「火星の運河」は完全な実験映画。まったく音が出なかったりして、上映ミスかと思ったくらい。
「芋虫」は、戦争の匂いをほとんど払ってしまった(つまり芋虫のようになった夫に妻が尽くさなくてはならないタテマエが消えた)のが、かえってどろどろした感じを薄くした感じ。
「蟲」は、美術がずいぶん凝っているのが見もの。乱歩だからって泥臭くしないでポップに仕上げました。代わりに流れはブツ切れ気味。
で、実はほとんど「鏡地獄」が目当てで行ったようなもの。
タイトル文字が全部左右反対になって出るという凝りっぷりがまず嬉しい。
原作は中学生の時に読んだっきりなのでうろ覚えだが、鏡やレンズなど光学機械とその作用に取り付かれた男が最後球形の鏡に閉じこもって発狂して出てくるまでを、その友人の目を通し
て描いていたと思う。
その映像化不可能なクライマックスは台詞や脇の情景に持っていって、鏡に閉じこもる=ナルシズムという切り口でまとめている。(脚本・薩川昭夫)。
明智小五郎は原作には出てこないが、男が美男子ばかりで女がおよそ綺麗に撮られていないのは、意識的なのでしょうねえ。
それに合わせて睡蓮(ナルシス)の花を初めの方に出しておくペダントリー。
鏡とその上薬を使った殺人方法というのは、ほとんど「怪奇大作戦」ばりの荒唐無稽さ。
実相寺昭雄は短編の方がいい。
これだけ独立して(☆☆☆★★)
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