マドンナのナイショ話

あなたに話したいあれこれ

ニューヨーク恋物語(第2章・東京編)

2005年05月14日 | エッセイ
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northwest

待つという行為が
これほど長く感じたことはあっただろうか。
今日子は到着ロビーの椅子に腰を下ろして
何度も手鏡を見た。
今、一番きれいな自分で大沢に会いと思った。
それは今日子の女心である。
胸の高鳴りとともに何度も髪を撫で、化粧直しをした。

到着のざわめきがロビーに広がった。
今日子は席を立ち大沢を探した。
その奥からこちらに向かって歩いて来る大沢を見つけた。
大沢もまた今日子を確認した。

少しはにかんだような顔で大沢が今日子の前に現れた。
「ただいま」と言った。
今日子は「お帰りなさい」と笑顔で迎えた。
少し日焼けした大沢がそこにいた。
そしてやや痩身になった大沢が素敵に思えた。

大沢もまた今日子の髪が長くなったことを感じた。
大沢は髪の長い今日子が好きだった。
照れ隠しに右手で髪を撫でる今日子のしぐさが
今でもたまらなく可愛いと思っている。
長く美しい今日子の髪を夢に見ることがあった。
夢の中の今日子はいつも笑っていた。

二人は空港の駐車場に向かった。
そこで待っていたのは大沢の愛車だった。
愛車のレジェンドは、大沢の渡米中今日子が使っていた。
大沢は今日子をサイドシートに乗せると運転席に着いた。
エンジンをかけると一年前の二人に戻った。
大沢はよく今日子をサイドシートに乗せてドライブした。
横須賀、湘南、茅ヶ崎・・・今日子の好きな海だった。

バックミラーに目をやると「雪の日のうさぎ」のマスコット。
BGMは二人が好きなユーミン。
スイッチONにすると「ANNIVERSARY」の曲が流れた。
すべて大沢と今日子の思い出に繋がってゆく。

yuhi

空港をあとに高速道路を走ると
夕暮れが迫って来た。
西の空がロゼ色に染まり始めた。
これから始まる大沢と今日子の
甘い時間を祝福するかのような色だった。
その色は今日子のときめきの色でもあった。

今度は一週間の滞在だ。
会えたことへの安堵と
この瞬間から別れの時間が迫ってくる焦燥感。
今日子は大沢の時間を独り占めしたいと思った。
片時も大沢から離れたくないと思った。
大沢が愛しいと・・・
こんなにも愛しているのにと・・・
その想いは堰を切ったように流れ出した。

大沢は「今日子」と名前を呼んだ。
今、耳元で囁きかける大沢の声に、夢なのかと今日子は頬をつねった。
少しも痛くない。
夢と同じように痛くない。
これは夢かもしれないと思うだけで涙が溢れてきた。

「バカだな、泣くなんて。君のところに帰って来たのに・・・」

「・・・・  ・・・・  ・・・・」

今日子は言葉が出なかった。

二人を乗せた車は汐留に向かって走り続けた。

               
                  つづく





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ニューヨーク恋物語(第1章・東京編)

2005年05月07日 | エッセイ
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north050507
爽やかな5月の風が肌に心地よい。
桜の季節が終わると待っていたかのように
花たちが次から次へと咲き始め
木々が瑞々しい新緑におおわれる。
初夏の陽気を思わせるような一日だった。

そんな夕暮れ時、今日子は空港の到着ロビーにいた。
半年ぶりに大沢がニューヨークから帰国する。
今日子にとってこの半年は辛い毎日だった。
大沢がニューヨークに行って一年の歳月が流れた。
大沢のいない東京は乾いた大都会でしかなかった。

一年前、大沢は汐留のレストランに今日子を誘った。
ニューヨーク勤務の辞令が下りた夜だった。
大沢の背広のポケットには、今日子の誕生石の指輪が入っていた。
それを今日子に渡して
「一緒にニューヨークに来て欲しい」と言うつもりだった。

忙殺された年度末にはなかなか会えなくて、やっと会えた二人。
今日子はいつになくいきいきとしていた。
今日子は新しいプロジェクトチームに参加することが決まり
目を輝かせていた。
今日子が夢にまでみたプロジェクトだった。

大沢はポケットから指輪を出すのを躊躇った。
やっと手応えのある仕事に就いた今日子に
大沢はプロポーズして
ニューヨークに連れて行くことが出来なかった。

時が流れて、二人は海を隔ててお互いを見つめ合った。
時差のある日常の中で、二人は毎日メールしあった。
デスクでの仕事の合間に、カフェでコーヒーを飲みながら
夜自宅のリビングから・・・一日何度もメールした。

メールとは、愛する者同士には切ない意思表示だ。
心の温もりは感じられても、肌の温もりが感じられないからだ。
同じ月を・・・同じ星を・・・同時に見られない時差の壁。
ひとつ歯車が狂い始めると、歯止めが効かなくなりそうだった。

半年前に一度帰国した大沢に会った時
今日子はプロジェクトチームを逃げ出したいと思った。
女の幸せとは何かを考えた。
大沢と一緒にニューヨークに行きたい衝動に駆られた。
そんな想いで半年が過ぎ、そして一年が過ぎた。

まもなく大沢が到着ロビーに現れる。
今日子は胸の高鳴りを抑え切れない。
19時に汐留のレストランを予約した。
二人の思い出のレストランだ。

言葉は多くいらない。
メールでどれほど送信したことか。

愛している
I love you(アイ ラブ ユー)
Ich liebe dich(イッヒ リーベ ディッヒ)
Je t’aime(ジュ テーム)
Ti amo(ティ アモ)

今日子は大沢の肌の温もりが欲しかった。
理屈などいらない。
ただとろけるように大沢に抱かれたかった。

成田着16時40分。ノースウエスト航空17便。
定刻通りの到着。

                つづく
northwest050507


                




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