ソ連による日本兵のシベリア抑留と強制労働はよく知られているが、ソ連の衛星国になったモンゴルの建国にも日本兵の強制労働があったということは、正直初めて知った。
抑留中にモンゴル人女性との間に娘をもうけた元日本兵(麿赤児)が、復員後実業家として成功したが、息子が早く死に跡継ぎたるべき孫(柳楽優弥)が金に飽かせて遊び呆けているので、日本で麿の持ち馬を盗み出して東京の街を走らせたモンゴル人をガイドにモンゴルにいる娘を探しにやらせる。
こうやって書いてみてもまわりくどくて建てつけが良くない話で、それだけ成功しているのだったら早いとこまともな調査能力のあるスタッフに娘を探しにやらせたらいいのではないかとか、あんな広い平原でどうやって探すのかとか、それ以前にまずモンゴル抑留というのが具体的によくわからない。
戦争とその後の処理をストーリーに絡ませるにはあまりに描写が手薄。
シベリア抑留のイメージを応用するしかないのだが、不可侵条約を一方的に破ってきたソ連と極寒のシベリアと平原が続くモンゴルではずいぶん国のありようも視覚的にも違う。
モンゴルと日本との関わりを描くのだったら、それこそモンゴル出身の力士のスカウトの話にでもした方が自然ではないか。
あと、子供がいるのに帰国した後連絡をとった形跡もないというのは森鴎外の「舞姫」ではあるまいし、今では受け入れにくい。
現代の在日モンゴル人が何を思って馬を盗んで道路を走らせたのか、モンゴル人から見ると不自然に人工的な環境にいる馬を解放したかったらしいと思うほかないのだが、それもなんとなくそう解釈するしかないという程度にとどまる。
モンゴル平原のおおらかな風景はさすがに魅力的。
もっとも平原で立ち小便するというイメージはユーモラスというにはあまりセンスよろしくない。
柳楽優弥は日本でカネを持て余して遊び呆けている時とモンゴルの自然の中では目付きがまったく変わる、というかそちらの方が本来の持ち物だろう。
モンゴルの人気俳優だというアムラ・バルジンヤムの茫洋とした佇まいも魅力的。こういうとなんだが、ちょっとピエール瀧に似てると思った。