prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「コルチャック先生」

2024年12月18日 | 映画
ナチスの収容所に向かう列車が止まり、扉が開いて子供たちが解放されるイメージで締めくくったラストが、現実にあったであろうこととコントラストをなしている分、痛ましく美しい。

ロビー・ミュラーの白黒撮影が、フィルムのグレインが輝くばかり。
脚本がアグニエシュカ・ホランド なのね。
日本だと加藤剛が演じた役だけど、似合いそう。




「ザ・バイクライダーズ」

2024年12月17日 | 映画
「最後の決闘裁判」の主演ジョディ・カマーを迎えたこともあってか「羅生門」式の証言による語り口を採用したと思しい。
エピソードの途中でぶち切って次のエピソードに唐突に移行してからまた唐突に戻るといった具合。その距離の置き方がライダーにはふさわしい。

写真集が原作という珍しいケースだが、なるほどバイクそのものやファッションなどヴィンテージものが揃っている感じ。





「白樺の林」

2024年12月16日 | 映画
兄弟の性格の違いの描き方が巧みで、白樺の林が伐られていくあたり、「桜の園」風でもある。

「めまい」や「ジョーズ」の使用例が有名な、通称逆ズーム(ズームアップと後退撮影あるいはズームアウトと前進撮影を併用したカメラワーク)があるのは意外だった。
具体的にいうと弟が窓のカーテンを落とした後の窓の外の撮り方。

ダニエル・オルブリフスキが子供にかなり手荒な真似をするのが今見ると気になった。1970年製作の映画なので、今とは感覚が違うのだろう。

馬車が走り去ったあとを二頭の犬がまっしぐらに追っていくのが印象的。

七階で開催されていたワイダ展もだが、かなり若い客が入っていた。




「ロトナ」

2024年12月15日 | 映画
タイトルは馬の名前。
疾駆する白馬のまわりの地面に砲撃が加えられるオープニング間もないシーンは今だったら絶対に動物虐待と見做されるなと思った。

馬が大量に出てくる「パン・タデウシュ物語」をワイダの予習でU-NEXTで見たものでなんだか黒澤明調みたいに見えた。




「ホワイトバード はじまりのワンダー」

2024年12月14日 | 映画
基本的な構想は「アンネの日記」みたいに不自由な環境に匿われているユダヤ人の話で、画面がグルーミーに暗く、その中で主人公ふたりがチャップリンをきっかけにスクリーンプロセスをアレンジしたみたいな映像効果で輝かしいニューヨークを空想する場面が秀逸。
匿われていたのはひとりだけではないのを知る展開が希望につながる。

今のイスラエルがやっていることを見ていると、単純にコンパスの針をまわしたみたいに被害者側が加害者側になったわけではないのはわかっているつもりだが、ある程度憮然となるのは避けられない。

ヘレン・ミレンが自分の若い時のナチス時代を語る形式で、ヘレンは1945年生まれだから10年がたズレているのだがあまり気にはならない。





「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」

2024年12月13日 | 映画
見たところ出てくる一万円札の束が福沢諭吉ばかりで渋沢栄一は見かけなかったと思うが、どういうことかな。実は混ぜると都合が悪い理由があるのだが、気がついたのはずっと後になってから。

内野聖陽が居並ぶプロの詐欺師たちの中であくまで素人で、税務署員という強権的になってもおかしくない立場でも、なんだかひどくびくびくしている。
ミッションとするとあくまで小澤征悦の脱税を摘発するのが目的で、コンゲーム式にひっかけて一杯くわせるのは岡田将生の担当ということになる。このあたりの目的のずれがひとつの軸になっていて、他のメンバーも、必ずしもチームワークがいいというわけではない。

仇役の小澤征悦なのだが、なんだか成金的な金持ちというわけでもなく、かといって日本映画式に貧乏くさいわけでもない。ロケセットなのか、古いけれど風格がついているわけではない建物を使っている。
「コンフィデンスマンJP」式に作りものっぽいハデな背景でメリハリをつけるのとは違う。

内野が前半のビリヤードでちゃんとフルショットで決めている。




「JAWAN ジャワーン」

2024年12月12日 | 映画
3時間の大作。長いことも長いが、長くなくてはいけない必然がある。言って見れば、襲名披露公演みたいなもの。シャー・ルク・カーンが変装芸こみというのもそれらしい。

何千人もの女を飲み込んだ女刑務所にひとりだけカーンがいて、一方でフェミニズムにも配慮している。ラブシーンでは唇を合わせなそうで合わせないのだね。暴力描写は相当なものなので、どうなっているのだろうと思う。

社会派的な要素のうち、相当にえぐいところと、言うと何だがインドならではの思い切り調子よく解決するところが両立している。





「キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱」

2024年12月11日 | 映画
グリア・ガーソン、ウォルター・ピジョン主演、マーヴィン・ルロイ監督による1943年の「キュリー夫人」と併せて見ると興味深い。ちなみにこれは戦後日本の洋画公開第一号。
ガーソン版はかなりストレートな伝記映画で、ラジウム発見までの苦心惨憺のプロセスがもっと描き込まれていて、きれいごとの偉人伝で済ませているのではないかという疑いもあったが、今見ても女性差別や外国人差別などの要素を外してはいない。
しかし戦時中の製作ということはもろに核兵器の開発と同時並行の製作だったわけで、こちらとすると複雑な気分にならざるを得ない。公開当時の日本の反応はどうだったのだろう。

一方このロザムンド・パイク主演版はキュリー夫人の最後の時から始まって、時間を遡りかなり大胆に時間空間を再構成する作りになっている。
明らかに時空を飛び越えて広島に原爆が投下されるところまで見せてしまう(もっともここは変な日本にみえてしまう)。
監督マルジャン・サトラピがイラン人でアニメ作家でもあるという抜擢もあって英米以外からの視点を入れようとしたと思しい。





「海の沈黙」

2024年12月10日 | 映画
「脚本 倉本聰」ではなく「作 倉本聰」というのは、役割を分担したスタッフとしての脚本家ではなく、全体の作者であることを示すのだろう。

絵画を描く映画というのは、ここで使われた絵にはそれなりの説得力はあるにせよ、それとは別にどうしても作中の絵画の作者と俳優との齟齬が感じられて絵そのものの出来とは別にすきま風が吹き込むように思えるのだが、ここでは塗りつぶされた絵の上に描かれた絵という仕掛けを持ち込むことで画面に出ない概念としての美の存在を示唆しているように思う。

本木雅弘と小泉今日子が昔アイドルだったことと、それぞれ違う境遇で過ごしてきたのを同時に表現している。

石坂浩二がかなり凝ったメイクで栄達した画家役をやっているが自身二科展入選の実績がある画家でもあるわけで、役と本人とをはっきり分ける必要があったのだろうなと思う。

清水美沙は美人の割に相当変な役をやること多いが今回もかなりのもの。









「ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US」

2024年12月09日 | 映画
DVの描き方が初めのうちクイックカットで何をやっているのかわからないくらいにして、あとの方でまとめてそういえば、とわかるようにあからさまに暴力を描かないよう慎重の上にも慎重な扱いになっていて、監督が主演も兼ねていると聞いてそのせいもあるのか、と思った。

オシャレ映画なのかと思ったらそうとうに違ってました。

後注 舞台裏はさらにドロドロしてました。詳しくはこちら





「ドリーム・シナリオ」

2024年12月08日 | 映画
予告編のニコラス・ケイジが他人の夢に出てくるというアイデアに、どういう風に展開するのかと思ったら、あまり展開しないで不明瞭に散発的に終わった感。





「正体」

2024年12月07日 | 映画
横浜流星のキャラクターの文字通りの正体がかなり終盤になるまでわからず、彼に関わった三人の男女のそれぞれ違う世界と三面鏡のようにときどき乱反射するような編集で綴る。
流星のメイクの変化もだが、見ようによってはどちらともとれるコントロールが巧み。
ラストが意外性ではなくそこに落ち着くかという納得がある。





2024年11月に読んだ本

2024年12月01日 | 映画
読んだ本の数:14
読んだページ数:3030
ナイス数:3

読了日:11月01日 著者:



 
読了日:11月05日 著者:野村 進




読了日:11月05日 著者:秋本治




読了日:11月10日 著者:大塚 康生




読了日:11月12日 著者:向田 邦子




市川崑監督の現場は太陽をビニールて覆って真横からライトを当てたり、標準レンズでなくズームの望遠を使ったりといろいろな実験的な技法を使っていたというのにほほおと思う。 「復活の日」ではエンドタイトルにスタッフ全員は乗らなかったのを、深作欣二監督がいいからやっちゃえの一言でサード助監督の手塚氏の名前が載ったという。それまではセカンドまでだった。 今みたいにスタッフ全員の名前がえんえん出るようになったのは「スターウォーズ」以降だという。
読了日:11月15日 著者:手塚昌明


読了日:11月17日 著者:鮫島 吉廣,髙峯 和則




読了日:11月17日 著者:秋本治








P179の「ビーグルは舞い下りた!」The Beagle Has Landed!とはジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」The Eagle Has Landedのもじりですね。



読了日:11月23日 著者:向田 邦子




読了日:11月23日 著者:ギュスターヴ・ル・ボン




或シナリオと称されていても、ト書きとセリフからなるいわゆるシナリオの形式はとっておらず、箇条書きで視覚的な描写を連続させてはいるのだが、実際に映像化しようとしたら相当な困難が伴うだろう。川端康成の「狂った一頁」のシナリオというのはこうもあっただろうか。
読了日:11月26日 著者:芥川 竜之介



読了日:11月27日 著者:坂口安吾


「ぼくとパパ、約束の週末」

2024年11月27日 | 映画
小学一年生のとき、同級生に今思うと発達障害らしい子がいて、休み時間になってもどういうつもりか校庭でタイヤの味噌すり運動をじいっと凝視していて先生たちがよってたかって教室に戻るよう言ってきかせても全集中で、結局特殊学級に転校していった。
発達障害児を他の生徒と混ぜて教育すべきかどうか日本でも議論が存ずるところだが、ドイツではこうやって混ぜるのがどの程度一般的なのだろうと思った。いじめられるのは目に見えているもの。

肉体的な障害と違って一見他と変わらないのにわがままを言っていると思われ、実際列車の中でパスタとソースがきちんと分けられず少し触れているとパニックになって口うるさいおばさんに叱られる。
父親が板挟みになって気の毒とも思うが、へこたれそうなところをタフに乗り越えていくのが頼もしい。





「にっぽんぱらだいす」

2024年11月26日 | 映画
娼婦たちがプラカードを持って労働組合よろしくデモをするなんてシーンがある。労働者には違いないわけだが。先日見た「五番町夕霧楼」(1963)でも団結して交渉するシーンがあった。
彼女たちが大挙して引っ越していくラストでロシア民謡が流れるあたり、社会主義的なカラーが当時はかなり一般的だったのかなと思わせる。

菅原通済本人が字幕つきで登場するので、どんな人なのか調べてみたら小津安二郎のタニマチ的な実業家にして政治家。小津作品に出演もしている。麻薬・売春・性病の三悪追放を唱えて、そんなこと言えるのも自分が女遊びを堪能したからだろうなどと陰口を叩かれた。

売春禁止法が公布されたのが1956年、施工が57年で、この映画の公開が1964年だから、溝口健二の「赤線地帯」の1957年がもろに法律に制定をめぐって動いていた時期なのには及ばないが、タイムリーな企画だったとは言える。