今夜はスーパームーン、 ブルームーンとも呼ばれる8月で2度目の満月の夜ですね。
しばらく前に読んでいた 月の姫さまの物語。。 百年前のオランダ人作家が著した、もうひとつの《かぐや姫》の物語から、、
「お父さま、わたしはだれなのでしょう?」
「おまえの名は〈憂愁〉だ!」嵐の神が娘に向かって叫んだ。 「またの名は〈物思い〉だ!」
(「銀色にやわらかく昇りゆく月 憂愁の日本奇譚」より)
、、なんだかこの部分だけ読んでも、私たちが知る《かぐや姫》の物語とはぜんぜん違った趣なのですが 竹取の翁に育てられるお話は一緒、、。 日本の竹取物語に西洋の神話のモチーフを合わせたような感じです。
『慈悲の糸』 ルイ・クペールス著 國森由美子・訳 作品社 2023年
今年出版された本なので詳細に触れるのはよしますが、、 いつか月に帰らねばならない定めの 月の姫さまの〈憂愁と物思い〉、、 そして、 日本の霊峰 富士山が〈不死の山〉とよばれる謂れ。。 オランダの文豪の想像力と日本への憧れが生んだとてもファンタジックな文章を読んで、 あらためて《かぐや姫》の物語が持っていた《想い》の意味について教えられた気がしました。
***
この『慈悲の糸』は、 大正十一年にオランダから来日し、5カ月間日本に滞在して各地をめぐった作家 ルイ・クペールスが帰国後に書いた小説集です。 クペールスは日本滞在中には新聞社の依頼で日本についてのエッセイを書き送っていたそうです(そちらも『オランダの文豪が見た大正の日本』という本になっています)。 そのエッセイは大正当時の日本についての紀行ノンフィクションですが、 こちらの『慈悲の糸』は大正期の日本が舞台ではありません。 その当時もうすでに失われてしまった古典の世界や、失われつつある古来の文化を素材に、 ガイドブックで読んだり、浮世絵や日本画からヒントを得て、クペールスが独自に想像して書いた短篇集になっています。
ほんの5カ月間の滞在にしては、 日本の古典や仏教についてよくいろいろな知識を得たものだなあと感心してしまうのですが、 やはり正確でない部分は作家の想像力で補っていて、、 小野小町が雨乞い呪詛をする巫女さんのようだったり (追記:これについては「雨乞小町」という伝説に基づいているのだそうです。存じませんでした・お詫び)、、 歌麿の描いた吉原の浮世絵を題材に ふしぎな桃源郷のような世界が想像されていたり。。 利休の茶の湯の世界も ???だったり、、 その妙ちくりんな部分もふくめてクペールスの古き日本への幻想というか、妄想のような憧れを読むことができます。
ちなみに 本のタイトルの『慈悲の糸』については、 出版社の紹介文に載っているので こちらを>> 作品社
阿弥陀さまの首にある三本の筋、、 あれは すがる人を救い上げる「慈悲の糸」だったのか… と感じ入ったのですが、 どうやらこれもクペールスの創作なのかも。。 あの三本の筋は「三道」というのだそうですが、「糸」という記述はネットで探せませんでしたから。。 想像力のみごとさに感心です。(それとも当時そういう教えがあったのでしょうか)
歌麿や広重の浮世絵など、 クペールスの作品の源になったものについても訳者さんの解説が詳しくされていて、 百年前にこんな風に日本についての物語がオランダで出版されていたことに とても興味をひかれる本でした。
***
ところで、、
クペールスが大正期の日本で 紀行エッセイをオランダの新聞社へ書き送っていた、というのを知り、 その頃より少し前の大正2年ごろ、芥川龍之介の友人だったアイルランド人の新聞記者さんのことを思い出しました。 (以前に書きました>>「彼 第二」の追憶… 芥川龍之介)
芥川が「彼 第二」のなかに書いた〈彼〉は、 Thomas James といい、ロイターの通信員として東京に滞在していたそうなのですが、 アイルランドの文学にも詳しく 万葉集の歌を引用するほどだった彼が、 日本についてどんな事をロイターに書き送っていたのだろう… 日本の文学や芥川のことなども何か書き残していなかったのかしら…と、 急に気になってしまいました。
吉原ではないけれど、 柳橋の花街のどなたかに指輪を贈ろうとしていたジェームスさん。。 はかなくも上海で天然痘で亡くなるのですが、 芥川の書いた思い出の記はほんとうにみずみずしくて、 ジェームズさんの書きのこしたもの、 日本で暮らした証、 なにか発掘されたらいいのになぁ…と 思うのでした。
「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
ジェームスさんが芥川に呟いた 万葉集の歌。 貴方も憂愁のひとだったのですね。
クペールスの書いた《月の姫》の名も「憂愁」
今宵はお月さまを見上げながら 百年前の憂愁の人の魂をおもうことにしましょう。。
こちらはブルームーンイヴ 30日の月です
しばらく前に読んでいた 月の姫さまの物語。。 百年前のオランダ人作家が著した、もうひとつの《かぐや姫》の物語から、、
「お父さま、わたしはだれなのでしょう?」
「おまえの名は〈憂愁〉だ!」嵐の神が娘に向かって叫んだ。 「またの名は〈物思い〉だ!」
(「銀色にやわらかく昇りゆく月 憂愁の日本奇譚」より)
、、なんだかこの部分だけ読んでも、私たちが知る《かぐや姫》の物語とはぜんぜん違った趣なのですが 竹取の翁に育てられるお話は一緒、、。 日本の竹取物語に西洋の神話のモチーフを合わせたような感じです。
『慈悲の糸』 ルイ・クペールス著 國森由美子・訳 作品社 2023年
今年出版された本なので詳細に触れるのはよしますが、、 いつか月に帰らねばならない定めの 月の姫さまの〈憂愁と物思い〉、、 そして、 日本の霊峰 富士山が〈不死の山〉とよばれる謂れ。。 オランダの文豪の想像力と日本への憧れが生んだとてもファンタジックな文章を読んで、 あらためて《かぐや姫》の物語が持っていた《想い》の意味について教えられた気がしました。
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この『慈悲の糸』は、 大正十一年にオランダから来日し、5カ月間日本に滞在して各地をめぐった作家 ルイ・クペールスが帰国後に書いた小説集です。 クペールスは日本滞在中には新聞社の依頼で日本についてのエッセイを書き送っていたそうです(そちらも『オランダの文豪が見た大正の日本』という本になっています)。 そのエッセイは大正当時の日本についての紀行ノンフィクションですが、 こちらの『慈悲の糸』は大正期の日本が舞台ではありません。 その当時もうすでに失われてしまった古典の世界や、失われつつある古来の文化を素材に、 ガイドブックで読んだり、浮世絵や日本画からヒントを得て、クペールスが独自に想像して書いた短篇集になっています。
ほんの5カ月間の滞在にしては、 日本の古典や仏教についてよくいろいろな知識を得たものだなあと感心してしまうのですが、 やはり正確でない部分は作家の想像力で補っていて、、 小野小町が雨乞い呪詛をする巫女さんのようだったり (追記:これについては「雨乞小町」という伝説に基づいているのだそうです。存じませんでした・お詫び)、、 歌麿の描いた吉原の浮世絵を題材に ふしぎな桃源郷のような世界が想像されていたり。。 利休の茶の湯の世界も ???だったり、、 その妙ちくりんな部分もふくめてクペールスの古き日本への幻想というか、妄想のような憧れを読むことができます。
ちなみに 本のタイトルの『慈悲の糸』については、 出版社の紹介文に載っているので こちらを>> 作品社
阿弥陀さまの首にある三本の筋、、 あれは すがる人を救い上げる「慈悲の糸」だったのか… と感じ入ったのですが、 どうやらこれもクペールスの創作なのかも。。 あの三本の筋は「三道」というのだそうですが、「糸」という記述はネットで探せませんでしたから。。 想像力のみごとさに感心です。(それとも当時そういう教えがあったのでしょうか)
歌麿や広重の浮世絵など、 クペールスの作品の源になったものについても訳者さんの解説が詳しくされていて、 百年前にこんな風に日本についての物語がオランダで出版されていたことに とても興味をひかれる本でした。
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ところで、、
クペールスが大正期の日本で 紀行エッセイをオランダの新聞社へ書き送っていた、というのを知り、 その頃より少し前の大正2年ごろ、芥川龍之介の友人だったアイルランド人の新聞記者さんのことを思い出しました。 (以前に書きました>>「彼 第二」の追憶… 芥川龍之介)
芥川が「彼 第二」のなかに書いた〈彼〉は、 Thomas James といい、ロイターの通信員として東京に滞在していたそうなのですが、 アイルランドの文学にも詳しく 万葉集の歌を引用するほどだった彼が、 日本についてどんな事をロイターに書き送っていたのだろう… 日本の文学や芥川のことなども何か書き残していなかったのかしら…と、 急に気になってしまいました。
吉原ではないけれど、 柳橋の花街のどなたかに指輪を贈ろうとしていたジェームスさん。。 はかなくも上海で天然痘で亡くなるのですが、 芥川の書いた思い出の記はほんとうにみずみずしくて、 ジェームズさんの書きのこしたもの、 日本で暮らした証、 なにか発掘されたらいいのになぁ…と 思うのでした。
「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
ジェームスさんが芥川に呟いた 万葉集の歌。 貴方も憂愁のひとだったのですね。
クペールスの書いた《月の姫》の名も「憂愁」
今宵はお月さまを見上げながら 百年前の憂愁の人の魂をおもうことにしましょう。。
こちらはブルームーンイヴ 30日の月です