や「レディバード」や「ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語」で大注目監督になっている。)
(幸せな時期もあった)
 ほぼチャーリーニコールのふたり出ずっぱりで、子どものヘンリーと家族を別にすれば離婚弁護士ぐらしか出て来ない。しかし、ニコール側の弁護士役のローラ・ダーンは鮮烈な印象を与えてアカデミー賞助演女優賞を獲得した。主演の二人も共にアカデミー賞主演賞にノミネートされていたが、残念ながら受賞できなかった。アダム・ドライヴァーは前年の「ブラック・クランズマン」で助演賞にノミネートされているが、スカーレット・ヨハンソンは意外なことに初のノミネートだった。(「ロスト・イン・トラストレーション」や「真珠の首飾りの女」でゴールデングローブ賞にノミネートされたけど。今年は「ジョジョ・ラビット」で助演賞にもノミネートされていた。)
(左=ローラ・ダーン)
 夫のチャーリーはニューヨークの前衛劇団の演出家で、専門家筋の評価は高い。妻のニコールはちょっと知られた映画女優だったが、ロスで夫と知り合い結婚。夫の劇で主演してきたが、ニューヨークでは知名度が低下してしまった。夫はブロードウェイを目指しているが、妻は実家のあるロスが恋しい。テレビドラマのオファーを受けて、子どもを連れてロスへ戻った。二人の間にはしばらく前から離婚話が出ている。それが冒頭の状況で、二人は穏やかに別れることを望んでいる。そんな二人が穏やかに別れられずに、弁護士を立てて争うようになる。カリフォルニアでは弁護士なしでは不利になってしまうのだ。前半の展開は「裁判依存症」的なアメリカ社会への批判色が強い。

 しかし、段々と二人のすれ違いの様々が見えてくる。ロスに愛着のあるニコール。ロスの学校に慣れてゆくヘンリー。一方、ニューヨークにある劇団の責任者であるチャーリー。彼は「天才奨学金」を受けることにもなる。(すごい名前だけど。)弁護士はそれもニコールの貢献あってのことで分割を主張できるという。ロスの法廷では妻側の弁護士料も一部夫側が負担させられる場合があるらしい。すさまじい争いになってゆき、こんなことをしていてもしょうがないとニコールはチャーリーを訪ねる。ところがそこで二人のすれ違いが爆発して、壮絶な言い争いになってしまう。このシーンの演技合戦はすさまじい。

 ニューヨークとロサンゼルスは遠い。ロスに戻った妻子に会いに、チャーリーはたびたびニューヨークから飛んでくる。東海岸と西海岸の遠さ、風土の違いなどの大きな見どころだが、結局離婚することになる。ラストでニューヨークのバーで劇団員の前で歌うチャーリー。苦さを込めて描く「離婚物語」だが、どうして二人はすれ違っていったのだろう。それは二人が才能があったからだ。ニコールも夫の書く芝居で演技するだけでは物足りない。才能豊かな二人だからこその問題ではあった。どの家庭でも起こりうる側面も持ちつつ、特殊なケースでもあったなあと思う。とにかく素晴らしい、というかすさまじい演技に目を奪われる作品だ。
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2019年キネマ旬報ベストテン・外国映画編

2020年02月08日 20時55分50秒 |  〃  (新作外国映画)
 日本映画編に続いて、キネマ旬報外国映画ベストテンを紹介。

ジョーカー(トッド・フィリップス監督、米)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(クエンティン・タランティーノ監督、米)
アイリッシュマン(マーティン・スコセッシ監督、米)
運び屋(クリント・イーストウッド監督、米)
グリーンブック(ピーター・ファレリー監督、米)
家族を想うとき(ケン・ローチ監督、英)
COLD WAR あの歌、2つの心(パヴェウ・パヴリコフスキ監督、ポーランド)
ROMA/ローマ(アルフォンソ・キュアロン監督、メキシコ)
象は静かに座っている(フー・ボー監督、中国)
バーニング 劇場版(イ・チャンドン監督、韓国)

 次点以下は、⑪ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス ⑫帰れない二人 ⑬ブラック・クランズマン ⑭サタンタンゴ ⑮荒野の誓い ⑯ハウス・ジャック・ビルト ⑰マリッジ・ストーリー ⑱女王陛下のお気に入り ⑲存在のない子供たち ⑳ボーダー 二つの世界

 比較として映画雑誌「スクリーン」のベストテンも紹介。
ジョーカー ②グリーンブック ③ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド ④アイリッシュマン ⑤女王陛下のお気に入り ⑥ROMA/ローマ ⑦運び屋 ⑧ブラック・クランズマン ⑨家族を想うとき ⑨COLD WAR あの歌、2つの心 

 毎日映画コンクール報知映画賞の外国映画賞も「ジョーカー」。まだ発表前のブルーリボン賞や日本アカデミー賞は別にして、日刊スポーツ映画大賞や日本映画ペンクラブ賞が「グリーンブック」だった以外はほぼ「ジョーカー」の圧勝だったと言っていいだろう。
(「ジョーカー」)
 今年は割と順当な結果だと言える。好き嫌いはあるとしても、批評家が投票で選ぶなら「ジョーカー」が1位だろうというのはほとんど誰にでも予測できる。そのぐらい、完成度も面白さも社会性も突き抜けている。ただし「入れたくない」人がいることも想像できる。それは判らないではないが、やはり作品の力は「グリーンブック」や「アイリッシュマン」より上だと見るのが順当な評価。「パラサイト 半地下の家族」が2019年公開だったら、また違ったかもしれない。

 キネ旬もスクリーンも大体同じ作品が選ばれている。だから割と順当な年だったことになるが、微妙に違ってもいる。「女王陛下のお気に入り」がキネ旬18位というのは、低すぎると思う。300年前のイギリス王家に仕える女同士の争いという内容が、遠い世界を扱うようでいてヨルゴス・ランティモス監督の才気が爆発したような映画である。一方、僕は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」や「ROMA/ローマ」は過大評価じゃないかと思う。まあタランティーノやキュアロンの作品はいつも同じように思うんだけど。でもまあベストテンに入るのは納得できる。

 ところで僕のベストワンは、ポーランド映画、冷戦下に引き裂かれた恋人たちを描く「COLD WAR あの歌、2つの心」である。短い映画だが圧倒的な情感にあふれている。隅々まで練り込まれたモノクロ映像の美しさも絶品。僕は2回見ているが、2度目の方がよく理解出来た。「ROMA/ローマ」のモノクロ映像が美しいという声が多かったが、僕は「COLD WAR あの歌、2つの心」の映像美の方が心に沁みた。続いて、キネ旬20位以下だがイタリア映画「ドッグマン」(マッテオ・ガローネ監督)やドイツ冷戦時代を描く「僕たちは希望という名の列車に乗った」(ラース・クラウメ監督)を入れたいのである。
(COLD WAR あの歌、2つの心)
 近年のベストテンは批評家の票がばらける。キネ旬では71人が投票しているが、「ジョーカー」には37人しか入れてない。10点(1位)にしたのは、そのうち5人である。ところが「ROMA/ローマ」と「バーニング 劇場版」も同じく5人が1位にしている。この3作が強い吸引力を持っていたのかもしれない。

 今年は最近になく、キネ旬もスクリーンもベストテン入選作品は全部見ていたし、ブログにも書いていた。そういう年は珍しい。見逃しがあるもんだけど。11位になっている「ニューヨーク公共図書館」は見てない。アメリカの有名なドキュメンタリー映画監督フレデリック・ワイズマンの作品だが、ワイズマン映画は長すぎて見たことがない。時々どこかで特集上映があり、見に行こうと思うんだけど、3時間も4時間もかかるので敬遠してしまうのである。すごく面白いという評判なんだけど。
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2019年キネマ旬報ベストテン・日本映画編

2020年02月07日 20時25分54秒 | 映画 (新作日本映画)
 2019年キネマ旬報ベストテンが発表された。2年前までは新年になって10日ぐらい経つと、キネ旬ベストテンがマスコミに報道されたものだ。しかし、昨年から発表しなくなり、2月5日のベストテン発表号発売の前日になって、ようやく日本と外国のベストワン映画と個人賞受賞者だけを発表するようになった。キネ旬の経営方針なんだから、別にそれでもいいんだけど、長らくキネ旬ベストテンが一種の基準のようになってきたから残念な気はする。発売されたら構わないだろうから、ここで紹介と寸評。

 別にベストテンにそんなにこだわっているわけじゃない。人によって好みも分かれるし、評価が変わるのは当然だ。しかし一応人間というものは「社会の評価」に全く無関心でもいられない。年末年始になると、映画・演劇・文学などの賞が発表になる。アメリカのアカデミー賞ノミネートも発表されて、大々的な宣伝とともに公開される季節になる。どうも少し気になっちゃうのである。僕にとって、12月上旬の「このミステリーがすごい!」発売に始まり、2月のアカデミー賞発表頃までが大体そういう季節だ。

 さて早速日本映画のベストテンを紹介すると…。(自分で記事を書いた作品はリンクを貼った。)
火口のふたり(荒井晴彦監督)
半世界(阪本順治監督)
宮本から君へ(真利子哲也監督)
よこがお(深田晃司監督)
蜜蜂と遠雷(石川慶監督)
さよならくちびる(塩田明彦監督)
ひとよ(白石和彌監督)
⑧愛がなんだ(今泉力哉監督)
⑨嵐電(鈴木卓爾監督)
旅のおわり世界の始まり(黒沢清監督)

 次点以下は、⑪新聞記者 ⑫岬の兄妹 ⑬長いお別れ ⑭楽園 ⑮町田くんの世界 ⑯タロウのバカ ⑰凪待ち ⑱カツベン! ⑲月夜釜合戦 ⑳多十郎殉愛記 (20位まで)

 ちなみに、「閉鎖病棟」は24位、「天気の子」は25位、「翔んで埼玉」は35位、「決算!忠臣蔵」は45位、「台風家族」は51位、「ダンスウィズミー」は60位、「キングダム」は83位、「人間失格 太宰治と3人の女たち」は94位、といった具合。131本が1点以上を獲得している。

 ここで他の映画賞を見てみると、毎日映画コンクールは日本映画大賞が「蜜蜂と遠雷」、優秀賞が「新聞記者」だった。作品賞候補作は他に「火口のふたり」、「ひとよ」、「宮本から君へ」である。日本アカデミー賞は3月6日発表だが、作品賞候補作は「蜜蜂と遠雷」、「新聞記者」、「キングダム」、「翔んで埼玉」、「閉鎖病棟」である。日本アカデミー賞は業界大手のための賞だとみんな判っていると思うが、このノミネートはちょっとひどいんじゃないか。

 日本アカデミー賞は個人賞部門でも疑問が多い。特に主演男優賞の候補が中井貴一菅田将暉松坂桃李GACKT笑福亭鶴瓶なのである。毎日映画コンクールの主演男優賞候補は、池松壮亮稲垣吾郎柄本佑香取慎吾成田凌(受賞)で一人も共通していない。「新聞記者」を入れてるから「配慮」したつもりなのか。しかし「宮本から君へ」の池松壮亮が候補にも入らない男優賞は無意味としか思えない。元SMAPの二人も有力な主演男優賞候補だと思うが「忖度」で外れてるのか。
(池松壮亮)
 キネ旬に戻って、僕はベストテン選出作品では「嵐電」だけ見逃している。見るチャンスは(株主優待で)あったのに、つい見逃したのは残念。「愛はなんだ」は見たけれど書かなかった。ちょっと前の富永昌敬監督「南瓜とマヨネーズ」も同様だが、見ていて歯がゆい。『「愛はなんだ」はなんだ』とでも言いたくなる展開に、面白いけど書きようがない感じ。ミニシアターから始まり拡大公開された面白さは評価出来るけど、正直「岸井ゆきの」と「江口のりこ」で揺れるのもなあ。岩井俊二「ラストレター」では姉が広瀬すずで、妹が森七菜なんだって!ま、それは幻想世界で現実じゃないだろうが。

 成田凌は「カツベン!」で毎日映コン主演男優賞を取ったけれど、この周防正行作品は残念ながら期待したほど面白くなかった。シナリオに問題があった。それより「さよならくちびる」の成田凌は良かった。門脇麦と小松菜奈もいいけど、やはり成田凌がいてこその映画だ。小品だと思うが、僕は気に入って記事を書いた。ベストテン6位になるとまでは全然思わなかったけど。僕が10位内に入ってもいいと思うのは「楽園」と「岬の兄妹」である。

 1位になった「火口のふたり」は2019年の一番とまでは思わなかったが、見た時に完成度の高さや映像美に感心した。そんな映画があったのかと思う人もいるだろうが、まあベストワンでもいいかなと思う。キネ旬では瀧内公美が主演女優賞を取った。しかし、「火口のふたり」や「半世界」はラストの展開に納得できない部分もあった。その意味では最後まで力で押し切った「宮本から君へ」は、助成金取り消しというバカげた問題もあったから応援したい気もある。「よこがお」も誰も描いていない問題を提出していた。それは「ひとよ」「楽園」も同様。「蜜蜂と遠雷」も悪くはないけど、これは恩田陸の原作の面白さが三分の一ぐらいになってるから、2019年のベストワンにはしたくない。ま、そんな感じ。
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藤田宜永、奈良原一高、梓みちよ、高木守道等-2020年1月の訃報

2020年02月06日 23時03分25秒 | 追悼
 訃報を聞いて思うことは僕の知らない世界が多いなあということだ。宍戸錠の訃報を書いたが、その時点では死亡日時がはっきりしていなかった。1月18日死亡と判明した。

 作家の藤田宜永(ふじた・よしなが)が1月30日没、69歳。肺がん。2001年に「愛の領分」で直木賞を受賞した。妻の小池真理子も直木賞を受賞している。恋愛小説の名手なんて書いた記事もあったが、ミステリーや冒険小説には直木賞が厳しいだけだろう。日本推理作家協会賞を受賞した大冒険小説「鋼鉄の騎士」が最高傑作だと思う。若い頃に在住したパリの雰囲気が濃厚に漂うノワール小説が僕は大好きだった。「探偵・竹花『加齢』なる挑戦」を2015年に書いている。
(藤田宜永)
 写真家の奈良原一高(ならはら・いっこう)が19日死去、88歳。写真家の世界もあまりよく知らないが、名前ぐらいは知っていた。この前見た「窓」展に「王国」(1971)から出展されていて、刺激的だった。修道院や女子刑務所を撮影したものである。軍艦島や桜島を撮影した「人間の土地」(1956)で衝撃を与えた。その後スペインやヴェネツィアなどヨーロッパの写真を多く手掛けた。
 (人間の土地)(王国)
 歌手の梓みちよ(あずさ・みちよ)の訃報が2月に入って伝えられた。1月29日に自宅で倒れていたところを発見されたという。76歳。福岡の高校を中退して宝塚音楽学校へ入学し、在学中にナベプロのオーディションに合格したんだという。1963年に「こんにちは赤ちゃん」が超大ヒット。幼き記憶でも皆が知っていた歌だが、20歳だったので長く重荷に感じることになる。低迷期をはさんで、1974年に「二人でお酒を」がヒットして「大人の歌手」として戻ってきた。その頃は僕もテレビで歌番組をよく見ていて、非常によく覚えている。他に「メランコリー」など。何だか寂しい感じがするなあ。
 (梓みちよ)
 元プロ野球選手の高木守道が17日死去、78歳。中日ドラゴンズで活躍、中日監督も2回にわたって務めた。僕は中日ファンじゃなかったから、あまり覚えていることはないんだけど、もちろん名前は知っている。ベストナインに7回選出され、オールタイムでベスト二塁手と言われることもあるという。僕の子どもの頃は巨人9連覇の時代で、10連覇を阻んだ1974年に活躍した。監督としては有名な1994年の「10・8決戦」で敗れた人である。巨人、中日が同率首位で最終戦を迎えて、最後の130試合目に勝った方が優勝というドラマである。結果は6対3で巨人の勝利。通算安打2274本で歴代16位。
(高木守道)
 元女優の青山京子が死去。1月12日、84歳。1967年に小林旭と結婚して引退した。朝日は「小林みどり」と本名で訃報を報じていた。しかし、三島由紀夫原作の「潮騒」の第一回目の映画化でヒロイン役の初江を演じた人である。後に吉永小百合や山口百恵、堀ちえみなどが演じた役なんだから、女優として記憶されるべきだろう。女優の原知佐子の訃報もあった。1月19日、84歳。こちらは映画監督実相寺昭雄の夫人。テレビで「赤い疑惑」などのシリーズで知られた。50年代末から最近まで映画に出演しているが助演なので覚えてないのも多い。「黒い画集 あるサラリーマンの証言」で小林桂樹の不倫相手役だった。この映画はいかにも松本清張らしいイヤな映画だった。
(青山京子)(原知佐子)
 評論家の坪内祐三が死去。1月13日、61歳。年齢からしてビックリした。文芸を中心に多くのジャンルを越境したエッセイやコラムを書いた。僕は「靖国」を読んだが、全然評価できなかった。
(坪内祐三)
 外国では、アメリカの元バスケットボール選手のコービー・ブライアントがヘリコプターの事故で26日に死去、41歳。NBAの大スターだったと言うんだけど、僕はよく知らない。「コービー」という名前は神戸に由来するんだとか。1996年から2016年までレーカーズで20シーズン活躍した。

 ロッテ創業者の重光武雄が1月19日に死去、98歳。本名は辛格浩。1944年に早稲田実業を卒業し、1948年にロッテを創立した。朝鮮出身者として大製菓会社を成功させたんだから大した実業家だが、1965年の日韓国交樹立後は韓国でロッテ財閥を作り上げた。しかし、晩年には経営権をめぐって長男と次男が骨肉の争いを繰り広げる一方、自らも秘密資金疑惑で横領や脱税で韓国で起訴された。有罪になったが高齢のため収監されず、ソウルの病院で死去。
(重光武雄)

上原正三、2日死去、82歳。シナリオライター。円谷プロで「ウルトラセブン」などを担当。沖縄出身で差別などを取り込む作風で知られた。著書に「キジムナーkids]がある。
大野慶人(よしと)、8日死去、81歳。舞踏家。父は大野一雄。土方巽の「暗黒舞踏」でデビューし、世界で活躍。
田村さと子、19日死去、72歳。詩人・翻訳家。ラテンアメリカ文学を多く翻訳した。
無量塔蔵六(むらた・ぞうろく)、31日死去、92歳。ヴァイオリン製作者。西ドイツでマイスターの資格を取得、1979年に日本で学校を設立。非常に高く評価されたヴァイオリン製作者で、昔は一般的にもかなり知られていたと思う。岩波新書に「ヴァイオリン」がある。
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東京高検検事長の定年延長は違法である

2020年02月04日 22時55分49秒 | 政治
 東京高等検察庁黒川弘務検事長定年延長というニュースが流れたのは1月31日のことだった。その時点では、また不可解な人事を安倍内閣が行ったなとは思ったものの、詳しい事情も知らないからへえと思っただけだった。その後ネット上で「違法だ」との指摘が相次ぎ、国会で野党側が質問する事態にもなった。そこで自分でも調べてみたのだが、その結果「違法行為」だと思うに至った。
(黒川弘務東京高検検事長)
 そもそも内閣は人事に関して広範囲な裁量権を持っていると考えられる。だからかつて安倍内閣が行った「内閣法制局長官に小松一郎駐フランス大使を任命した」事例や「(弁護士出身最高裁判事の後任に)日弁連の推薦を無視して最高裁裁判官に山口厚氏を任命した」事例は、慣例に反する不適当な人事には違いないが「違法」とは言い切れないだろう。しかし今回は違うのである。

 検察庁は行政官庁の一つではあるが、法曹三者(裁判官、弁護士、検察官)の一つであって、一定の独立性が保証されている。検事総長、最高検次長検事、各高検検事長は内閣が任命、天皇が認証する。一応は法務省の管轄になるが、法務大臣が直接に検事に指示することは出来ない。法務大臣による「指揮権」という規定は存在するが、それは検事総長を通して行うのである。だから政権にとって検事総長に誰がなるかは非常に重大な意味を持っている。

 一般に公務員になるには、もちろん人事院が実施する公務員試験を受けることになる。(外務省が実施する外交官試験などの例外もある。)しかし検察官になるには、はるかに難関とされる司法試験に合格し、司法修習を終了しなければならない。そういう非常に高い専門性を求められることから、検察官の人事に関しては一般の「国家公務員法」ではなく、「検察庁法」で規定している。そして検察庁法第22条には「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する」と明記されている。

 それに対し、森雅子法相は「業務遂行上の必要」を理由にして「国家公務員法」の「定年延長」の規定を適用したとしている。じゃあ、国家公務員法には何と書いてあるか。そもそも国家公務員の定年は60歳である。今後順次延長されてゆくが、現時点では60歳。確かに、国家公務員法第81条の3には「職務の特殊性又は職員の職務の遂行上の特別の事情」の場合、定年を延長できるとある。

 では「余人を持って代えがたい」公務員だったら、延長に次ぐ延長を繰り返して70歳でも80歳でも勤務出来るんだろうか。それは出来ないのである。公務員の定年は「一年を超えない範囲内」で延長でき、期限が来たら再び同様に延長できる。「ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない」のである。(国家公務員法第81条の2)つまり、63歳までしか定年延長が出来ないのだ。

 国家公務員法の定年延長とは、要するに60歳までしか勤務出来ない特別な能力のある一般公務員を63歳まで働けるようにする規定なのである。しかし、検察官はもともと63歳定年である。検察官に関しては、高い専門的能力を必要とすることから、全員が特例で定年を延長されているのと同じである。検察庁法には検事の定年延長特例は規定されていない。だから検察官は検事総長以外には63歳を超えて在任することが出来ない。そう理解するのが法の正しい解釈だろう。

 このような特例的な定年制度は他にもある。調べてみると、病院の医師、宮内庁次長、金融庁長官、科学警察研究所長官,国立がんセンター総長等は65歳、守衛、用務員は63歳、事務次官・警視総監等は62歳…といった具合である。国家公務員にもいろんな職があるもんだと思った。しかし、国家公務員の定年は原則として60歳である。一度定年退職した後に「再任用」という制度もあるが、それも65歳まで。しかし、そういう制度は一般的な公務員の話である。

 ところで黒川氏の定年を安倍内閣が何故延長したのか。それは現職の稲田伸夫検事総長が慣例通り2年で勇退するなら8月に退官となる。黒川氏は2月7日に定年を迎える予定だったが、今回半年延長されたので、ギリギリで検事総長に昇格できる。今の稲田検事総長の前職は、法務事務次官→東京高検検事長→検事総長である。実は黒川氏も法務事務次官経験者で、今東京高検検事長。検察官の世界では事実上の№2である。検事総長には最高検次長検事が昇格するのではない。1950年代末から、3人の例外を除き25人が東京高検検事長から検事総長となっている。

 その意味では検察官の世界では、慣例通りの昇格になるのかもしれない。だが、その「慣例」のために法の趣旨をまげてはならない。森法相は「ゴーン事件」対応だと言いたいらしいが、ゴーン元日産会長が批判する「日本の司法制度は不正だ」というのをまさに裏付けるような人事ではないか。「その通り日本の司法は法を逸脱するんだ」と世界に示してどうするんだろう。

 それに安倍首相は「桜を見る会」問題で背任罪で告発されている。安倍内閣で定年を延長して貰った検事総長が対処出来るんだろうか。それにこのままでは黒川氏自身が「検察庁法違反」で告発されるだろう。森雅子法相も「特別公務員職権濫用罪」に当たるのではないかと思われる。そのぐらい重大な出来事なんじゃないかと考える。
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映画「凪待ち」と「台風家族」

2020年02月03日 20時54分51秒 | 映画 (新作日本映画)
 キネカ大森で日本映画2本立て。「凪待ち」(なぎまち)は香取慎吾、「台風家族」は草彅剛の本格主演映画で見応えがあった。昨年に『「まく子」と「半世界」』を書いて、草彅助演「まく子」と稲垣吾郎主演「半世界」に触れた。ジャニーズ事務所退所組も健闘してるんだけど、特に「台風家族」は後で書くような事情で公開に制限があった。「凪待ち」も白石和彌監督が多作すぎて、「麻雀放浪記2020」と「ひとよ」の話題作に間に埋もれてしまったか。元SMAPファンは健在だから、DVDで資金回収が見込めるかもしれない。しかし、どっちも現代日本を描いて出色の出来で、劇場で見る価値がある。

 白石和彌監督「凪待ち」はチラシを見るとミステリーかと思うが、震災被災地を舞台にダメ男をじっくり描く人間ドラマ。香取慎吾が競輪を止められない郁男を本気で演じている。ギャンブル依存症は怖い。毎日映画コンクールの主演男優賞候補になった。籍を入れてはいないが同棲している亜弓が西田尚美、その父親が吉澤健で、なんと毎日映コン助演男優賞を獲得した。70年代の若松プロから見ている者として感慨深い。亜弓の娘美波恒松祐理

 被災地石巻を舞台に、じっくり家族の悩みを描きこむと見せておいて、途中で転調する。二度と取り戻せない過去につぶされるように、再び競輪の「ノミヤ」にのめり込む郁男。どこまでもダメになるのか。印刷所や漁業、港の市場など、労働現場もきちんと描かれる。娘は川崎で不登校になり、石巻に帰って定時制高校に行くことになる。そういう生活事情が細かく描かれてリアリティを出す。競輪がないはずの宮城にもノミヤがいて、どこにも暴力団がいる。まさに「後悔先に立たず」だなあ。

 「台風家族」は市井昌秀の脚本、監督作品。原作小説があるが、それも監督夫婦共作だという。「パラサイト 半地下の家族」やジェフリー・ディーヴァーのミステリーほどではないけど、驚くべき展開の数々にビックリする。ただし、それは現代日本のありようを反映して、せこい話ばかり。冒頭で「2000万円銀行強盗」が出てくる。事件を起こしたのは老夫婦で、そのまま行方不明になったらしい。それから10年。時効になったのを機に、子どもたちは両親の失踪宣告を行い、葬式を挙行する。

 長男が草彅剛、その妻が尾野真千子、長女が MEGUMI、三男が 中村倫也、父が藤竜也と豪華キャストだが、公式HPから消されてしまった次男を新井浩文が演じている。そして新井浩文の逮捕・起訴によって公開延期となってしまった。秋になって期間限定で公開されたが、見てない人が多いだろう。市井監督は,元「髭男爵」メンバーで,その後ENBUゼミナールで映画を学ぶという興味深い経歴。星野源主演「箱入り息子の恋」で商業映画デビュー、その後「ハルチカ」を監督している。

 子どもが4人いるはずなのに、葬儀に3人しかいない。そして葬儀後に遺産の話となる。かつて葬儀社だった家で、土地はあるからそれは売れると踏む。その分割争いになったときに、期せずして訪れる人が続々と。そして意外な展開に呆然とするうちに、台風さなかのキャンプ場で何が起きるか。最後になると、ちょっと筋が無理やりになってくると思う。???という箇所もあるが、まあ面白いからいいか。「凪待ち」の白石監督の「ひとよ」は母が殺人事件を起こした子どもたちの話だった。一方、「台風家族」は親が強盗事件だがコメディタッチである。それにしてもこっちもダメ男がいっぱい。そこが興味深い。
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「ラストレター」と「お帰り寅さん」ー同窓会映画の功罪

2020年02月02日 23時24分04秒 | 映画 (新作日本映画)
 岩井俊二監督の新作「ラストレター」と山田洋次監督の新作「男はつらいよ お帰り 寅さん」(以下「お帰り」)を相次いで見た。それなりに満足で損した気分はしないけど書くつもりはなかった。「ジョーカー」や「パラサイト 半地下の家族」などと比べて、面白さのスケールも小さいが、それ以前に物語が「過去志向」に思える。どちらもTOHOシネマズ上野で見て、国立映画アーカイブに回った。だから二つの映画を比べちゃうんだが、アレ、この2本の物語は同じじゃないかと気付いたのでその事を。

 どちらも男は小説家で、過去に思いを残して別れた女性がいる。その女性と不思議な縁で再会するのである。しかし、二人の間には「死者」が横たわっている。「ラストレター」では、姉の遠野美咲が亡くなり、葬儀の場で妹の岸辺野裕里は姉宛の同窓会の案内を受け取る。姉の逝去を伝えるつもりで同窓会に出席した裕里だったが、周りから姉と間違われスピーチまで頼まれる。その日、姉に恋していた乙坂鏡史郎から声を掛けられる。乙坂に今の仕事を訪ねると、小説家と答える。

 「お帰り」は冒頭が法事である。諏訪満男の亡妻の七回忌に皆が柴又の実家に集まる。そこにはおいちゃん、おばちゃん、そしてあの懐かしい伯父さんはもういないけれど、父諏訪博とさくらは達者である。そして満男の娘ユリもいて、もう高校生である。満男は最近小説家として賞を取って評判になっている。出版社にはサイン会を頼まれている。そのサイン会で偶然日本に帰って来ていた及川泉に再会したのだった。今は結婚してイズミ・ブルーナである。子どもも二人いて、国連難民高等弁務官事務所で働く国際公務員になっていた。満男は神保町のお店に泉を連れて行く。そこはリリーの店だった。

 こうしてみると、冒頭が葬儀か法事、小説家となった男が過去の女性と再会、重要人物の名前がユリ(裕里)というところまで同じである。ユリは偶然だが、ストーリーが似ているのは必然もある。どちらも「過去の再現」を狙って作られた。「お帰り」は「男はつらいよ」シリーズを再起動させるため、満男と泉が結婚していない設定になった。国際公務員というのは、後藤久美子の実人生が反映され、流暢な英語、フランス語を披露している。二人が結婚して幸せだったら物語にならないのである。

 「ラストレター」は、1995年に作られた岩井俊二の長編商業映画デビュー作「Love Letter」を意識している。それを象徴するように、中山美穂豊川悦司も顔を見せる。1995年には携帯電話を多くの人がまだ持っていなかったし、持ってても、まだメール機能がなかった。だから手紙のやり取りがあっても自然だ。死者からの返信は不思議だけど。現在では手紙を書いてもいいけど、スマホを使わないのには理由がいる。その理由として、過去と現在のドラマが必要になる。

 「お帰り」では、諏訪満男(吉岡秀隆)が作家だというのは、「三丁目の夕陽」の茶川龍之介のイメージもあるから、それほど不思議な感じはしない。ただ満男の人生で最大のドラマは、泉との別離ではない。10歳ほどの娘を残して妻が亡くなった出来事の方である。義父からも、娘からさえ、もう再婚してもいいようなことを言われる。だけど、満男は法事の日にふさわしくない話題だと思う。この亡妻とのドラマが出て来ない。過去シリーズの「同窓会映画」だからだろう。

 そして、それはそれなりによく出来ている。全然見たことがない人が楽しめるのかは判らない。でも、そういう人は初めから見ないだろう。過去の名場面集みたいな映画だが、見ている方でも、ここは博のプロポーズ、ここはメロン騒動と判って楽しむ。その思い出の快感に酔うわけだ。だから満男以外は生きてる人は昔と同じ。タコ社長もいないけど、美保純が出ている。裏の印刷会社も無くなり、団子屋もどうなったんだか判らないけど続いてる。僕も博とさくらが離婚してたりしたら、見る気が失せる。満男と泉のつかの間の再会だけの映画だが、そういう映画もあっていい。

 「ラストレター」はもう少し複雑だが、「Love Letter」ほどじゃない。あれは傑作だったし、僕も何度も見た。映画の時間構造が判らない人もいたようだが、今回はそこまで複雑じゃない。要するに、死んだ姉のフリをして、過去の初恋の人と文通する話である。裕里松たか子、夫の漫画家岸辺野宗二郎庵野秀明。売れない作家の乙坂鏡史郎福山雅治で、乙坂と裕里は最初はメールでやり取りするが、夫の岸辺野が疑いを持ってスマホを湯船に投げ込んでしまう。かくして裕里は手紙を書くことになる。
(過去の乙坂と裕里)
 現在の合間に過去が回想されるが、姉の美咲の若い時と美咲の娘鮎美広瀬すず、妹裕里の若い時と裕里の娘岸辺野颯香(さやか)は森七菜(もり・なな)。「天気の子」の主演声優だった。テーマソングも歌っている。乙坂鏡史郎の若い時神木隆之介。乙坂鏡史郎は転校生で、誘われて生物部に入る。そこに裕里がいて、姉の美咲に一目惚れした鏡史郎は妹を通して手紙を渡す。しかし裕里も彼を好きになってしまう。神木隆之介と広瀬すずの共演って、もしかして初めて? さすがに岩井俊二監督映画のキャスティングは豪華で、画面を見ていて楽しい。

 だけど、「ラストレター」でも、大学時代に付き合ったという美咲と鏡史郎の関係が何故壊れたのか。どうして美咲が不幸な結婚をしたのか。その後、娘も生まれたのに、どうして助けることが出来なかったのか。そういう一番大切なことが描かれない。今さら取り消せない時間を嘆いて涙するのみ。どっちの映画も、子どもが出来すぎなんだけど、それだけに感傷的な後悔を美しい映像で描くことへの違和感も覚えてしまう。乙坂鏡史郎さん、「美咲」という(映画内での本名)題はまずいでしょう。

 二つの映画を書いてるうちに長くなってしまった。どっちも快い感傷に浸れるけど、それでいいのかと思った。最後に「ラストレター」への学校映画的視点での疑問。この映画は岩井俊二が出身の宮城県を初めて舞台にした映画だ。出身中学は「西多賀中」だというが、高校の名前が「仲多賀井高校」っていうのはやり過ぎだ。こんな地名があっても、学校名は変える。また東日本は高校が男女別学のところが多く、監督の出身校宮城県仙台第一高校も2010年まで男子校だった。1980年頃に女子の生徒会長がいたはずがない。また小中じゃないんだから、よほどの事情がない限り、6月に転校してくる高校生はいない。そういう疑問が後からどんどん出てきて困ったのだが、見ている間は過去の妹裕里役の森七菜がうまくて流れに乗ってしまった。
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