prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「マスターズ・オブ・ホラー ゾンビの帰還」

2007年08月15日 | 映画
戦争で亡くなった兵士たちに対して生きて戻ってきてもらえたらと願わずにいられないなどと大統領のスピーチライターがテレビで口先で喋ったら、あろうことか本当に兵士たちがゾンビになって戻ってきて、しかも大統領選挙で対立候補に投票してからまた死ぬ、というすごい展開を見せる。
原題はただのHomecomingで、兵士の帰郷という意味の方が強いだろう。

戦争の犠牲になった上に死人に口なしとばかりに国家主義に利用されて変に美化されていた死んだ兵士たちが、ゾンビになって自分たちの主張を繰り広げるという着想が痛快。
美人(!)保守派論客女だのキリスト教右派の牧師だの、ブッシュ政権周辺を実際にうろうろしているような連中が、兵士たちが自分たちを支持すると思い込んでいる無神経ぶりの描写もリアル(日本で言うなら保守論壇が「英霊」をダシにしているようなもの)だが、批判されていると知ると掌を返してゾンビはリベラルより頭が悪いだの地獄に落ちる(!)だのといった死ぬほどバカな主張を始めるのがリアルすぎて笑ってしまう。

ジョー・ダンテのコメディセンスは「グレムリン」あたりではマンガ的な悪ふざけみたいであまり好かなかったが、ここでの攻撃する相手を定めた上での破壊力は相当なもの。

ゾンビものの原点である「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、ベトナム戦争と公民権運動のアナロジーだと言われており、一人だけ生き残った黒人があっさり白人に射殺されるラストもそうだし、特殊メイクアップ・アーティストのトム・サヴィーニはベトナムで従軍カメラマンをしていてそこで見た死体のありさまを再現したのだという。なんか最近のゾンビもののメイクはあまり迫力ないような気がしていたが、「本物」を知っているのかどうかという違いがあったのかもしれない。
イラク戦争たけなわの今、ゾンビもまた皮肉にも再生産されたよう。
(☆☆☆★★)


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