『アックスマンのジャズ』レイ・セレスティン著 北野寿美枝・訳 ハヤカワポケットミステリ 2016年
1919年のニューオーリンズで、斧を使った連続殺人が街を震撼させていた。新聞社に犯行予告を送りつけて来たのはアックスマン。。 実際に起きた未解決事件をもとにしたミステリ。
、、連続殺人とか 猟奇的な事件の小説はあまり好かないのですが、、 友が読んでいたこの本。 1919年の実際のニューオーリンズで起こった事件、、 という点にちょっと興味を持って、、 (残酷?)と訊いたら、、 事件はそれなりに残酷だけれど、 事後の検証部分しか出てこないということだったので、、 なんとか読めるだろうと。。
ちょうどその前に私が読んでいたのが、 パステルナークの『物語』、、1914~17年革命直前のロシア。 以前載せた『プロコフィエフ短篇集』 プロコフィエフが日本経由でアメリカへ亡命したのが1918年。
昨12月に載せた M. L. ステッドマン『海を照らす光』の主人公は、 第一次大戦(1914年から1918年)で深く心に傷を負って灯台守になった男、、でしたね、、。 なんだかこういう風に、 ヨーロッパ、 オーストラリア、 ロシア、と同時代を横滑りしていって 第一次大戦直後のニューオーリンズを舞台にした物語だったので 読んでみようかなと。
ハヤカワの紹介文にもある通り(
>>) 三者がそれぞれに犯人を追っていく、 複数視点での描き方が複雑で、 なかなかに頭を使うミステリでした。 刑事はアイリッシュ系、 マフィアと関係のある元刑事はイタリア系、 探偵の卵のような女の子は黒人ジャズミュージシャン (ルイス・アームストロング君)と一緒に、、 それぞれに事件を追っていくのですが、 かかわっていく人脈も、 イタリア系、 クレオール、 黒人、 アイリッシュなどの移民、 それからバイユーというルイジアナ特有の低湿地帯に暮らすヴードゥーを信仰する人たち、、
いろんな人種のいろんな職種・裏稼業の人々がいっぱい出てくるので、 場面が変わるたび (この人、なにじんでどこ系の人だったけ…) と神経衰弱で前にめくったカードを思い出すように 自分の記憶力が試されました。。。
事件は実際のもので、 「ジャズを聴いてない者は殺す」という犯行予告文も 実際に送り付けられたもの。 その事は興味を引くけれども、 その犯行の理由は全くわかっていないし、 この本のなかで三者が繰り広げる推理もまったくのフィクションだから、、 この未解決事件に何らかの決定的な解決を与える事が この小説の主眼ではないのですね。 この小説の魅力といえば、、 1919年のニューオーリンズという土地の特色・特異性、、 これだけの複雑な人種や 多様に入り混じった文化、 マフィアもそうだけれど アメリカという国の中にありながら 禁酒法などにしても法の支配が完全には行き届いてはいない闇を抱えた社会、、 そういう土地の複雑さを、地理、文化、人種、風俗、音楽、料理…いろいろと知ることができる点にあるのだと思いました。
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あぁ、、 と気づかされたのが、、
古い農園跡に暮らす老人が かつての美しかったクレオール文化を昔語りする場面で、 ふいにラフカディオ・ハーンの言葉を引用するところ。。 読み飛ばしてしまいそうだけれど、この老人が語る時代は まさにハーンが新聞記者としてニューオーリンズで10年余りを暮らしていた時代だったのでした。
日本では「怪談」で有名な小泉八雲が、 日本に来る前に ニューオーリンズの何に惹かれて十年余りを暮らしていたのか、、 何も知らないし、 殆んど考えたこともなかったけれど、、 この小説にも出てくる 「バイユー」という深い湿地帯、、 そして「ブードゥー」の神秘、、 都市化、近代化から取り残されたそういう土着の文化があったことが ハーンの関心とつながっていたのかな、、と 初めてそんなことも感じました。
(このミステリのストーリーとハーンとは直接関係はなかったですが)
「ニューオーリンズとラフカディオ・ハーン」という企画展の時の記事
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ラフカディオ・ハーンがアメリカ時代に書いた 小説二篇『チータ』と『ユーマ』の翻訳。
『カリブの女』(河出書房新社) - 著者:ラフカディオ ハーン ALL REVIEWS
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ここからは、 個人的な関心のある 「音楽」の話題もふくめて…
「ジャズを聴いてない者は殺す」 という犯行予告に怯えて、 ニューオーリンズではその当時 アックスマンのジャズ、という新しい曲がつくられて街中で奏でられたのだそうです。 その曲も楽譜つきで動画にのっていました。
The Axman's Jazz by Joseph John Davilla (1919, Ragtime piano)
、、こういうジャズの黎明期のようすも興味深かったですし、、 さきほど書いた「バイユー」という この土地特有の低湿地帯の様子、、 そこに暮らすブードゥーの医術を施す美しい女の人が出てくるのですが、 この女性がとても魅力的で、、
怖い事件を追う物語のなかで、 この女性が出てくる場面だけは バイユーの森の奥に隠されたやすらぎの秘境なのでした。。
、、 読み終えて、、 (読んだのは先週です)
読んでいた時も「バイユー」という言葉がずっと引っ掛かっていたんですが、 二日くらいして はっと思い出したんですよね、、 (こういう自分の記憶の出入りもちょっと不思議な感じがしますが)、、 「バイユー」= bayou
トム・ペティが歌っていた歌、だったんですよね。。 このブログにも前に書いていました、、「Lover of the Bayou」という歌のことも。。(
>>) もともとはザ・バーズの曲です。 こちらで聴けます⤵
The Byrds - Lover Of The Bayou
ググっていただければ歌詞も出てきます。 この歌詞にもヴードゥーの気配がありますね。。
トムとマイクとベンモントさんが一緒に演っていたマッドクラッチでのこの曲のMV⤵
Mudcrutch - Lover Of The Bayou
、、 いま この映像を見るのはつらいな。。 、、 トムの馬鹿… って どうしても思ってしまう、、
もうひとつ、、
この小説を読んで思い出した歌がありました。 、、浅川マキさんの 「朝日楼」
、、 あの歌で 「愛した男」は どこへ行っていたのか、、 どうして帰らなかったのか、、
「アタシ」がたどり着いたのが なぜ「ニューオーリンズ」だったのか、、
この小説のなかで描かれるいろいろと考え合わせると あぁ、、と ようやく胸を突かれる思いで分かる気がしました。
アニマルズのバージョンは女性の歌ではなくて、 男性の歌になっているんですよね。 それもやはりニューオーリンズで、 ギャンブラーの話。。 「朝日楼」の女性(少女かも)とか、、 ギャンブラーに身を落とし囚われる、、 そういうリアルさも、 この小説読んで街の描写とともに実感できたことのひとつかな。。
ミステリの謎解きとは別の部分で なんだかいろいろと感じることのできた読書でした。。
今朝の黎明、、
なんだか 東京じゃないみたい。。
あたたかくして、、
心がぽっとあたたかくなる曲を聴きましょうか… 昨日 見つけた美しいギター。。 マイク・ブルームフィールドのスライドのインスト曲 「When I Need You」
、、あ この曲知ってる、、 と思ったら オリジナルは Leo Sayerさんの歌。。 どちらもお薦め…