今回の来日では、 東京でのライブが3回。 、、その3回とも観られたらいいのになぁ、、と思う一方、、 たぶん私には1度でじゅうぶんなんだろう、、 と半分納得する気持ちもあり、、 でも 結果、、 3度観られたらやっぱり良かったな。 いろんな面が きっと見られたことでしょう。
前に、
これまで観たトムの印象の移り変わりを ちょこっとだけ書きましたが(
>>) 、、孤高 → シニカル → 芸術家 、、といった 明らかにテレヴィジョンの、 そしてトム・ヴァーレインというアーティストの、〈らしい〉印象からくらべて、 今回は、 ほんとうにトム 穏やかになったなぁ、、 となんかしみじみ思ってしまいました。。 今までで一番 リラックスしていて、 今までで一番喋って、 今までで一番しっかり徹底してギターを弾いていた(←これがいちばん大事)
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オープニングには ヤマジカズヒデさん。 ステージ右サイドに ジャズマスターを構えて立ち、 中央のドラムスと、 なるほどトム・ヴァーレインを好きらしい危うさのあるひろひろした(?)ギターを奏でる。 でも、 トムのサウンドの単純さに比べて、 ヤマジさんはもっとノイジーな爆音も。
2曲目に ニール・ヤングの「ヘルプレス」を演ってましたが、 そう、 ニール・ヤングさんのギター1本爆音弾き語りの印象の方が近いかな、、と思って観ていました。
5,6曲やったと思うけど、 ラストはピンクフロイドのSet The Controls For The Heart Of The Sun。
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会場の椅子席は2列ぶんで、 幸いチケ番号の早かった私は座って観ることができましたが、 ずっと立っていたらきっと私は ヤマジさんだけでバテてしまっていたかも、、、 ステージに2つの椅子とマイクがセットされて トムらが出てきたのは、 開場から2時間くらい経っていたのではないかな。
現れたトム&ジミーを観て、 (アコギだ・・・!?) youtubeで観たふたりのライブもアコギだったっけ?? 頭の中で記憶をめぐらす、、 いや、 あのときはストラトだったよ、、な。。。
1曲目は「The Days on You」。 あと、記憶も曖昧なので 思い付いたことだけ書きますが・・・
私の興味は、 いつもエレキギターでトムがやる 音の頭をミュートしたヴォリューム奏法のひょろひょろしたのを、 エレアコだとどうするんだろ、、、 と思って見ていたのだけど、 弦を押さえた左手をスライドさせて大きなヴィヴラートをかけたり、 ベンディングしたり、 時にはボディとネックをぐぃ~っとたわめて音を変化させたり、、 見事にトム・ヴァーレインの音になっていたのには驚きでした。
アコギだからエレキに比べて当然 優しい音色のはずなんだけれど、 トムのとつとつとした弾き具合とか、 弦を押さえ替えるギギッっていう軋みとか、 あと ブリッジの木部をピックか爪でゴゴゴゴ、、、と引っ掻いていたけど そういう音の全部が必要不可欠にトムの歌の一部になっていました。
ジミーの方は、さすがに名手といった感じで、 リズムギター全般を請け負っていましたが、 ピックはほぼ使わずに、 右親指と人差し指で低音弦のコイルを引っ掻くような音でベースラインを奏でつつ、 のこりの3本指でジャジャジャジャ、、と小刻みなリズムをスパニッシュギターのようにエネルギッシュに弾いたりしていて、 巧い、 見事、、 というばかりでした。
1曲目終わったところで、 トムが会場を見廻して (すごいいっぱいの人だね)と。。。 ギターを弾く時は身体をかがめて俯いて弾くのだけど、 マイクはけっこう高い位置にセットしてあって、、 だから 歌う時はアゴを上げて伸びあがったような状態で中空を見上げるような感じで歌う、、、 (これは昔からそんな感じだよね) 、、歌いにくくないのかな、、と思ったり でも、 ああすると例のうわずったような引き攣ったような声になるのかな、、と思ったり。。
テレヴィジョン時代~80年代のCDを聴くと、 トムの声若い!とびっくりしますが、 さすがにあのテンションの高い攻撃的な声はもうありませんが、 61歳の声じゃ全然無いよね。。 見た感じだって 55,6歳といったところかな。。 伸びあがって歌う時の首のラインも綺麗だし、、 (はい、 もう代名詞ともなった白鳥の首を持つ男、ですね) 、、ジミーの方を見る横顔の すんと尖ったお鼻もぜんぜん変わらないな、、と。 トムって本当に少年のようだな、、と。
一方ジミーさんは、 写真のように帽子をかぶって、 首に西部劇のガンマンみたいにバンダナを伊達に巻いて、 なかなかお洒落。
トム、、 よく喋りました。。 スケッチブックくらいのノートを見せて 「ヒミツ・ホン、、」 (secret bookと言いたいんだろう、、) それをぱらぱらめくってページを開いて、 そして足元にバサっと落として それからギターを弾き出す。。
2,3曲やって、 また ノートを持って 「ヒミツ・ホン、、」 (もう聞いたってば、、笑)、、 で、 その秘密本には、 サインペンくらいの大き目の字で ただ曲名と歌詞が1ページごと書いてあって、、 (それのどこが 秘密なんじゃ、、)
かと思えば、、 (次の曲は twenty-five century の曲)と言って クスっと笑う。。 意味不明。。 それとか、、 (次は super electric な曲)、、 アコギで何がエレクトリックなんだか、、、。。 (新宿の巨大電光スクリーン)、、とか言ってたな、、、 やっぱり意味不明。。
その曲だったか忘れたけど、、 ジミがギターのボディを トントンっ、、と叩いて、 (wow~~)と犬の鳴き声、、 そしてまたボディをトントンっ、と叩いて みんなに(wow~~)とやれと 仕草をする。 そのコール&レスポンスを何度かやらされて、、 トムもチューニングしながら (wow~~)と応えてクスクス笑ってる。 、、で その曲は、、 トム曰く、、 「only you ni wa~」 ???
裏庭(backyard)で犬が啼いている
裏庭で犬が啼いている
なぜ あの犬は啼いているんだろ、、、
裏庭で犬が啼いている
・・・・
〈3番は〉
裏庭で女が (crying だったか standing だったか忘れた)
裏庭で女が・・・
〈そしてまた〉
裏庭で犬が啼いている
wow wow~~~~~
、、て歌でした。。 「only you ni wa~」と聞こえたのは、 「うらにわ~」と言いたかったらしい。
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、、 こんな風に書くと、 なんかつまらない歌か 或いはふざけた歌かのように思えてしまうかもしれないですが、、 私が聴きながら なんだか思い浮かべていたのは、、
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
という 三好達治の「雪」という詩ですね、、、 なんか トムの歌は これと似た世界を感じるな、、、と 思っていたのでした。 単純さも、、 静かさも、、あるけれども、 難解さもあって。。 「雪」がでてくる すごく美しい歌、、 「The Scientist Wright a Letter」だったか、 「Blue Light」だったか、、 と一緒に聴いたからかもしれないな。。。
今回、 すごく 美しくて せつなくなるような曲が多かった。。。
「The Earth Is In The Sky」はふたりのギターの、 あの印象的な旋律(CDで聴いて下さい)がぴったり合ってすごく美しかったし、 youtubeの FIB Benicassim 2006でも聴けますが、 これ、 アコギの方がすご~く合ってると思いました。 優しかった。
あと、
「Stalingrad」とか
「at 4 AM」とか
「Documentary」とか、、
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トムは 終始おだやかな感じでした。 初めの方で、 ステージ背後の照明を指差して (ちょっとこれが眩しいんだ)、、 と言って、 明かりを下げて貰ったら、、 (どうもありがとう)と にっこり。
何曲目かで、 トムがカポを忘れたのか、 ジミーが自分のを (どうぞ)、、と大仰な仕草で手渡して(笑)、、、 そしたらトム、、 (これ どうやるの?) 、、で、 ジミがトムのネックにそれをセットしてあげて、、、。。 トムが カポをつけたままチューニングをしているのが、、 私はなんか不思議でした。。 (そういうもの?)
たぶんジミの方が年は下なんじゃないかと思うのだが、、 ジミの方が頼りがいのある気持ちのいい兄貴みたいな感じでした。 トムがギターをチューンして、 その流れでおもむろに弾き出すのをぴたっと合わせ、、 ビートのある曲では、 たぶん革靴を履いていたジミが 片脚でコツコツ、、とリズムを刻んでいて その小気味良い音が響いていて、 それに合わせるように、 ふたり別に顔を見ることも無くぴたっと演奏は合っていましたね。
圧巻だったのは、 最後から2曲目の曲「Nice Actress」
これもジミの靴音が カツカツ、、と響いていましたが、 曲の中盤からふたりのギターがスパニッシュギターのように激しくなり、、、 ふたりとも背中を丸くして 一心不乱にギターを掻き鳴らし、、 その熱気と緊張度が凄くて 会場中が息をのんで見守るうちに、、 ぴたっと絶妙のエンディング。 、、、はぁーー、、っと溜め息のようにみんな息をついてからワーっと拍手していました。 その時、 トムも嬉しそうににこっとしていましたね。
このとき、、 私も (凄~ぉ、、)と思って、 その一心不乱にギターを掻き鳴らしているテンションの高さに、 Spiritualized のジェイソンを思い浮かべていたのでしたが、 帰ってから前日のロッキンオンのライブレポートにも同様の感想が書かれていて (RO69
>>)、、 そうそうそう、、とうなずいてしまったのでした。
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私がとても印象的だった曲は 「O Foolish Heart」。
ラストだったか、 アンコールだったかと思います。 これも美しい曲なんだけれど、、 トムの歌詞を私 もちろん解っているわけでもないし、 覚えてもいないし、 もっと英語わかったらいいのにな、、と思うのですが、 ライブではなんとなくこの歌詞もちゃんと聞こえて、 トムが目の前でつぶやくように聴かせてくれているからかもしれませんが、、
It's so quiet, I hear the raindrops
Splashing on the leaves
Somehow it brings your face to mine...
のあたりを聞いていて、、 (あぁ、、なるほど 貴方はヴェルレーヌなのね、、)と思っておりました。
巷に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる
かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
というのは、 ヴェルレーヌの「巷に雨の」(堀口大學訳)ですが、、 パティ・スミスの詩がランボーだとしたら、 やっぱりトムの詩はヴェルレーヌなんだね。 「人々には力がある」と拳を握るような歌はもちろん書かないし、、 いつでも遠くの恋人にひとりごとを呟くような、、 雨とか、 雪とか、 空とか、 海とか、、 マーキームーンとか、、、 そんなものを見やりつつ、、
自分の心と対話しているんだね、、、と。
、、トムは、
「O Foolish Heart」を歌い終わった後、 ちょっと照れたように ちらっと笑っておりました。 、、、そんな風な たったひとりの心の呟きを たくさんの人の前で歌ってみせるのが なんか照れるような感じで。。。 じっとそれを聴いていた私も、、 やっぱり 余りに抒情的な言葉を、 トムがあのセンチメンタルともいえるようなうわずった声で呟くのを聴いていて、、 ものすごく照れてしまいました。。。
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すぐに出て来てくれたアンコールでは、 「songs and other things」の最後のインスト曲「Peace Peace」か、 それに似た曲で、 トムがハーモニクスだけで旋律を奏でるような、 とても美しいギターを聞かせてくれました。
そして、、 うっわぁ、、、 懐かしい曲だ、、! と思ったのが、 これもラストだったかアンコールだったか曖昧だけど、 Television のセカンド「Adventure」の曲、 「The Fire」。
このめちゃめちゃ泣きの、 抒情的なイントロは、 ジミーがスライドで奏でていました。 「Adventure」にはマーキームーンにはないメロディアスさがありますが、、 この曲も、 ほんと 演歌?(艶歌?)と言わんばかりの泣きの旋律ですよね。。 これもエレクトリックギターとはまた違った、、 なんだか優しくたどたどしい泣きのギターをトムが聴かせてくれて、 そこにジミーの スライドが重なって、、 これもCDとは全然違う良さがあったな、、、 もう一度聴きたいな。。。
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驚きの、、 アンコール2回目。 (電気点いてからまた出て来てくれましたね)
今度は (thirty-second centuryの曲)とか言ってたかな・・? (すご~く strange な曲) とかも言ってたか、、、 なんか悪戯っぽく笑って。 インストの曲でした。 、、、エンディングがぐずぐずになって、 ジミが先に終わって、、 トムがそこに付け足して、、 ジミがちょこちょこっと弾いて、、 しょうがないからトムがちょろっと。。。 そんな感じにぐずぐずに終わって、 やっぱりあの照れたような笑いをちらっと向けて、、、
以上で 終了です。
Television の「Marquee Moon」を歌った、 ものすごく緊張度の高い ストイックな伝説のギタリストを期待していらした方には、 もしかしたら物足りないライブだったのかもしれませんね。。
でも、 今回トム自身はとても楽しんでいるように見えました。 やっぱり、 お客さんがすぐ目の前に見えるという親密な距離感のせいかもしれませんね。。 昔、何かで読んだインタビューだったか、、、 「NYに来て、 アコースティック1本でお客さんの前に立って歌った時、 何かが変わった」、、という、、 言わば純粋な初期衝動のようなもの、、? 今や 何かが変わるわけではないのだけれど、 純粋に伝えたいことと、 それを聴いてもらうということの意義だけで成り立っていたように思われます。
私としては 次回もアコースティックでいいような気がするなぁ。。 エレクトリックを弾きつつ、 なおかつ歌う、、というのは トムの繊細すぎる音づくりからして、 ひとりでは再現難しいのかも、、と思いますので、、、
ただパティ・スミスの次回作では、 トムはギターを弾いているようですね。 彼女の為に弾くギターはまた、、 きっと良いのでしょう。。 期待してます。
、、、長くなりました。
お読み下さった方、、 おつかれさまでした。 ありがとうです。