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待つという行為が
これほど長く感じたことはあっただろうか。
今日子は到着ロビーの椅子に腰を下ろして
何度も手鏡を見た。
今、一番きれいな自分で大沢に会いと思った。
それは今日子の女心である。
胸の高鳴りとともに何度も髪を撫で、化粧直しをした。
到着のざわめきがロビーに広がった。
今日子は席を立ち大沢を探した。
その奥からこちらに向かって歩いて来る大沢を見つけた。
大沢もまた今日子を確認した。
少しはにかんだような顔で大沢が今日子の前に現れた。
「ただいま」と言った。
今日子は「お帰りなさい」と笑顔で迎えた。
少し日焼けした大沢がそこにいた。
そしてやや痩身になった大沢が素敵に思えた。
大沢もまた今日子の髪が長くなったことを感じた。
大沢は髪の長い今日子が好きだった。
照れ隠しに右手で髪を撫でる今日子のしぐさが
今でもたまらなく可愛いと思っている。
長く美しい今日子の髪を夢に見ることがあった。
夢の中の今日子はいつも笑っていた。
二人は空港の駐車場に向かった。
そこで待っていたのは大沢の愛車だった。
愛車のレジェンドは、大沢の渡米中今日子が使っていた。
大沢は今日子をサイドシートに乗せると運転席に着いた。
エンジンをかけると一年前の二人に戻った。
大沢はよく今日子をサイドシートに乗せてドライブした。
横須賀、湘南、茅ヶ崎・・・今日子の好きな海だった。
バックミラーに目をやると「雪の日のうさぎ」のマスコット。
BGMは二人が好きなユーミン。
スイッチONにすると「ANNIVERSARY」の曲が流れた。
すべて大沢と今日子の思い出に繋がってゆく。
空港をあとに高速道路を走ると
夕暮れが迫って来た。
西の空がロゼ色に染まり始めた。
これから始まる大沢と今日子の
甘い時間を祝福するかのような色だった。
その色は今日子のときめきの色でもあった。
今度は一週間の滞在だ。
会えたことへの安堵と
この瞬間から別れの時間が迫ってくる焦燥感。
今日子は大沢の時間を独り占めしたいと思った。
片時も大沢から離れたくないと思った。
大沢が愛しいと・・・
こんなにも愛しているのにと・・・
その想いは堰を切ったように流れ出した。
大沢は「今日子」と名前を呼んだ。
今、耳元で囁きかける大沢の声に、夢なのかと今日子は頬をつねった。
少しも痛くない。
夢と同じように痛くない。
これは夢かもしれないと思うだけで涙が溢れてきた。
「バカだな、泣くなんて。君のところに帰って来たのに・・・」
「・・・・ ・・・・ ・・・・」
今日子は言葉が出なかった。
二人を乗せた車は汐留に向かって走り続けた。
つづく
待つという行為が
これほど長く感じたことはあっただろうか。
今日子は到着ロビーの椅子に腰を下ろして
何度も手鏡を見た。
今、一番きれいな自分で大沢に会いと思った。
それは今日子の女心である。
胸の高鳴りとともに何度も髪を撫で、化粧直しをした。
到着のざわめきがロビーに広がった。
今日子は席を立ち大沢を探した。
その奥からこちらに向かって歩いて来る大沢を見つけた。
大沢もまた今日子を確認した。
少しはにかんだような顔で大沢が今日子の前に現れた。
「ただいま」と言った。
今日子は「お帰りなさい」と笑顔で迎えた。
少し日焼けした大沢がそこにいた。
そしてやや痩身になった大沢が素敵に思えた。
大沢もまた今日子の髪が長くなったことを感じた。
大沢は髪の長い今日子が好きだった。
照れ隠しに右手で髪を撫でる今日子のしぐさが
今でもたまらなく可愛いと思っている。
長く美しい今日子の髪を夢に見ることがあった。
夢の中の今日子はいつも笑っていた。
二人は空港の駐車場に向かった。
そこで待っていたのは大沢の愛車だった。
愛車のレジェンドは、大沢の渡米中今日子が使っていた。
大沢は今日子をサイドシートに乗せると運転席に着いた。
エンジンをかけると一年前の二人に戻った。
大沢はよく今日子をサイドシートに乗せてドライブした。
横須賀、湘南、茅ヶ崎・・・今日子の好きな海だった。
バックミラーに目をやると「雪の日のうさぎ」のマスコット。
BGMは二人が好きなユーミン。
スイッチONにすると「ANNIVERSARY」の曲が流れた。
すべて大沢と今日子の思い出に繋がってゆく。
空港をあとに高速道路を走ると
夕暮れが迫って来た。
西の空がロゼ色に染まり始めた。
これから始まる大沢と今日子の
甘い時間を祝福するかのような色だった。
その色は今日子のときめきの色でもあった。
今度は一週間の滞在だ。
会えたことへの安堵と
この瞬間から別れの時間が迫ってくる焦燥感。
今日子は大沢の時間を独り占めしたいと思った。
片時も大沢から離れたくないと思った。
大沢が愛しいと・・・
こんなにも愛しているのにと・・・
その想いは堰を切ったように流れ出した。
大沢は「今日子」と名前を呼んだ。
今、耳元で囁きかける大沢の声に、夢なのかと今日子は頬をつねった。
少しも痛くない。
夢と同じように痛くない。
これは夢かもしれないと思うだけで涙が溢れてきた。
「バカだな、泣くなんて。君のところに帰って来たのに・・・」
「・・・・ ・・・・ ・・・・」
今日子は言葉が出なかった。
二人を乗せた車は汐留に向かって走り続けた。
つづく