星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

あの山の向こう。。

2005-11-24 | …まつわる日もいろいろ
80歳を越したYおばに会うため西へ向った。
故郷の母も前から会いに行きたいと言っていて、ちょうど良い機会が重なって向こうで落ち合う事になった。

今年、、、私は、とてもとても大切な人を失った。
90歳を越えたAおば。。今の日本に、貴婦人という呼び名の似合う老婦人がどれだけいるかわからないけれど、Aおばは私の子供の頃からずっと貴婦人だった。外出する時には、飾りのついた帽子とレースの手袋を欠かさないような。。でも、その背景に壮絶な人生があったことなど、子どもの私には知らされなかった。
Yおばも、Aおばも、、ずっと子供の私の看病をしてくれた。父が危篤の間も、私を預かってくれた。母と変わらない存在。

そのおばは、嵐のような人生を生き、焔のように人を愛し、そして猛虎のように、死んでいった。
これは誇張でも何でもない。余りに壮絶過ぎて、残された私達はまだおばの死から立ち直れない。
大人になった私が、恋人を連れて行った時、「しっかりとな、抱き合っていろよ、しっかりとな」とおばは力を込めて言った。
優しさもプライドも最上級だったおば。

 ***

前回書いた『絵はがきにされた少年』を読みながら新幹線に乗っていた。その表題作の中の、レソト王国(アフリカ)の老教師のこんな言葉が胸に響いた。

  「仮に我々に、お金と暇があったら、どうするでしょうか。あなたの国に行ったり、欧州をくまなく歩いたりするでしょうか。そんなことしないと思いますね。多分、その山の向こうにさえ滅多に行くことはないでしょう…」

そして老教師は〈inquisitive〉という言葉を挙げる。

  「つまり、知りたがり、好奇心が強いということですが、欧州人や日本人はそれでしょう。…(略)」

 ***

毎日パソコンを開いてあっちのニュースこっちの情報と〈知りたがり〉の毎日を送っている現代人(自分も含めて)。そして、満たされたという気持ちはなかなか聞かれない。

 ・・・Yおばも、私の母も、アフリカの老教師のように、「その山の向こうにさえ」滅多に行かない。周囲の状況に余りにも過酷に弄された人生だったから(弄したのは私の方でもある)、、日常を失う事を酷く恐れるのだ。
 「○ちゃんが来たからすき焼きね~」とのおばのリクエストは、間違えてお肉を買ってきた母の大ボケによって肉じゃがに変更になってしまったけれど、骨折してから皮むきが困難になったおばは、おジャガをとっても喜んでくれた。60年以上にわたるYおばやAおばの思い出話を一番細部まで聞いているのは、肉親以外では私だけかもしれない。その余りに重い記憶を、とどめなければ失われると知っていても、私は文字にすることが出来ないだろう。あまりにも多くの人の人生に関わることだから。。

でも、この女性たちの重い重い記憶を胸に刻んで、日常が日常であることの幸せを噛みしめて生きていこう。。
早くまたおばに会いに行けるように、頑張ろう。
 (とつぜんに連絡したお友達、逢って下さって有難う。楽しかった)

ほんとうのうつくしさ

2005-11-15 | 文学にまつわるあれこれ(林檎の小道)
とある場所で見せていただいた本。

終わった後、思わず駆け寄って
「それ、もう一度見せて下さい」と言って見せてもらいました。

検索にひっかかると(諸事情により)困るので
画像だけそっと載せておきます。
去年発行だそうなので、お気に召した方は
書店で見てみて下さいね。

よく知られているバージョン(そちらも好きだけど)のではなく、原作に忠実なお話で、内容もとても美しいもの。大好きなお話、、、ほんとうにうつくしい心に出会えるし。。

それに加えて、この絵に引き寄せられてしまいました。バーバラ・クーニーさんがお亡くなりになって、彼女の新しい絵本はもう増えていかないのをとても淋しく思ったけれど、またあたらしい人の絵に出会えてとても嬉しいです。

うつくしき11月

2005-11-12 | …まつわる日もいろいろ
ここ東京では
美しい秋が短いことこの上ない。

まだ田舎に住んでいた頃、11月初め、朝霧の中で色づいた銀杏並木の写真を撮った。
人影も見えないほど濃く立ち込めた霧が、次第に引いて、
金色の木立が陽にかがやきはじめる。
足元には、霜をのせて重なり合う葉っぱ。
その写真を東京の友へ送ったら、「こっちはなんか暑いよ…」と返事があった。その感覚が今は解る。11月に入ったら一斉に電車にも学校にも暖房が入り始めた。地下鉄などは乗り込むと、暑いくらい。。

昨日、公園脇を通ったら、銀杏が優しい色に変わり、桜は緋を帯び始めていた。この美しい秋を、もうしばらく楽しんでいたいのに、すぐにクリスマスの声に包まれてあっという間に師走のあわただしさにひっぱられそう。

11月があとひと月あったら、、
美術館で1日過ごそう。
紅茶と毛布を持って、湖の見える森へ行こう。
ヴェルヴェットのお洋服を着て、夜のレストランへ美味しいもの食べに行こう。
長編の物語を三日三晩、読み明かそう。

・・・どれもお預けになりそうです、、、。(美術館くらいへは行けるかな)
でも、ひんやりと心が落ち着くこの季節。しばし、文学の森で右往左往してみましょう。ちょっと怖い森でもあって、乙女たちが消えたり、悪の華に手を触れたり、、暗い淵を覗き込んだり、、、。(ああ、ブラザーグリムも観に行きたいな)

そうそう、私の文句が届いたか、Tom Verlaineのアルバム、とどきました。一緒に買ったトリビュート盤2枚。これも面白いんです、、、音楽も沢山聴きたいのに、、、

11月があとひと月あれば、、ね。

Sunday Nights: The Songs of Junior Kimbrough(写真)
Don't Let the Bastards Get You Down: A Tribute to Kris Kristofferson

レナード衛藤 “Blend ver.2” Nov.3 2005

2005-11-03 | LIVEにまつわるあれこれ
今夜は空中元彌チョップが炸裂していたそうですが
私も、別のところで、裸の戦いを堪能してきました。

「草月ホール」は、6月のイェイツの能以来。
入ってみると、前回より前の方の席。やった!アニー寄りです。
中央に、ステージに掛かった大きなお月さまのように白く照らされている和太鼓。
向って左に、ちょっとピンクっぽく見える赤いPearlのドラムセット。そして右には、すでにぼこぼこになっているドラム缶などなど、、、。坐った席からまっすぐ前に、ドラムセットが見えて、、(後でアニーが登場した時みたら、本当にお臍まで一直線、、て感じでした・笑)

、、、感想をちゃんと書きたいのだけど、、、こんな時、自分の聴覚だと心もとないことこの上無いです、、、。サラウンドで聴ける耳ならいいんだけど、完全モノラルという、人様とは全く異なる音の世界を聴いてるわけで、、、でも仕方ない、、そういう私の感想で御座います。

最初、太鼓アンサンブルで、肩から太鼓を下げたレナードさんらが登場。レナードさん、エジプトのファラオが首から下げるような金属っぽい飾りを下げただけの上半身裸、下は巻スカート風で、まさにエジプトの壁画に出てくる人のよう。太鼓の後は、小さなシンバル(中国歌劇団で使うようなの)を両手に持って、微妙に触れ合わせたり叩いたり、、、しょゎゎゎぁ~ん、という細かい砂のようななんだかエスニックな音です。
そして、大太鼓がステージ前面に出て来て、レナードさんが大太鼓の前に立って、ダン!と撥を振り下ろすと、音の衝撃が胸壁にどん、と来ます。太鼓の革が響く音っていいね。照明がレナードさんに当ると、左右の壁にシルエットが巨大な影になって動き回る。それがいい演出になって、左右でふたつの巨大な魔物が猛り狂っているようでなかなか素敵でした。

さて! とうとうアニー登場。最初はレナードさんとのセッション。アニーのドラムが入り込んできた時、「あれ? アニー結構抑えてる…?」と思ったのは、間違いでした。レナードさんがパワーアップしてくると同時にアニーの音もどんどんパワフルに。
ダンツタタン_ダンダン、という和のビートにアニーのドラムスは本当に巧く嵌っていました。大太鼓とのコラボレーションも盛り上がりが凄かった。アニーも、スティックの次は、先が球になっているバチで叩いたり、シンバルだけでレナードさんらの金属楽器と合わせたり、さまざまに見せてくれました。そして、アニーをひとり残してレナードさんがステージを下りて、アニーのドラムソロ。。それまでの流れの「和」のビートを基本にしながら、だんだん盛り上がっていって、アニー真骨頂の重い重い、まるでツーバスを蹴っているみたいなバスドラム連打になって、最後に、スティックで天を指して頭をのけぞらせて、あのアニーの決めポーズ!、、、これにはかなり熱くこみ上げて来るものがありました。。

言い忘れましたが、アニー、髪がかなり伸びて、アニーです(笑)。最初一枚肩にはおってましたが、レナードさんが大太鼓に入る時に、バッと脱ぎ捨てていました。顎のところに髭を生やしてて、髪を振り乱して連打する姿はかなり(私、おそらく皆さん好みに)いい感じに精悍に汚くなってて素敵でした。ライトの当り具合と髪型と髭でね、、、たまに「うわっ、兄弟だなあ、、」といきなり演奏と違う所へ心が持って行かれそうでドキドキしたりもしましたが、、、真面目な話、、素晴らしいものを見せてもらいました。もしかしたら(もしか、、じゃなく)、、この数年間、アニーは非常に有意義な時を重ねて来たのかもしれない、、とさえ思いました。

アニーのドラムソロの次は、重金属打楽器、スティーヴエトウさんとアニーのセッション。スキンヘッドで、ドラム缶や、ホイール(?)や、棚の枠みたいなのや、工事用の太~い鎖を、激しくまた軽やかに叩き転がし奏でるスティーヴさんのパフォーマンス、とっても好みです。アニーと顔を見合わせながら、巨大なドラム缶と、バスドラやシンバルの音が、ばしっと決まる。すごく息が合ってた。とっても柔軟で流動的な奏で方をするスティーヴさんに対して、和太鼓のレナードさんの振り下ろす音は直線的な感じ。結構異質な両者の音を、アニーのドラムスがうまく媒介しているように私には感じられて、なんだかこの3人、すごく嵌っていると思えたのですがどうでしょう、、。

アンコール前(レナードさん曰く"フィナーレ"前)、「マイク通してない菊地さんのナマの音なんて聞くの初めてでしょう? いつもデッカイ所で演ってたから・笑」と仰っていましたが、本当に、ね! アニーの姿がとってもよく見えたのは、そうだわ、マイクスタンドが一つも無いこともあるんだわ。PAを通したバスドラなどは、スピーカーが震える振動の衝撃波になってしまうけど、今日の音は、本当に其処でアニーが蹴っている音、ハイハットが空気を挟み込んで刻む音、シンバルを擦って震える音、、、ドラムスの生音は(バンド時代)結構馴染みのある音だったけれど、増幅されていない音って本当に微妙な色合いのあるものだし、何と言っても暴力的で無い。スピーカーからガンガンくる音って物理的に暴力的だったりするもの。

和太鼓とドラムスと金属打楽器、、、。先日、「アニーなら負けてない」って書いたけど、負けてもいけない代わりに、どれが勝ってもいけない。3者のバランスが生音ゆえに(イコライザーも無いから)、一緒に盛り上がって一緒に鎮まる、、ってあのバランスはどうやったら出来るのかしら、、、お世辞でなく、素晴らしいバランスだったと思うな。

アニー、頭をぐっとのけぞらせて髪を振り上げたり、スティックで天を指したり、一度はスティックでお客さんを指したり、、、すご~くすご~くカッコ良かったです! 勿論アニーファンもとっても多くて、ピタッと決まった瞬間、「アニー!」の声が一杯上がっていました(私も、、)。
最後に裸で前へ出て来て、レナードさん、スティーヴさん、レオプロの方々と握手を交わしたアニー。大活躍でしたね~。一度きりなんて勿体無い、、、すごいパフォーマンス、また観たいと思いました。

 * 何か思い出したら追加するかもしれませんが、とりあえずこんなご報告で *

青い棘のサウンドトラック

2005-11-02 | 映画にまつわるあれこれ
観て来ました。
買えました、サントラ。

ドイツ映画祭で見たときから音楽がとても気に入っていて
映画のチラシに載っていた「マルディグラBB(ブラスバンド)」のCDは
かつて聴いたことがあったので、ブラスの曲の方は判ったけれど、
ノスタルジックな切ないピアノの演奏も印象的で、
音楽担当のThomas Feinerから探し出して、彼がVoとKeyをやっていた「Anywhen」のCDも買いました。Anywhenの「The Opiates」は2001年のものだけど、今年は、安らぐ時もしんどい時も、こればかり聴いていた。それ位、Thomas Feinerの声と、静かでノスタルジックでダークな世界に惹かれてました。

映画「青い棘」のサウンドトラックは、マルディグラBBのブラスの入ったいかにも戦前の蓄音機から流れるジャズ風の唄と、せつないピアノ曲や、アコーディオンの曲がバランス良く入っていて、さっきからずっとエンドレスでかけていると、お部屋は1920年代のベルリン。。映画のエンディングで流れた低音のヴォーカルがThomas Feiner。素敵な声と、素晴らしい作曲センスだと思います。

ところで、アウグスト・ディールのエージェントHPに、彼の紹介Videoが出来ていました。「タトゥー」「青い棘」「9日目」から、彼らしいエキセントリックな名場面ばかりを集めてあって、見どころは一杯、、なのですが、映画の一番印象的な場面ばかりなので、これから作品をご覧になる人は要注意!!です。

それにしても、アウグストは拳銃所持率高い人ですね(笑)、、、どの映画でも銃をふりまわしてる。、、、でも、アウグストには是非是非、『ハムレット』をやってもらいたいなあ、、、映画でも、舞台でもいいから(舞台はもうやっているかもね)、、。髑髏を片手に悪ふざけの長広舌をやって欲しい。

 ***

映画館で予告編を見ると、本編でもないのに泣きそうになって困ります。
いい映画の予告、いっぱいあったなあ、、。
絶対みたいと思ったのは、、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジョセフ・ファインズの『ヴェニスの商人』

それから以前、ビデオで見たアンダルシアの映画『Vengo』で主演したフラメンコダンサー、アントニオ・カナーレスも出ている、『イベリア』、、。アイーダ・ゴメス、サラ・バラスなどが踊る本物のフラメンコダンスの映画。ヴェンゴの時は、カナーレスは俳優であって一切踊らなかったし、彼は、背も小柄、年齢とともに中年体型にもなっていて、踊ったらどんななのか想像がつかないけれど、ヴェンゴの情念に満ちた演技が忘れられないので、ぜひ『イベリア』での、彼の(そして女性陣の)情熱溢れるダンスを見てみたいのです。

以前の日記で「彼の踊りが見たい!」と願ったら、ちゃんとこうやって見れる機会がやってくるんだものね、、愛しいものを胸に刻んでおくと、いつかご褒美がもらえるんだ。