４歳の幻影。

　かつては、大人が属する領域と、子供が属する領域が社会の中で、ある程度きびしく線引きされていた。

　この前書いた『イン・ザ・ペニー・アーケード』という短編は、少年が初めてその大人の領域へ独りで足を踏み入れることを描いた小説。ペニー・アーケード、、いわゆるゲーム・センター。。。それまでは必ず両親に付き添われ、両親の目の届く所で乗り物に乗せて貰い、ゲームで遊んでいた少年が、ある年齢に達して、初めて自分独りで自由に歩き回ることを許される。「私たちはここで待っているから」と両親は戸外の明るい場所に残り、少年は薄暗く古ぼけた建物にひとり入って、自動人形のガンマンに決闘を挑んだり、何を見せてくれるのかわからない魅惑的な女性がコマ送りで動く覗き箱に、コインを入れようかどうしようか、と心を波立たせる。

　また、一方、大人が属する領域は、薄暗がりばかりではなくて眩いばかりの光の世界である場合も。。これは私の記憶。。。

まだ私が髪を長いおさげにしていた時だから初めての手術の４歳以前のこと。クリスマスのダンスパーティー・・。田舎町にもダンスホールなどというものがあったのだろう。生まれて初めてお洒落をさせてもらって両親に連れられてそのパーティーへ出掛けた。そこはミラーボールが輝き、きらきらした照明とクリスマスの飾りで一杯の夢の中の世界のようだった。正装して中央で踊る男の人と女の人。グラスやお料理の並べられたテーブル。たぶん父と母は知り合いの方たちに挨拶にでも行ったのだろう。私と兄を「ここで待っていなさい」と、電動のレーシングカーのゲーム台の前に残し、どこかへ行ってしまった。知らない大人の人が行き交う目の眩むような場所で、胸を躍らせながらも怖くてたまらなかったのを憶えている。その後十数年、病いばかりの生活になるので余計とも束の間の華やかな記憶が印象に残っているのだろうけれど。

　現代は、もう大人の領域も子供の領域もいっしょくたになってしまった。真夜中まで子供を連れて外出することに全く違和感の無い社会。子供とは未知に対するおぞましい好奇心と、果てしない空想癖を抱えた魔物。自分自身がそうだった・・・と思うのだが、、違うだろうか・・・？