つい最近、 国立国会図書館のサイトに「レファレンス協同データベース」というものがあるのを知って、、
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/index.html
twitterにも『レファレンス協同データベース事業』の公式アカウントなるものを見つけました。↓
国立国会図書館関西館図書館協力課
全国の図書館などに寄せられた「~が知りたい。 ~を調べたい」という問い合わせについて、それを調べるにはどんな本があって、 どんな風に書かれているか、 という「お答え」をデータベース化したものです。 とても有意義な取り組みだと思うので、 ツイートされる質問など 興味深いものを折々に見ているのですが、、
自分の只今の関心事「漱石」についてはどんな質問があるのかなぁ、、と検索してみたところ、、(たくさんあるある)、、
漱石も好きだった英国のロマン派詩人、 パーシー・ビュッシー・シェリーの有名な詩「Ode to the West Wind」(西風の賦)に関するこんな質問を見つけました。
http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000139587
「イギリスのシェリーの詩の一節を「冬来たりなば春遠からじ」と訳したのは誰か。」伊万里市民図書館
http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000018502
「イギリスの詩人シェリーの詩の一節「冬来たりなば春遠からじ」を最初にこう訳したのは誰か。」埼玉県立久喜図書館
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この詩も、 この訳も、 とても有名ですし、 私も子供の頃からこの名文句だけは知っていて、 それがシェリーの詩だと大学生になってから判った時、 同様の疑問を抱いて調べたことがあります。 、、で、、 自分が判る事をせっかくだから書いてみたいと思います。
これは、昭和5年発行の 世界大衆文學全集第五十五巻 『冬来なば』 木村毅 訳 という本です。
上記の 伊万里市民図書館の解答欄でも 少し触れられていますが、 この『冬来なば』は、A.S.M. Hutchinson(ハッチンソン)>>
wiki という英国の小説家が、1921に出した
If Winter Comes という小説の邦訳です。
木村毅訳 『冬来なば』の序文には、 翻訳の初出は『女性改造』という雑誌だったと書かれています。 国立国会図書館のデジタルコレクションで検索した結果
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3555365?tocOpened=1
1924年の 8号(?)の目次に 『春遠からじ』ハツチンスン/木村毅 とあります。
先程の序文には、、 この翻訳の雑誌連載が三分の一ほど載った時、雑誌が廃刊になり、中絶。 その後、 上記文學全集の刊行にあたり、 未完部分を 寺田鼎が訳了して 本になったとのこと。
例の「冬来なば…」(…… O Wind, If Winter comes...)の文は、 小説の冒頭にエピグラフとして書かれているので、 訳者は木村毅氏ですが、
「この訳が『女性改造』に載り初めてから数ヵ月後、フォックス社の映画が日本へ舶載せられた。
フォックス支社には私の早くからの旧友なる清野忠夫(せいのたゞを)君が宣伝部長として務めてゐた」
・・・で、 その清野氏から訳語の使用許可を求められ、 承諾したところ、
冬来なば
春遠からじ
と訳してゐたシエリイの詩句を 「冬来(きた)りなば」とした。
「併し『来(きた)りなば」はやっぱり俗っぽい響があるので…」 「私は妥協して行く気になれない」
、、と、不満が書かれており、「意地を張り通して、元のまゝにしておく」と、 この本では『冬来なば』となっています。 そして、、清野氏がすでに故人であり、 「彼の霊前に、この訳書を贈るのは最もふさはしいと思ふ」と。。。
、、ですから、「冬来たりなば…」と最初に訳したのは誰でしょう? という質問を正確(?)に答えるとすると、 訳文を変更した 「清野忠夫」宣伝部長、ということになるのでしょうか?(笑) 結果的にこちらの言葉で広まってしまったのですね。
(以上、質問の載っていた上記各図書館へは 一応メールでお知らせいたしました)
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・・・・・・O Wind,
If Winter comes, Can Spring
be far behind?
――― Shelly
あゝ 風よ。
冬来なば、 春遠からじ。
(注:シェリーのスペルはPercy Bysshe Shelleyですが
本では後の[e]が抜けてます。が、本の通りにしておきます)
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立春も過ぎました。
昨日の東京は冷たい雨、、 そして雪。。 悲しいニュースも たくさん たくさん、、 あまりに悲しみや喪失感や無力感や憤りがいっぱいで、、 大好きなシェリーの「プロメテウス」の詩を想い出すのも 身体が抉られそうな気持ちになってしまうけれど、、
春遠からじ、、 春遠からじ、、 と願いたい。
、、肝心の 小説『冬来なば』(ハッチンソン作)の内容は、、 またいつか、、ということにしましょう。