星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
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ヨン・バウエル(John Bauer)の描く妖精:ラーシュ・ケプレル著 ヨーナ・リンナ警部シリーズの話

2021-02-26 | 文学にまつわるあれこれ(林檎の小道)
前回(>>)のつづきです。

ラーシュ・ケプレル著 ヨーナ・リンナ警部シリーズの登場人物のなかには、 魅力的な女性が幾人もいます。 
ヨーナのアシスタントのアーニャ ―――元オリンピック水泳選手で元気で逞しく いつもヨーナにちょっかいを出すアーニャ。。 それからヨーナの秘密の恋人? 友人? ヨーナのひとときのやすらぎの相手ディーサ。。 そして、、 第4作『砂男』では特別な使命を受けて潜入捜査をする 公安警察の敏腕警部サーガ・バウエル。

サーガは第2作の『契約』から登場するのかな? 長い金髪に透き通った肌、 ほっそりとバレリーナのような体。。 彼女を見る誰もがその美しさに魅了され、 凶悪な殺人犯ですら彼女を特別視してしまうほど、、。

小説のなかでは 彼女を見る誰もが口々に同じことを言います、、 それが、、 (ヨン・バウエルの描く妖精みたい…) という感想。。

ヨン・バウエル (John Bauer)というのは スウェーデンの画家で、 20世紀初頭に活躍したイラストレーター、絵本挿絵画家なのだそうです。 小説の中ではサーガは なんとヨン・バウエルの末裔ということになっていて、 だからサーガ・バウエルという名前なのですね。

、、そんな風に書かれたら探してみないわけにはいきません。 ヨン・バウエルの描く《妖精》 、、でも 日本ではヨン・バウエルの絵本は出版されていないようです。 見つけたのが…


『北欧の挿絵とおとぎ話の世界』 海野弘 著、パイインターナショナル 2015年


本の表紙は以前にブログにも書いた(>>) デンマークの挿絵画家 カイ・ニールセンです。。 この本のなかにヨン・バウエルの描くトロルの物語や、 金色の長い髪をもつ王妃の物語などが紹介されていました。 ヨン・バウエルもカイ・ニールセンと同時代の画家なのですね。

ヨン・バウエルは、 36歳の若さで 船の事故でヴェッテルン湖に沈み 短い生涯を閉じました。 三歳の息子もその時いっしょに亡くなったということで、 だからヨン・バウエルの直接の子孫はいないのかもしれません。。 それとも サーガ・バウエルは ヨン・バウエルがどこかに遺した子供の末裔という設定なのかな……。 

https://en.wikipedia.org/wiki/John_Bauer_(illustrator)

ヨン・バウエル ミュージアムのHP (とても沢山のアート作品が見られます)http://www.johnbauersmuseum.nu/

 ***

ヨン・バウエルの描く絵画では 大きなお鼻のユニークでどこか可愛らしいトロールの姿が有名だそうですが、 そのトロルと一緒に描かれる森の妖精や王妃は、 みな腰の下まである長い髪で、 全身をおおうような金髪の姿や、 長い髪を三つ編みにして背中に垂らした姿で描かれたりしています。 
ミステリ小説のなかのサーガは、 仕事にあらわれる時は 長い髪にきれいなリボンを編み込んだような姿で書かれたりしていますから、  ヨン・バウエルの Fairy Tale の挿絵を見ながら (サーガってこういうイメージなんだろうな)と想像しているのです。

、、でも 事件を追う公安警部としてのサーガは、 ボクシングで鍛えた格闘技や 優秀なスナイパーの腕前で犯人と闘う つよいつよい《妖精》さん、なんですよ。


小説を読んで こんなふうに知らなかった素敵な画家や 音楽家や 文学のいろいろに新たに出会えるのはほんとうに嬉しい事。。 北欧ミステリには陰惨な事件や重い社会問題や、 ダークな側面もたくさんあるけれど、 ヨーナの聴く音楽や、 ヨーナのつくるフィンランド仕込みのお料理や、 ちょっとした北欧らしい暮らしの描写が新鮮で、 それが読む楽しみにも繋がっていく・・・


上記の ヨン・バウエル・ミュージアムにあった 北欧神話のオーディンの物語の絵も素敵♡ (Fädernas Gudasaga by Viktor Rydberg)

北欧神話もまた読みたいなぁ…




春は夢見の季節です……


よい週末を。

白樺の根の冠…:ラーシュ・ケプレル著 ヨーナ・リンナ警部シリーズの話『砂男』まで

2021-02-15 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)
2月も半ばです。。 ご無沙汰してます。。

スウェーデンのラーシュ・ケプレル作品の警察ミステリシリーズをずーーっと一気読みしておりました。


『催眠』 『契約』(友に貸出中) 『交霊』 『砂男』

読書記は このあと読むことになる5番目の小説『つけ狙う者』を読み終えたら書こうかな、、と思っているのですが、 書けるかどうか…

ストックホルムの国家警察所属の ちょっと謎めいたヨーナ・リンナ警部(Joona Linna)が主人公のシリーズ。 本国では シリーズ最後の8作目が昨年出版されたのかな?

日本では最初の『催眠』が2010年に出て、 翌年に『契約』が、 三作目の『交霊』が2013年に出た後、、 翻訳が止まってしまったらしいです。 このシリーズを私は昨年になって読もうかな、、と思い始めたところだったので良いのですけど、 もし『交霊』を8年前の当時に読んで それきり立ち消えになったまま続きが出るのかもわからず待たされていた人たちは いったいどんな気持ちだったんだろう…と 切実に思ってしまいました。。 だって… だって… 『交霊』の結末があまりにも衝撃すぎて…

このシリーズの魅力はなんといっても ヨーナ・リンナ警部自身の《謎》 、、一作ごとの事件もものすごく込み入った展開で読むのを止められない牽引力があるのですが、、 ヨーナが主人公でなかったら こんな風に全作品を読みたいと思ったか どうかな……

ヨーナ・リンナ警部、、 スウェーデン育ちみたいだけれどなぜかフィンランド人。 ヨーナの外貌も人柄も 過去も、、 ほんのちょっとずつしか明かされない。。 長身、 金髪はいつもぼさぼさ、、 花崗岩のような灰色の瞳、、 それくらい。。 自分のことの話になると ふっとはぐらかす…

ヨーナはクールなの? シャイなの? マッチョなの? 繊細なの? 頑固なの? 優しいの? 硬派なの? モテ男なの? つねにどっちにもとれるような描写。。 でも いつもどこか淋しそう、、

このシリーズ作品の著者ラーシュ・ケプレルという人物は覆面作家で、 結局 のちになってそれがもともと純文学作品の作家である夫妻ふたりの共同執筆であることが明かされたということですが、 もとが純文学作家だからなのか、、 たった一行でなにかを語らせるのが本当に巧い。。 事件そのものはわりと暴力的だったり、 凄惨だったりするのだけど、 ヨーナのする仕草とか、 語る言葉とか、 聴く音楽とか、、 なんでこの場面でこれ? というような妙に具体的な描写がぽこっといきなり、、 

それが とってもユニークで、 不思議で、、 だから一瞬で頭に残る。。 

ヨーナが歩きながらバナナの皮をゴミ箱に捨てた、、 とか。 シナモンロールの上にかかった砂糖のかけらをつまんで食べた、、とか(笑) 金髪、長身、、 花崗岩の瞳の40がらみの警部よ?
他に具体的なものが明かされないから、 だから読み手はこのヘンテコなヨーナの描写から想像というか、 妄想がひろがってしまう、、 (ヨーナ なんか可愛い…)って。。


一作品のなかで ほんの数行ずつくらいしか ヨーナの過去については語られないのですが、 ヨーナが仕事の合い間にたった独りで立ち寄る場所が ストックホルムにある 北方博物館。 そこでヨーナはたった独りで 展示品であるサーミ人の工芸品、 白樺の根でつくられた冠を一時間余りも見つめて過ごす…

、、検索しましたよ、、 北方博物館。

でも、 その中には目当てのものは見つけられなかったけれど、 サーミ人の白樺の根で作った工芸品は検索すると見つけられます。 たぶん ヨーナが見つめていたのはこういうものだったんじゃないかな、、と思われる nordic sami birch root bridal crown の画像も。。 (あ、ちょっとネタばれ。。 御免なさい!)

白樺の根の工芸品は 何年も、 百年以上も、 ずっともつのだそうです。 だから それで作られた冠は たいせつな儀式に。。

 ***

そのヨーナの過去が、、 3作目『交霊』の最後で衝撃的に語られる。

語られた後、、 それでどうなったの?? という問いを残したまま、、 翻訳は止まってしまっていたのですね。。 本当に、 あの時点で読み終えて待たされた人たちは いったいどんな気持ちだったんでしょう、、 想像するだけで涙が出てしまいます、、




そして 7年後の昨年、 やっとやっと 4作目の『砂男』が出版社を変えて翻訳されたのでした。 ほんとうに、、 私はつづけて読むことが出来た果報者ですけれど、 それでも (翻訳してくれてありがとう~~)と感謝せずにはいられませんでした。。

、、 『砂男』を読み終えて、 ヨーナの過去は知ることが出来たけれど、、 ヨーナの未来はまだまだ闇だらけ。。 シリーズ完結まで8作品なので まだ物語は折り返し地点。。 どうか順調に全作品が翻訳されますように、、。 (毎回、 起こる事件はかな~りセンセーショナルで凄惨だったりするので ワタシはそういうのは割と苦手なので、、 こんなことは物語の中だけで起こる事であってほしいと強く強く思わずにはいられないのですが…)


昨日はバレンタインデーでした。

今 いちばんチョコをあげたい人は、、 やっぱり ヨーナ・リンナ という事にしておきましょう。 物語の中では、 ヨーナのアシスタントのアーニャが キャラメルを剥いてヨーナの口に突っ込む、 というシーンがあるのですが(アーニャ可愛い!!)

ひと粒チョコレートの銀紙を剥いてヨーナの口に食べさせてあげたい。。 ハイ、あ~ん、、 じゃなくて 会話してる途中で有無を言わさず スッと、、 ね。。 アーニャみたいに。(⇦妄想)



ヨーナ・リンナ警部シリーズ その後の日記はこちら>>

 ***

そのまえに、、


ハーパーコリンズ・ジャパンさんの ゲラ読み募集に応募したら当選して原稿が送られてきました。 発売前のゲラ読み、って初めてです。 有り難く鋭意 読破したいと思います。 楽しんでます。





はやく あたたかくなあれ。。


はやく ワクチン打てますように。。