prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「人生は、ときどき晴れ」

2003年08月10日 | 映画
飢死するほどではない、どころかアル中になったり食い過ぎて身体をおかしくするくらい“豊か”だが、将来良くなる見通しはない中途半端な貧困。イライラ、閉塞感、キレかかっている奴、など明日の、あるいは今の日本そっくりのイギリスの姿。

美男美女が一人も出てこない、若い女たちまでみんな着た切り雀というむさ苦しさで、見て楽しいものきれいなもの笑えるものはまるでなし。これがよその国の映画でなかったら途中で失礼したかもしれない。

もっとも、翻って考えてみると、今の日本映画はかつての最大の得意技だったビンボーリアリズムがまるでできなくなっている。描かれている状況はいちいちこっちにも思い当たるのだが、こういう役者の演技や画面の質感などがどうしても出ない。撮影はフジフィルムでプリントがイギリスのデラックスカラー(とクレジットされた)というのが、なんか皮肉。

これだけやりきれない状況を重ねていって暴発には走らず、夫婦の愛している愛していないという会話に煮詰まる。それが言葉の上で完結するのではなく、その裏にある言葉にできないことがくっきり見えてくるクライマックス。

発音や容貌から東洋系というか国籍不明の(あとで聞いたら、フランス人?らしい)、唯一の金持ちの登場人物であるタクシーの客がトンネルの中で息苦しいと文句を言う皮肉。トンネルをくぐるとまったく別世界である豪華ホテルが現れる象徴性。

医者のどこか無神経な態度や、タクシー会社の経営者が黒人で、世にも勤務態度の悪い従業員との関係をほんの数個の台詞でくっきり暗示したみせる描写力の冴え。
劇中の登場人物たちは携帯は使っているが、PCを使っている様子はない。
(☆☆☆★★★)


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